訪問看護で提供されるサービス内容
訪問看護では、利用者の病状や健康状態に応じて多様なサービスを提供しています。主治医と密に連携し、心身の状態に応じて以下のような看護を行います。
基本的なケアサービス
基本的なケアサービスには以下が含まれます:
- 健康状態の観察とアセスメント(体温、血圧、脈拍、呼吸状態などのチェック)
- 日常生活の支援(清拭、入浴介助、食事や排泄などの介助・指導)
- 心理的な支援(精神・心理状態の安定化のケア)
- 家族等介護者への相談・支援
- 療養環境の整備
これらのサービスは、利用者が安全で快適な療養生活を送れるよう、専門的な知識と技術を持った看護師が提供します。
医療的ケア
医師の指示に基づく医療的ケアとして、以下のようなサービスを提供します:
- 点滴注射、褥瘡・創傷処置などの医療行為
- 医療機器の管理(在宅酸素療法、人工呼吸器、経管栄養など)
- 服薬管理と指導
- 疼痛管理や症状マネジメント
- 緊急時の対応(24時間体制)
これらの医療的ケアにより、在宅での医療処置が可能になります。
リハビリテーションサービス
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職によるリハビリテーションサービスも提供されます:
- 機能訓練と日常生活動作(ADL)の向上
- 関節拘縮の予防と機能回復
- 嚥下機能訓練
- 歩行訓練と転倒予防
- 福祉用具の選定と使用指導
訪問看護従事者数(2022年)は、看護師74,478人、理学療法士15,919人、作業療法士7,083人、言語聴覚士1,623人となっており、多職種による専門的なケアが提供されています。
終末期ケア(ターミナルケア)
最期まで自宅で過ごしたいという希望に応えるため、終末期ケアも重要なサービスの一つです:
- 疼痛の緩和と症状管理
- 精神的な支援と心のケア
- 家族への支援と指導
- 医師や他職種との連携による包括的なケア
- 看取りの支援
近年、自宅で最期を迎えたいと願う方が増えており、訪問看護ステーションの役割はますます重要になっています。
訪問看護の対象者と利用条件
訪問看護は、年齢制限がなく、赤ちゃんからお年寄りまで、病気や障がいを持ちながら在宅で療養されている方すべてが対象となります。ただし、利用される保険制度によって対象者の条件が異なります。
介護保険での対象者
介護保険で訪問看護を利用できる方は以下のとおりです:
- 65歳以上で要支援・要介護の認定を受けた方
- 40歳以上65歳未満で、16特定疾病に該当し要支援・要介護認定を受けた方
16特定疾病には、がん(末期)、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、後縦靱帯骨化症、骨折を伴う骨粗鬆症、初老期における認知症、進行性核上性麻痺などが含まれます。
2022年の訪問看護利用者数は約69万人で、年々増加している状況です。
医療保険での対象者
医療保険で訪問看護を利用できる方は以下のとおりです:
- 40歳未満の方
- 40歳以上65歳未満で16特定疾病に該当しない方
- 65歳以上で要支援・要介護に該当しない方
- 厚生労働大臣が定める疾病等の方(全年齢対象)
- 精神科訪問看護が必要な方
- 特別訪問看護指示期間にある方
厚生労働大臣が定める疾病には、末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、パーキンソン病関連疾患、人工呼吸器を使用している状態などが含まれます。
医療保険での訪問看護利用者数は2023年で161,442人と、2011年の49,425人から12年間で約3.3倍に増加しています。
自費での対象者
保険適用外の自費サービスでは、年齢や疾患の種類による制限がなく、どなたでも訪問看護を利用できます。保険では対応しきれない範囲を自費サービスで補うなど、保険と併用される方も多くいらっしゃいます。
訪問看護のメリットと必要性
訪問看護には多くのメリットがあり、高齢化社会の進行とともにその必要性がますます高まっています。
利用者にとってのメリット
利用者にとって訪問看護を利用することで得られるメリットは以下のとおりです:
- 住み慣れた環境で専門的なケアを受けられる
- 通院の負担が軽減される
- 個々のニーズに応じたオーダーメイドのケアが受けられる
- 病状の変化に迅速に対応してもらえる
- QOL(生活の質)の向上につながる
特に高齢者や身体機能に制限のある方にとって、通院の負担軽減は大きなメリットとなります。
家族にとってのメリット
家族にとってのメリットも多く存在します:
- 介護負担の軽減
- 専門的な指導を受けられる
- 精神的な支援が得られる
- 緊急時の対応に安心感を得られる
- 家族の時間的余裕が生まれる
家族の介護負担軽減は、介護を継続していくうえで重要な要素となります。
社会的な必要性
社会全体から見た訪問看護の必要性は以下のとおりです:
- 高齢化社会への対応
- 医療費の抑制効果
- 病床の有効活用
- 地域医療体制の充実
- 在宅医療の推進
内閣府によると、2025年には65歳以上の高齢者人口比率が29.6%となり、2070年まで上昇し続けることが予測されており、今後40年以上は訪問看護のさらなる需要拡大が見込まれています。
訪問看護の利用方法と手続き
訪問看護を利用するためには、利用する保険制度に応じた手続きが必要です。適切な手続きを踏むことで、スムーズにサービスを開始できます。
介護保険を利用する場合
介護保険で訪問看護を利用する場合の流れは以下のとおりです:
- 要介護認定の申請(まだ認定を受けていない場合)
- ケアマネジャーへの相談
- 主治医による訪問看護指示書の発行
- ケアプランの作成
- サービス担当者会議の開催
- 訪問看護ステーションとの契約
- サービス開始
要介護認定は申請から通常1か月以内に認定結果が通知されるため、早めの申請が重要です。
医療保険を利用する場合
医療保険で訪問看護を利用する場合の流れは以下のとおりです:
- 主治医への相談
- 主治医による訪問看護指示書の発行
- 訪問看護ステーションの選定
- 訪問看護ステーションとの契約
- サービス開始
医療保険では特別な申請手続きは必要ありませんが、主治医からの訪問看護指示書が必須となります。
相談窓口
訪問看護の利用を検討している場合、以下の窓口で相談できます:
- 主治医やかかりつけ医
- 病院のソーシャルワーカー
- ケアマネジャー
- 地域包括支援センター
- 訪問看護ステーション
- 市区町村の介護保険・障がい福祉担当窓口
どの窓口でも相談に応じてもらえるため、最も身近な窓口に相談することから始めることができます。
まとめ
訪問看護は、利用者が住み慣れた環境で安心して療養生活を送るために欠かせないサービスです。看護師などの専門職が主治医の指示に基づいて、医療的ケアから日常生活の支援まで幅広いサービスを提供しています。
高齢化社会の進行とともに、訪問看護の需要は今後ますます高まることが予想されます。現在、全国に17,329件の訪問看護ステーションがあり、約69万人の利用者に対してサービスを提供しています。
訪問看護は、利用者の生活の質(QOL)の向上、家族の介護負担軽減、医療費の抑制など、多くのメリットをもたらします。また、地域包括ケアシステムの中核的な役割を担い、在宅医療の推進に重要な位置を占めています。
今後は、人材確保と質の向上、多職種連携の強化、ICT技術の活用などを通じて、より質の高い訪問看護サービスの提供が求められます。利用者一人ひとりのニーズに応じたきめ細かなケアを提供し、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らせる社会の実現を目指していくことが重要です。