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世に出るかもしれなかった“幻の”ファミコンゲームに思いを馳せる『ファミコン発売中止ゲーム図鑑』

2021.04.20 Vol.740

 昭和レトロブームが叫ばれて久しい昨今、新たな懐かし本が誕生した。本書はゲーム雑誌の新作情報や発売予定リスト、広告などで発表され、その後さまざまな事情から発売されなかった“幻の”ファミコンゲームを紹介するガイドブックだ。

 第1章では雑誌や広告でタイトルやビジュアルが発表されたにもかかわらず、いわゆるお蔵入りとなってしまった発売中止ゲーム151タイトルを特集。第2章では無事に発売されたものの、事前情報と製品版で内容が異なるゲーム167タイトルが網羅されている。「図鑑」の名の通り過去の雑誌や広告を交え、イメージビジュアルやサンプル画面などの資料とともに、世に出なかったタイトルへの考察をまとめている。

 1985〜1994年当時の膨大な資料から発掘された“あるようでなかった”ソフトたちは、よくこんな資料を見つけたものだという驚きと、こんなソフトもあった(かもしれない)というノスタルジーに満ちている。章の後半はファミコンの趨勢にも言及され、コンピュータゲームの歴史書としても興味深い。

映画『すばらしき世界』のベースとなった実録小説『身分帳』

2021.03.19 Vol.739

 これまでオリジナル脚本にこだわって作品を発表してきた西川美和監督が、初めて原作ものに挑戦したことで話題の映画『すばらしき世界』。その原案となった本書は、直木賞作家の佐木隆三が実在の人物をモデルにしたノンフィクション小説である。

「身分帳」とは正式には「被収容者身分帳簿」といい、刑務所に収容された受刑者の入所態度や経歴、行動、家族関係などを詳細に記載した書類のことだ。主人公である山川一のような十犯六入、つまり前科10犯、入所回数6回のベテラン受刑者となると厚さは1mにも及ぶのだという。本書は人生の大半を刑務所で過ごし、13年ぶりに塀の外の世界に出た男の再出発を描いた物語だ。

 作品に惚れ込んだ西川は山川のモデルとなった人物に迫るべく、3年にわたるリサーチの末に舞台を現代に置き換えて脚本を執筆。長らく絶版だった本書も映画化に合わせて復刊した。後日譚の「行路病死人」や復刊にあたって西川が寄せた文章も収録され、映画と共に人生を考えさせられる一冊だ。

漫☆画太郎が絵本作家デビュー!笑本『ももたろう』制作秘話

2021.02.22 Vol.738

 ギャグマンガ界の鬼才が「ガタロー☆マン」として描いた『笑本(えほん)おかしばなし1 ももたろう』(誠文堂新光社)がヒットしている。同社で背景を聞いた。

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写真家「岩根愛」写真誌『Decades』創刊 10人の写真家が「時間」テーマに競作

2021.02.20 Vol.738

 第44回木村伊兵衛写真賞受賞の写真家・岩根愛が、新たな写真雑誌『Decades』(赤々舎)を創刊。コロナ禍で“時間に対する感覚の変容”を感じた岩根が石内都、アントワーヌ・ダガタ、駱丹、ERIC、キム・ジンヒ、沈昭良、石川竜一、ベク・スンウ、マンデラ・ハドソンら10人の写真家に呼びかけ。2020年と2000年、それぞれの時間を凝縮した写真とエッセイを収めた。表紙は全10種(内容は同一)、日英バイリンガル。

海外での生活ぶりから見える人間「中谷美紀」 文庫『オーストリア滞在記』

2021.02.18 Vol.738

 俳優・中谷美紀といえば、多少芸能界に疎い人間でも何らかの作品には触れているような存在だが、その私生活は謎に包まれている(ような気がする)。本書は2018年にヴィオラ奏者のティロ・フェヒナーとの結婚を発表し、生活拠点をオーストリアに移すことを発表した中谷が、オーストリアでの私生活をありのままに綴った一冊だ。

 昨年の5月1日から始まり7月24日に帰国するまでを書き下ろした滞在日記には、映画祭や記者会見などで流暢な英語やフランス語を披露する中谷がドイツ語と格闘し、コロナ禍でできた時間に庭仕事に励み、夫と元パートナーの間にもうけた娘との交流まで率直に明かしている。料理や買い物、掃除などといった日々の雑事を当たり前にこなす姿など、意外なほど地に足の着いた生活ぶりを見せる。

『インド旅行記』シリーズなど、文筆家としても活動する中谷の久々の新刊。華やかな容姿や変幻自在な演技の裏に潜む人間「中谷美紀」が面白い。

今すぐ読みたい話題の本 文学界のニューウェーブ「推し」VS「マッチングアプリ」

2021.02.14 Vol.738

 第164回芥川龍之介賞(2020年下半期)が発表された。ロックバンド「クリープハイブ」のボーカル・尾崎世界観のノミネートでも注目を集めたが、受賞作は宇佐美りんの『推し、燃ゆ』(河出書房新社)に決定した。

 99年生まれの現役大学生の宇佐美。第33回三島由紀夫賞を受賞したデビュー作『かか』に続く2作目で初ノミネート、さらに綿谷りさ、金原ひとみに次ぐ史上3番目の若さでの受賞として話題となった。受賞会見では若さについても質問が上がり、「自分としてもまさか21でというか、自分の予定よりも早かった」と素直な感想を述べている。

『推し、燃ゆ』は、学校生活も家族関係もままならない高校生のあかりが主人公。唯一の生きがい(=「推し」)は、アイドルグループ「まざま座」のメンバー・上野真幸だったが、ある日「推し」がファンを殴って炎上したというニュースが飛び込んできて……というもの。受賞後9日間で単行本の累計発行部数は20万部を突破。コロナ禍以前から厳しいといわれる出版業界、特に文学界にとっては久しぶりの明るいトピックといえるだろう。

「おうちコーヒー」指南書の決定版!『淹れる・選ぶ・楽しむ コーヒーのある暮らし』

2021.01.22 Vol.737

 新型コロナウイルスの感染拡大による「おうち時間」で、さまざまなことに挑戦した人は多いだろう。前回の緊急事態宣言中におうちでゆっくりコーヒーを淹れる人が増え、コーヒー豆やコーヒー用品が売れたというのもうなずける。

 いざ、おうちでコーヒーを淹れる際に、どんな豆を選んで道具を手に入れれば良いか分からないという人のために、スペシャルティコーヒー専門店「丸山珈琲」の鈴木樹バリスタが監修するのが本書。

 ペーパードリップやフレンチプレス、サイフォン、マキネッタなどのさまざまな抽出方法の具体的なステップを、初心者にも分かりやすくイラストや写真を多用しながら解説している。

 自分好みの味の見つけ方や16種類のアレンジコーヒーレシピ、コーヒーとのフードペアリングなども紹介し、おうちで至福の一杯を味わうのに最適の一冊だ。コーヒーショップやカフェ、昔ながらの喫茶店など外で飲むいろいろなコーヒーの楽しみは、外出できるようになった時のために取っておきたい。

【学研の図鑑】キン肉マンの次はスーパー戦隊!ゴレンジャーからゼンカイジャーまで掲載

2021.01.19 Vol.web Oliginal

 2020年に創刊50周年を迎えた「学研の図鑑」シリーズ。そのカラフルな水玉を表紙にあしらった表紙は、1970~80年代に子ども時代を過ごした人にとっては、家庭や学校での懐かしい思い出という人も多いのでは? そんな本シリーズに『学研の図鑑 スーパー戦隊』が登場する。

【今すぐ読みたい話題の本】柳美里『JR上野駅公園口』英語版が「全米図書賞」の快挙

2020.12.31 Vol.736

 アメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」の翻訳文学部門を、柳美里著『JR上野駅公園口』(河出書房新社)の英語版『Tokyo Ueno Station』(モーガン・ジャイルズ訳)が受賞した。翻訳文学部門は2018年に新設され、多和田葉子著『献灯使』の英語版 『The Emissary』(マーガレット満谷訳)が日本の文学作品として36年ぶりに受賞。今回の受賞はこれに続く快挙だという。出稼ぎのために上野駅に降り立った福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の男の生涯を通じ、高度経済成長の光と闇、社会の片隅に追いやられた人々を描く。受賞直後に文庫版がAmazon.jpの書籍総合ランキング1位を獲得するなど話題を呼び、発行元は文庫版と単行本それぞれ緊急重版を決定した。

TikTokで話題!7万5000部を増刷 人気の文庫『あの花』の続編が発売

2020.12.30 Vol.736

 汐見夏衛著『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)が、読者の「TikTok」投稿をきっかけに「大号泣」「映画化してほしい」の声が殺到。6月から3カ月間で異例の7万5000部増刷、累計発行部数10万部を突破した。母とケンカして家を飛び出した百合。目を覚ますとそこは戦時中の日本だった――。28日に続編『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』も発売。刊行を記念し2冊セットで3名にプレゼント。(係名:「あの花/あの星」)

<プレゼントの応募について>
【応募の〆切】2021年1月11日(金)23時59分
以下のリンクのフォームからご応募ください。
http://www.campaign-kenshou.com/campaign.php?id=4164

闇と光の対比が美しいjunaidaの傑作絵本『怪物園』

2020.12.24 Vol.736

 はるかいにしえの時代から、たくさんの怪物たちをのせて長い長い旅をつづけていた「怪物園」。ある静かな夜のこと、怪物園がうっかり玄関口をあけたまま、いびきをかいてウトウトしていたあいだに、怪物たちが外の世界へとぬけだして……。

『Michi』『の』など、繊細であたたかみのある絵で、独特な世界観の絵本を世に送り出してきた画家・junaida(ジュナイダ)。新作絵本では、生き物のような建物のような「怪物園」から抜け出し、街までやってきて通りを行進する怪物たちと、彼らをよそに空想の旅に出かける子どもたちを描いた。

 怪物たちの闇の世界と、子どもたちの光の世界の対比が美しく、現実と空想が混じり合うように物語が展開していく。何日も行進をつづける怪物と、外で遊べなくなった子どもという構図は、どこか今日的なテーマとも重なる。

 本体表紙の透明箔押し、黒の見返しにかけて印刷された一枚絵など、祖父江慎と藤井瑶(cozfish)の装丁がまた素晴らしい。

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