精神科と心療内科の基本的な違い
精神科とは
精神科は、こころの病気そのものを診療対象とする診療科です。脳の機能的な問題や心理的要因など、様々な原因によって起こった精神疾患を専門的に治療します。具体的には、うつ病、統合失調症、躁うつ病、不安障害、パニック障害、強迫性障害、不眠症、認知症、発達障害、依存症などが主な対象疾患となります。
精神科では、診断的面接により病気の原因が脳の機能的なものか心因性のものかを判断し、面接結果に基づいて薬物療法と治療関係の形成を重視した治療的面接を行うことが特徴です。現在の日本では、精神科専門医が約10,099名在籍しており、外来治療を基本として幅広い精神神経疾患の継続的治療を担当しています。
心療内科とは
心療内科は、消化器内科や循環器内科と同様に内科の一分野です。ストレスや心理的要因によって引き起こされる身体の不調(心身症)を主な診療対象とし、心身医学的治療を行います。日本心身医学会では、心身症を「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」と定義しています。
心療内科では、心と体の両面からアプローチする治療が特徴で、薬物療法に加えて心理療法を併用することが一般的です。ただし、心療内科専門医は全国で287名程度と非常に少なく、多くの医療機関では精神科医が心療内科も標榜している実情があります。
診療対象となる症状の違い
精神科で扱う主な症状
精神科では、主に心の症状そのものが現れる疾患を対象とします。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 気分の落ち込みや無気力感(うつ病)
- 異常な興奮や躁状態(躁うつ病)
- 幻覚や妄想(統合失調症)
- 強い不安や恐怖感(不安障害、パニック障害)
- 反復的な行動や思考(強迫性障害)
- 睡眠の問題(不眠症)
- 記憶や認知機能の低下(認知症)
- 社会的コミュニケーションの困難(発達障害)
これらの症状は、主に精神的・心理的な面に現れるため、精神科での専門的な診断と治療が適しています。
心療内科で扱う主な症状
心療内科では、ストレスや心理的要因が原因となって身体に現れる症状を主に扱います。
- 緊張や不安による頭痛、腹痛、吐き気
- ストレス性の動悸、胸の圧迫感、息切れ
- 消化器症状(過敏性腸症候群、胃潰瘍など)
- 自律神経失調症による様々な身体症状
- 喘息や皮膚疾患などの心身症
- 摂食障害
- 慢性疲労症候群
- 更年期障害に伴う心身症状
これらの症状では、内科的な検査で異常が見つからないことが多く、心理的ストレスとの関連性が重要な診断要素となります。
治療方法とアプローチの違い
精神科での治療方法
精神科では、精神症状そのものに焦点を当てた治療を行います。主な治療法には以下があります。
- 薬物療法: 抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬、抗不安薬などを使用
- 精神療法: 認知行動療法、対人関係療法、力動的精神療法など
- 診断的面接・治療的面接: 詳細な病歴聴取と継続的な面接治療
- 社会復帰支援: デイケア、作業療法、就労支援など
精神科では、比較的薬物療法の使用頻度が高く、症状の改善に応じて段階的に治療を進めていくことが一般的です。
心療内科での治療方法
心療内科では、身体症状の改善と心理的要因への対処を両方向から行います。
- 生活習慣改善指導: 食事、運動、睡眠の見直し
- ストレス管理: ストレス軽減技法の指導
- 心理療法: リラクゼーション法、認知行動療法、自律訓練法など
- 薬物療法: 必要に応じて最小限の使用
- 環境調整: 職場や家庭環境の改善提案
心療内科では、薬物に頼らない治療を重視し、患者さんの生活全体を包括的に捉えたアプローチを特徴とします。
どちらの診療科を受診すべきか
精神科受診が適している場合
以下のような症状や状況では、精神科の受診が適しています。
- 強い抑うつ気分や絶望感が2週間以上続いている
- 何もする気が起きず、仕事や学校に行けない状態
- 原因不明の幻覚や妄想がある
- 極度の不安や恐怖で日常生活に支障がある
- 自分や他人を傷つける衝動がある
- 睡眠パターンの極端な変化
- 集中力や記憶力の著しい低下
- 社会的な引きこもりが長期間続いている
これらの症状では、精神科専門医による詳細な診断と専門的な治療が必要となります。
心療内科受診が適している場合
以下のような症状では、心療内科の受診が適しています。
- ストレスを感じる場面で頭痛や腹痛が起こる
- 内科で検査しても異常がないのに身体の不調が続く
- 緊張すると動悸や息切れが起こる
- 職場や学校の特定の状況で体調が悪くなる
- ストレスで食欲不振や過食になる
- 慢性的な疲労感や倦怠感
- ストレス性の胃腸症状(下痢、便秘など)
- 更年期症状と心理的ストレスが重なっている
これらの場合は、身体症状への対処と心理的要因の改善を同時に行う心療内科のアプローチが用いられます。
医療機関選びの実際と注意点
標榜科名と実際の専門性
現実的には、多くの医療機関で診療科の標榜と実際の専門性に違いがあることを理解しておく必要があります。心療内科専門医は全国で287名と非常に少ないため、心療内科を標榜している医療機関の多くは、実際には精神科医が診療を担当しているのが実情です。
医療機関を選ぶ際のポイントは以下の通りです。
- 精神科も併せて標榜しているかを確認
- 医師の専門領域や経歴を事前に調べる
- 初診時に自分の症状を詳しく説明する
- 治療方針について納得できるまで説明を求める
重要なのは診療科名ではなく、あなたの症状に対して診断と治療を提供できる医師かどうかです。
受診時の心構えと準備
どちらの診療科を受診する場合も、以下の準備をしておくと診察がスムーズに進みます。
- 症状の記録: いつから、どのような症状があるかをメモ
- 生活背景: 仕事や家庭でのストレス要因を整理
- 既往歴・服薬歴: 現在服用中の薬や過去の病気
- 具体的な困りごと: 日常生活への影響を具体的に
また、精神科や心療内科への受診に不安を感じる方も多いですが、現在ではメンタルクリニック、こころのクリニックなどの名称で、気軽に相談できる環境が整備されています。早期の相談により、症状の悪化を防ぎ、治療を受けることができます。
まとめ
精神科と心療内科の選択に迷った時は、まず自分の症状が心の症状か身体の症状のどちらが主体かを考えてみましょう。心の症状が中心であれば精神科、身体の症状が中心でストレスとの関連が疑われる場合は心療内科が適しています。
ただし、実際の医療現場では両者の境界は曖昧で、多くの精神科医が心身両面からアプローチできるため、まずは相談しやすい医療機関を受診することが重要です。診断により、必要に応じて他の専門医への紹介も受けられます。
心の不調は誰にでも起こりうるものです。このぐらいで受診するのはと躊躇せず、気軽に専門医に相談することで、より良い生活を取り戻すことができるでしょう。

