リノベーションの基本的な定義
リノベーションは、中古住宅に対して機能・価値の再生のための改修を行い、その家での暮らし全体に対処した包括的な改修を指します。英語の「renovation」は修復・刷新を意味し、主に既存の建築物に改修を加え、価値を高めることを表します。
一般社団法人リノベーション協議会では、以下のように定義されています。
- 機能・価値の再生のための改修
- その家での暮らし全体に対処した包括的な改修
- 現状よりも性能を向上させる改修工事
リフォームとの違い
リフォームとリノベーションの違いは重要なポイントです。リフォームは原状回復のための修繕営繕で、不具合箇所への部分的な対処を指します。一方、リノベーションは機能・価値の再生のための改修で、その家での暮らし全体に対処した包括的な改修を意味します。
具体的な違いを整理すると以下の通りです。
- リフォーム:老朽化した建物を新築の状態に戻すこと
- リノベーション:大規模な工事を行い、住まいの性能を新築の状態よりも向上させたり、価値を高めたりすること
工事の規模の違い
工事の規模も両者の大きな違いとなります。リフォームは壁紙の貼り替え、キッチンやユニットバス設備の交換、外壁の塗り替えなど部分的な改修が中心となります。一方、リノベーションは間取りの変更、水道管や排水管の変更など大規模な改修が対象となります。
最近では、内装や壁、屋根などをすべて取り払い、建物の躯体構造のみにしてからリノベーションする「フルリノベーション」も注目されています。
リノベーションの種類と特徴
リノベーションには改修範囲や工事内容によって、さまざまな種類があります。主な分類方法を紹介します。
改修範囲による分類
- フルリノベーション:既存の家全体を改修するタイプ。構造躯体だけを残して全面的に改修します
- 部分リノベーション:既存の家の一部を改修するタイプ。キッチンや浴室など特定の箇所に焦点を当てます
- 表層リノベーション:壁紙や床板など目に見える部分だけを改修するタイプ
工事の進め方による分類
- オーダーリノベーション:自由に設計できる方法で、フルオーダーとセミオーダーがあります
- リノベーション済み物件:すでにリノベーションされた物件を購入する方法
リノベーションのメリット
リノベーションには多くのメリットがあります。主なメリットを紹介します。
コスト面でのメリット
新築購入よりも費用を抑えることができるのが大きなメリットとなります。中古住宅を購入してリノベーションする場合、新築より設計や施工などを含む総費用を抑えることが可能です。
リノベーションは建物の構造部分を残すため、特に都心では一度解体して新しく住宅を建てるのに比べて、低コストで理想の住まいを実現できます。
立地や選択肢の拡大
リノベーションを前提とすると、中古住宅を検討するため、住宅を新築する際と比較して立地や予算の面から物件の選択肢が広がります。築年数が経った物件でも、内装や水回りなど老朽化の気になる箇所を中心に改修すれば、快適に住めるようになります。
デザインの自由度
既存住宅の内装、設備をリノベーションすることで、自分や家族のライフスタイルに適した家をつくることができます。もとの建物の様子が分かるので、どのように変更できるのかある程度イメージできるのもメリットです。間取りの変更や水回りの位置変更なども可能で、オーダーメイドの空間をデザインできます。
資産価値の向上
古くなった物件をリノベーションすることで、住居の設備や状態が改善されるため、資産価値を維持できたり、もともとの価値よりも高くなったりする場合もあります。
新築住宅に比べ、価格が低く、購入後の価格下落も穏やかなのが中古住宅の特徴で、リノベーション費用をかけても新築に比べリーズナブルに住まいを取得できるだけでなく、資産価値の目減りが少ないといえます。
環境に配慮した選択
リノベーションは環境に優しい省エネルギー住宅をつくることも可能です。高断熱の窓や玄関ドアに取り替えたり、壁や床に断熱材を取り入れて室内の温度を保ちやすくすれば、季節を問わずエアコンの消費電力が抑えられてCO2の削減に効果があります。
リノベーションのデメリット
リノベーションにはメリットだけでなく、注意すべきデメリットもあります。
想定外の費用発生
中古住宅を購入する場合、外見から分からない欠陥がある可能性があります。柱が腐食していたり、断熱材を新たに入れなければならなかったりするかもしれません。中古住宅にアスベストが使われていて、解体に数百万円の費用がかかった例もあります。
リノベーション自体は新築と比べて費用が少なくて済みますが、想定外の費用が加わったことによって新築と同じくらいの費用がかかることもあります。
建物の寿命
中古住宅の場合、建物の寿命が短いことがあります。住人がしばらくいなかった中古住宅の場合、メンテナンスもされていないことがほとんどです。せっかく自分の理想通りにリノベーションしても、ほんの数年程度で住めなくなってしまっては費用が無駄になってしまいます。
断熱性能の問題
リノベーションマンションは十分な断熱材が入っていない可能性があります。築古物件は断熱性能や耐震性能がアップデートされていないのがデメリットです。そのため、適切なリノベーションを行わなければ、快適かつ安全に暮らせない可能性もあります。
工期の長さ
リノベーションは物件の購入、設計、施工というプロセスを経なければなりません。工事が終わって物件の引き渡しまで3か月から半年程度かかることを想定しておくとよいでしょう。その間は別の場所に住まなければならないので、別途家賃がかかる可能性もあります。
構造上の制限
マンションの場合、管理規約や構造によって、間取りやデザインの制約を受けることがあります。マンションの構造上難しい工事もあり、構造上変更できない柱や壁がある、サッシや玄関ドアは交換できない、パイプスペースの移動ができないなどの制限があります。
リノベーションの流れとプロセス
リノベーションは計画から完成まで、段階的なプロセスを経て進められます。
基本的なスケジュール
リノベーションの基本的なスケジュールは以下の通りです。
- 構想・情報収集(約1~2か月):どんな暮らしをしたいのか、今の家のどこに不満があるのかを家族で話し合います
- 現地調査・基本プランニング(約1~2か月):プロによる現地調査を行い、住まいの状態を確認します
- 要件確定・概算見積もり(約1~2か月):プランの優先順位をつけ、必要な改修内容を整理します
- プラン確定・契約(約1か月):プラン・仕様・金額が確定したら、正式な契約となります
- 工事着工~完成(約3~6か月):解体から始まり、構造補強・設備交換・内外装などを段階的に進めます
- 引き渡し・新生活スタート(約1か月):完成後は社内検査・施主検査を経て、引き渡しとなります
工事の具体的な流れ
リノベーション工事の具体的な流れは以下の通りです。
- 解体工事・スケルトン化:既存の内装や設備を撤去します
- 配管工事:水道・ガス・電気などの配管を新しく設置します
- 下地組み(骨組み):構造を補強し、新しい間取りの下地を作ります
- 浴室・キッチンなどの設置:新しい設備を設置します
- 内装工事:床、壁、天井の仕上げを行います
リノベーションの費用相場
リノベーションの費用は工事の規模や内容によって大きく変動します。
マンションリノベーションの費用相場
マンションリノベーションの費用相場は以下の通りです。
- 60㎡(2~3LDK):650万円~1,300万円
- 70㎡(3~4LDK):750万円~1,500万円
- 80㎡(4LDK~):850万円~1,750万円
一般的な内装リフォームの場合、1平方メートルあたり約5万円~10万円が目安で、大規模なリノベーションの場合は、1平方メートルあたり約15万円~20万円かかることもあります。
水回りリフォームの費用相場
水回りのリフォーム費用の相場は以下の通りです。
- お風呂:60万円~150万円
- キッチン:20万円~100万円
- トイレ:15万円~30万円
- 洗面台:10万円~25万円
費用に影響する要因
リノベーション費用に影響する主な要因は以下の通りです。
- 築年数:古い建物ほど構造部分や配管、電気設備の劣化が進んでいるため、改修費用が増加する傾向があります
- 工事範囲:フルリノベーションか部分リノベーションかによって大きく異なります
- 設備のグレード:使用する設備や材料のグレードによって費用が変動します
まとめ
リノベーションは、既存の建物に大規模な改修を行い、機能や価値を向上させる手法です。リフォームが原状回復を目的とするのに対し、リノベーションは現状よりも性能を向上させ、新しい価値を創出することを目的としています。
コスト面でのメリットや立地の選択肢拡大、デザインの自由度の高さなど多くの利点がある一方で、想定外の費用発生や建物の寿命、工期の長さなどのデメリットも存在します。適切な計画と信頼できる業者選びが成功の鍵となります。
今後、少子高齢化により新築住宅の需要が減少する中、中古住宅を活用したリノベーションは重要な選択肢として位置づけられています。環境への配慮やライフスタイルの多様化に対応する住まいづくりの手法として、リノベーションの重要性はますます高まっていくと予想されます。