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国内の古墳の数はコンビニの約3倍! コロナ禍でも古墳グッズは売上増! 奈良県橿原市が古墳ブームをさらにコーフンさせる

2020.12.04 Vol.Web Original

「日本全国に、コンビニの約3倍存在し、村や町によってはコンビニはないけど、存在しているもの、なーんだ?」

なぞなぞのように聞こえるかもしれないけど、なぞなぞやとんちの類ではないんです。答えは、古墳。いたって本当の話なのだ。

文化庁の調査によれば、日本全国にある古墳の数は約16万基。対して、全国にあるコンビニの数は、2019年3月時点で5万8340店(日本フランチャイズチェーン協会発表)。コンビニはないのに古墳はある――。そんな村や町が存在するほど、古墳はいたるところに、実はあったりする。

そもそも古墳とは、人工的に土を高く盛った古代人のお墓のこと。3世紀中頃~7世紀末の古墳時代、多くの人は古墳を造り、寿命が尽きれば、そこに葬られていた。古墳と聞くと、教科書で習ったような巨大な「前方後円墳」をイメージしがちだけど、地方の権力者や村長レベルのプチ権力者もいたわけで、全員が全員、立派な古墳を造ったわけではない。下の写真も、意外に思うかもしれないが古墳なのだ。

こじんまりしたものや質素なものなどなど……、バラバラでしかも多彩。それゆえ、お気に入りの古墳や妙に気になる古墳もあって、古墳を巡る「墳活」、古墳を愛する女子「古墳女子」といった用語が誕生するまでに。じわじわと「古墳ブーム」は広がり続け、いまなお「古墳はキテる」と熱い視線が注がれているほど人気を博している、というからビックリする。

「おいおい、古墳ブームなんて聞いたことないぞ!」。そう言いたくなる人もいるはず。しかし、「古墳にコーフン協会」を設立し、現在、会長を務める古墳シンガー・まりこふんさんは、胸を張って説明する。

「今から4~5年ほど前に、「古墳にコーフン協会」は東急ハンズさんとコラボし、古墳グッズの販売イベントをはじめました。今年は、初年の3倍以上の売上増になるほどで、コロナ禍でもかなりの売上がありました。それだけ需要が伸びていて、買う側も作る側も増えているんですね」

「古墳にコーフン協会」会長のまりこふんさん。古墳愛を歌う古墳シンガーでもある。

2019年には、巨大な鍵穴を想起させ、誰もが歴史の教科書で一度は見たことがあるだろう「仁徳天皇陵古墳」を含む、「百舌鳥・古市古墳群」(大阪府堺市)が世界文化遺産に登録されたことは、記憶に新しいところ。我々が想像している以上に、古墳はその姿に負けないくらい人気の面でも盛り上がっていて、古墳に魅せられる人は増えているというのだ。よくよく見たら、古墳ってシフォンケーキみたいでかわいいし、埴輪はちょっと間抜けでかわいい。それに、 「コンビニはないのに古墳はある」なんて聞くと、妙に親近感を覚えて、「小さい古墳ってどんな感じなの?」と見てみたくなる。ハマる角度が人それぞれ、それもまた古墳の魅力なのだ。

歌にしてしまうまでの古墳愛を持つまりこふんさんにオススメを聞くと、「ありすぎて選べないのですが、奈良県橿原市の古墳群は見てほしい」とコ―フン気味に話す。

実はまりこふんさん、旅行会社が定期的に企画する古墳を巡るバスツアーの識者として、ツアーに同乗し、案内やミニライブを行うなど、古墳の魅力を伝えるために奔走している第一人者でもある。「2年前くらいからは年6回全日程ほぼ満席、すべて催行しています。いやはや、ありがたいことです」と謙遜するが、定期的にバスツアーが開催されるほど、古墳人気は本当に右肩上がりなのだ。古墳だからと、話を盛っているわけではないんです。

橿原市――。日本で有数の「字面はよく見るけどそのたびに読めない市」かもしれない。“かしはら”。この地域周辺にある古墳が「面白い」らしく、なんと12月と来年1月には『古墳シンガーまりこふんさんと行く「橿原・飛鳥古墳にコーフン旅行」』というツアーが組まれるほど、橿原市も古墳を介して街の魅力を伝えようと奮闘している。

なかでも、まず見てほしいと力説するのが、橿原市が古墳の魅力を伝えるべく連携するお隣・明日香村にある「石舞台古墳」(上写真)だ。大小約30個の石英閃緑岩が使用され、石の総重量は2300トン(!!)。もともと覆われていた盛土は失われ、天井石が露出。結果、巨石が積まれている姿がむき出しになり、その様子は異様にして圧巻だ。中は空洞になっていて、日本最大級の横穴式石室を持つ。埋葬された人物は、6世紀後半にこの地で政権を握っていたと言われる蘇我馬子の可能性が高いという。

明日香村は、1956年の合併の際に現在の地名になるが、それまでは飛鳥村という地名だった。古代における飛鳥の中心的地域であったとされ、推古天皇、聖徳太子、蘇我馬子、蘇我入鹿、中大兄皇子(天智天皇)、中臣鎌足(藤原鎌足)、天武天皇、持統天皇らが生きたいた時代の中心――、歴史のテストに出てきた古代のオールスターが存在していた、とんでもないエリアなのだ。

さらには、飛鳥時代は「天皇」という呼称がはじまることや日本初の元号「大化」を定めたことを筆頭に、貨幣経済のはじまり、時計と暦の開始、大陸との交流、官僚制度の構築などなど、今に続くたくさんのエポックメイキングな枠組みも、この地から生まれたと言われている。明日香村は、歴史上の人物が登場し始める歴史の始点であると同時に、古代の終点でもある。それを教えてくれるのも、やっぱり古墳だったりする。

石舞台古墳の内部。どうやって石を積み上げたのか? もちろん現地に行けば謎が解ける。

冒頭、古墳はコンビニの3倍ほど存在すると説明したが、それほどあった古墳がなぜ造られなくなったのか? 疑問を覚えた人もいるはず。

それは、飛鳥時代に仏教という国際的な思想が伝来し、隆盛することで、各地の古墳にまつわる信仰や儀式が希薄化し、古墳そのものの存在意義もなくなってしまったから。開明的になった人々は、古墳造成に費やす労力を都市開発やインフラに費やしただろうし、実際に仏教が浸透するにつれて古墳が小さく、シンプルになっていくことも確認されている。そして、奈良時代になると上流社会の間では火葬墓が一般的になり、古墳はその姿を消していくことになる。

つまり明日香村は、古墳時代の終わりであると同時に、その後の中世へとつながる近代的古代の幕開けの場所、ということになる。時代の境い目である江戸城や大阪城にも負けない、歴史のダイナミズムが詰まった場所。なのに、城のように絢爛豪華に主張するでもなく、ひっそりと、もっこりと存在するマイペースな古墳たち。墓なのに、ものすごく雅かつ躍動感にあふれる、そのギャップが知的好奇心とは何かを教えてくれる。

とは言っても、難しい知識や事前準備がなくても楽しめるので大丈夫。下写真は、同じく明日香村内にある高松塚古墳だが、まるで抹茶フレーバーのプリンのよう。見た目がかわいいこの古墳も……実はすごい。

昭和47年、石室内に極彩色の壁画(国宝)が発見され、特に西壁の女子群像は、歴史の教科書のカラーページに登場するまでに。7世紀末から8世紀初頭にかけて築造された終末期の古墳と言われ、天井には星宿図が描かれていた。かわいい姿からは想像できないほどすさまじい古墳、たとえるなら90年代の名CM、北浦共笑の「私脱いでもスゴイんです」を彷彿とさせる古墳である。隣接する高松塚壁画館では、壁画発見当時の現状模写をはじめ、一部復元模写、棺を納めていた石槨の原寸模型のほか、副葬されていた大刀装飾金具なども見ることが可能だ。

明日香村だけでもレジェンドクラスの古墳が揃うが、橿原市の古墳力もコ―フン間違いなしだ。「橿原市の約70%は遺跡なんです」と教えてくれるのは、同市教育委員会文化財課の松井一晃さん。なんと、市の約7割の範囲が何かしらの遺跡や遺構とは、橿原、恐るべし。今まで読めなくてごめんなさい!

「新沢千塚古墳群は、誰でも楽しめる公園なのですが、この一帯には約600基の古墳があります。日本を代表する群集墳でもあるんですよ」(松井さん)

新沢千塚古墳群公園。古墳で遊び放題

その容貌はまるで“日本のカッパドキア”と呼びたくなるほどで、モコ、モコ、モコと古墳群が目に飛び込んでくる姿は圧倒的。「これが全部、古墳なの?」と目を疑うこと間違いなしだ。

「こういった光景を我々はワンダ墳(=素晴らしい古墳のこと)と呼んでいます。古墳浴(=森林浴的な)するには最適の場所です」(まりこふんさん)

たしかに、初心者でも「ワンダ墳!」と叫びたくなるほどの美観。明日香村は貴族の古墳が多かったが、橿原市には名もなき首長たちの古墳も多数あるため、バラエティ豊かな古墳を体験することができる。例えば、下写真の小谷古墳は被葬者は不明だが、中に入ると面白い発見がある。通常時は、鉄柵で周囲を囲まれているため、中に入ることができないが、ツアーなどで見学する際は開放されるという。外から眺める、そして中に入る。古墳は“一粒で二度おいしい”というわけだ。

もちろん、どこか異界に足を踏み入れるような憂惧する気持ちも生まれる。「無理矢理石室に入る事をすすめることを、私たちは石ハラ(セキハラ)、石室ハラスメントと呼んでいます。楽しむ気持ちを忘れないでくださいね」とまりこふんさんがレクチャーするように、相手の気持ちを尊重しつつ、墳活すること忘るべからず。

小谷古墳の入り口。なんと墳タスティックな。
小谷古墳の内部。よく見ると……

「(手前部分の)石棺の一部が欠けていることが分かると思います。これは盗掘された痕跡です。古墳を修復したり復元したりはしていません。この空間内部は、古代、そして盗掘された姿のまま今の時代に残っています」

そう松井さんが解説するように、古墳が歩んだ歴史をそのまま追体験できるのは、改めて考えるとものすごいこと。だって、“古代の人間が葬られていた墓を、そのあとの時代の人間がこじ開けて、現代の人間が見ている”のだから。この小さな空間に、約1400年の変遷が詰まっている。こんなマジカルな体験ができるのも古墳ならではだろう。

小谷古墳から南東に500メートルほど歩いたところにある橿原市の巨石「益田岩船」も外すことができないスポットだという。たどり着くと、あ然とする。鱗滝さんと炭治郎がいたのかしら……。

なぜこんな巨石が山奥にポツンと?

「近くに斉明天皇陵の可能性が高い牽牛子塚(けんごしづか)古墳があるのですが、おそらくは益田岩船は失敗作だろうと。というのも、牽牛子塚古墳の横口式石槨と形が似ているため、当初は益田岩船を墳墓にしようと作っていた……けど、問題が生じて無理となった(笑)。そして、放置したと思われます」(松井さん)

古代人のやらかした理由……その続きは、ぜひともツアーに参加するなどして、自身で確認してほしい。古代人の中にも“しくじり先生”がいた! ことを知ったあとで、この巨石を眺めてみると、何も知らずに見ていたときのような不気味さはなくなり、「やっちゃったな」と同情する気持ちがわいてくるほど。想像力を育ててくれることが、歴史の醍醐味なのだとしたら、橿原市はものすごい可能性を秘めている場所だ。

 

上から見ても大きさが分かる益田岩船。古代人の“やらかした”痕跡を目撃しよう

玄室(古墳の内部にある棺を納める部屋)に入ることができない古墳もたくさんある。しかし、橿原市は同市の魅力を知ってもらうために、積極的に内部を公開する機会を創出している。

古墳は想像している以上に面白い。奥が深い、というよりもホントに「面白い」のだ。同じ古代でも、縄文時代や弥生時代の遺跡と違って、古墳は目の前に存在している。だから、あれこれ想像しやすいし、勝手に自分好みか否かの点数なんかも付けたくなってくる。そんな古墳が橿原市にはまだまだたくさんある。さらに言うなら、国内にはコンビニの約3倍ある。そりゃ、飽きないし、ハマる人が増えていくのがわかる。

「見た目がかわいいとか、自分好みの古墳があった――、興味を持つポイントはなんでもいいんです。実際に古墳を見ると、惹かれるものがきっとある。しかも、中に入れない古墳もある。こんなに近くにいるのに、こんなに遠くに感じる愛おしい存在は古墳だけです(笑)。もっと墳友(ふんゆう)を増やして、古墳のすばらしさを広められたら最高ですね」(まりこふんさん)

玄室へと続くトンネル(羨道)は、あなたを超面白い世界へといざなう、動線かもしれない。改めてもう一度。古墳、キテます。

 

(取材と文・我妻弘崇)

「Go Toトラベル」の二重のワナ ホステルから2人客が消えている!?

2020.10.23 Vol.Web Originaⅼ

 7月下旬からスタートした政府の観光支援事業「Go To トラベル」。35%の宿泊割引と15%の地域共通クーポン、あわせて50%の支援が実施され、10月からは除外されていた東京も追加された。

 だが、利用者が35%の宿泊割引の恩恵を受けやすい高級旅館に集中するといった“Go To格差”の問題や、東京が解禁して早々に大手オンライン予約サイトや旅行会社などで割引率の縮小や割引制限(1人1回までetc)が設けられるなど、空回りしている印象がぬぐえない。

「昨年比でいうと、4月は90%減、5月は95%減でした。うちに限らず、ゲストハウスやホステルの多くは廃業か転業か休業、いずれかの選択を迫られていると思う」

 そう話すのは、新潟県の岩室温泉(新潟市西蒲区)にある 「岩室スロウホステル」オーナーの川辺正人さん。「Go To トラベル」に期待していたところがあったが、想像以上に恩恵が少ないと言葉を漏らす。

 仮に、①1泊1人2万円の宿、②1泊1人1万円の宿、③1泊1人5000円の宿があったとしよう。 35%の宿泊割引と15%の地域共通クーポンが適用される場合、

①宿泊代1万3000円/地域共通クーポン3000円分配布
②宿泊代6500円/地域共通クーポン2000円分配布
③宿泊代3250円/地域共通クーポン1000円分配布
(※地域共通クーポンは1000円単位で配布される)

以上のように割り引かれることになる。より高い宿に宿泊した方が恩恵を受けやすいため、利用者は価格帯の安い宿泊施設を敬遠しがちになる。先述した“Go To格差”とはこういうことだ。

嵐の大野智と櫻井翔が「これからの旅はみんなで作る」動画で新しい旅のスタイルを提案

2020.10.07 Vol.Web Original

 嵐の大野智と櫻井翔がJALに潜入した動画「安心・安全の取り組み 嵐篇」が公開中だ。

 JALの安全・安心への取り組みを紹介しつつ、これからの新しい旅のスタイルを提案するもの。約4分半の動画では、同社の感染症拡大防止に向けた取り組みを学ぶ。機内の空気循環の仕組みについて説明を受けて、大野は「(飛行機の中の空気が)めちゃめちゃ循環しているんですね!」と感心。機内の消毒作業をデモンストレーションをみて、桜井は「手荷物を少なくすることが感染リスクを下げていくことにつながるんですね」と新たな視点をシェアする。

 動画は、JALの公式 YouTubeチャンネルで公開中。

本木雅弘「素の自分がこぼれ出ている」 新CMで新幹線でのずらし旅をPR

2020.09.25 Vol.Web Original

 本木雅弘が25日、都内で行われたJR東海のキャンペーン『ひさびさ旅は、新幹線! ~旅は、ずらすと、面白い~』の新CM発表会に登壇した。

三代目JSB今市隆二が旅館でしっぽり?「すごく会いたかった」

2020.03.19 Vol.Web Original

 三代目 J SOUL BROTHERS(以下、三代目JSB)の今市隆二が出演する旅行情報サービス『じゃらん』の新CMのオンエアが23日からスタートする。今市は、同サービスの30周年アンバサダーを務めている。

旅人・エッセイストのたかのてるこが語る 「“逃げる”って前向きな旅だと思う」

2020.03.08 Vol.Web Original

 “~になりたい”――。女性が思う“Be”の部分にフォーカスを当て、さまざまな立場の女性ゲストを招き、仕事や育児、ライフスタイルなどについてクロストークを展開するTBSラジオの新番組「Be Style(ビースタイル)」。

 今回の放送は、MCを務める菊池亜希子さんとともに、旅人・エッセイストのたかのてるこさんが登場。世界を旅する一人旅の魅力について語った。

元遊郭に泊まろう! 八戸市にある「新むつ旅館」の旅情感がすごすぎるワケ

2020.01.18 Vol.Web Original

「まるでタイムスリップしたみたい……」

 青森県八戸市の中心地から少し離れた場所にある「新むつ旅館」。訪れると、誰もが安直な感想を思わずポツリとつぶやかざるをえない。コメントとしては0点の感想。でも、時代のエアポケットに取り残されてしまったかのような圧倒的存在感は、冗談抜きで、明治、大正時代に戻ってしまったかのよう。無意識に冒頭の言葉を紡いでしまう。

【FRONT LINE in 韓国】アートメイクが目的で韓国に行く人増! 人気サロンBROWBIBIへ

2019.10.26 Vol.Web Original

 世界中どこでもファッション&ビューティにみんなが夢中。今はインスタで地球の裏側のトレンドだって、1タップでチェックできるけど、やっぱり現地で自分の肌で感じるものこそが本物の最先端、トレンド!【FRONT LINE】は、モデル、DJ、コラムニストとしても活躍する、一木美里が現地に飛び、最前線をリポート。世界からファッション&ビューティのリアルなトレンドを発信します。 第1弾は韓国。 K-POP、K-Beautyと世界から注目を集める韓国の最前線をリポートします!

 今回は日本人のファンも多いアートメイクの「BROWBIBI」さんに行ってきました。

三代目JSBの登坂広臣が台北の魅力をPR「いろんな世代の方に遊びにいってほしい」

2019.09.29 Vol.Web Original

 三代目J SOUL BROTHERSの登坂広臣が29日、都内で行われた「知られざる台北の魅力」トークイベントに出席した。8月に台北市観光大使に就任。「家族で行っても、恋人と行っても楽しめると場所」とし、「行くたびに台北市の魅力を知る。いろんな世代の方に遊びにいってほしい」と、台北の魅力をアピールした。

せっかく来たのに「富士山が見えな~いッ!」 曇天&雨天でも楽しめる静岡市の“だぁーいすき!”スポットはココ

2019.09.28 Vol.Web Original

 そりゃもちろん、静岡市が誇る上写真のような茶畑越しの富士山を拝めるなら最高だけど、人生はそんなに都合よくはいかない。それに、「制約はイノベーションの母」とも言われているわけで、新たな発見につながることだってある(はず!)。というわけで、もしも富士山が顔を出さなくてもガッカリしなくて済む静岡市の魅力的なスポットを紹介したいと思う。

 

①東海大学海洋科学博物館

 景勝地・三保松原にほど近い東海大学海洋科学博物館は、1Fが水族館部門、2Fが科学博物館部門の展示で構成されている、“エンタメ”と“教養”がつまったスポット。約400種類(深海生物も約50種類)6000尾の魚を展示する水族館でありながら、大規模な海洋科学博物館としての側面を持つ施設は、日本全国広しと言えどココだけ。あのさかなクンも絶賛する“学べる水族館”として、人気を博しているのだ。

 中でも、10m×10m×6mの巨大水槽は圧巻。体長2mを超えるシロワニを始め、約50種1000個体以上の魚たちが優雅に泳ぐ姿は、「富士山なんて最初から見れなくても良かったんだ」と、妙な心の安らぎを与えてくれる。また、同施設の人気者・クマノミをフィーチャーした「くまのみ水族館」は、世界中のクマノミ約20種を展示するだけではなく、クマノミの仲間にエサをあげることができる水槽もあって子どもたちから大人気だ。「ニモ! ニモ!(ディズニー・ピクサーの名作アニメーション『ファインディング・ニモ』)」と気持ち良く魚を見つめて連呼している子どもに対して、「ニモのモデルはクラウンフィッシュだよ」などと野暮なことは思わないように。水族館を楽しむ、その気持ちが大事なの!

 2Fの科学博物館部門は、駿河湾の地形や海に含まれる生物資源や鉱物資源、波や風のエネルギー資源など、海が持つさまざまな資源を展示している知的探求心が満たされる場。駿河湾は深海2500mまであるため、富士山山頂までの高低差は、なんと6000mを超える。地形のダイナミズムや、地形によって生み出される資源などなど、なぜゆえ駿河湾が豊かなのかを、「ギョギョギョ!」と驚きながら学ぶことができる。実験装置を動かしたりして、楽しみながら海そのものも理解できる「うみの研究室(コーナー)」もオススメ。単に“鑑賞する”だけで終わらないところが、水族館+海洋博物館、“二刀流”の東海大学海洋科学博物館の魅力だろう。

全長が約18.6mもある巨大なピグミーシロナガスクジラの全身骨格標本を始め、駿河湾の生き物の骨格標本や剥製もある

【東海大学海洋科学博物館】http://www.umi.muse-tokai.jp/ 

 

②静岡市立日本平動物園(「レッサーパンダ館」)

 日本国内のレッサーパンダの繁殖計画を担っている静岡市立日本平動物園は、“レッサーパンダの聖地”と言われているほど、レッサーパンダの頭数が多い。動物の生態や能力を、自然な姿として動物園内で誘発させることで、来園者に飽きさせない工夫をするレッサーパンダの「行動生態展示」に優れ、屋内施設「レッサーパンダ館」では、高低差のある遊具でのびのびと動き回る愛くるしい姿を見ることができる。あの“立ち姿”で一世を風靡した風太くんも日本平動物園で生まれたOBだったりする。

 「レッサーパンダ館」は、温度管理されているため、来場者もレッサーパンダも快適だ。暑さに弱いレッサーパンダたちは、夏日ともなればまったく動いてくれないが、屋内施設では無問題。四川省やネパールの山奥で暮らす動物だけあって、冬は大得意の季節なので、秋以降に訪れると屋外の展示スペースでも活発に動き回る姿が予想される。ちなみに、レッサーパンダの立ち姿は“威嚇ポーズ”なので、「かわいい!」とカメラを構えるよりも、嘘でもいいから「うぉっ!」と驚いてあげてからカメラを構えたほうが、レッサーパンダ的にはうれしいらしい。この愛らしい姿を見れただけで、「富士山が見れなかった」なんて後ろ髪は気持ち良く断髪できる。「富士山? なにそれ、美味しいの?」。もちろん、レッサーパンダ以外にも、「猛獣館299」、「ペンギン館」など見ごたえ十分です!

【静岡市立日本平動物園】https://www.nhdzoo.jp/

 

③神の道&みほしるべ

 「富士山が見えな~~いッ!」。“読めな~いッ”よろしく、ハズキルーペばりに曇天・雨天に発狂してしまいそうになっても、三保松原は見ておくことをオススメしたい。大正11年(1922年)、日本初の名勝に指定され、平成25年(2013年)には世界文化遺産の構成資産として登録された三保松原。たしかに富士山は見えないかもしれないが、海岸線を雲海のごとく覆う松林の光景は、ただただ美しい。

 とりわけ、御穂神社と松原を結ぶ全長500Mの松並木「神の道」は、天候関係なしに歩いて損のないホーリースポット。樹齢200~400年と言われる老松に囲まれた厳かな松並木は、松の保全のため根を踏まないようボードウォークとして整備されているので、歩きやすさも抜群。また、ボードウォーク仕様になっていることで、能における橋掛かり的な舞台装置のような幽玄さを感じる点も面白い。歩いているだけなのに、背筋がピンと伸びるような厳かさが漂い、夜間のライトアップ時ともなれば、まるであの世とこの世を結ぶような幻想的風景が広がる。富士山の眺望関係なく訪れておきたい場所だ。

 その「神の道」の先にある「みほしるべ」では、三保松原の背景や文化、松の生態などを知ることができる。2019年3月にオープンしたばかりとあって、館内もとても清潔感あふれる。三保の歴史、富士山信仰、猜疑心を恥じて人間の欲を捨て羽衣を返す物語“三保の羽衣伝説”……映像や展示物を通じて、なぜ人は松に魅せられ、松に気高さを感じてしまうのか、その謎が解明される歴史好きにはたまらないスポットだ。屋上から富士山を眼前に眺望できる好立地にあるため、晴れている日は絶対に訪れておきたい新名所だろう。

【静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」】https://miho-no-matsubara.jp/center/ 

 

④S-PULSE DREAM PLAZA(エスパルスドリームプラザ)

 静岡市清水区に暮らす人にとって憩いの場であり、ソウルスポットとも言うべき場所がS-PULSE DREAM PLAZA(エスパルスドリームプラザ) である。館内には、さまざまなアミューズメントパークや食事処が集まり、「駿河みやげ横丁」に行けば、静岡市の名産品がズラリと並ぶ。中でも、館内で目を引くのが「清水ラムネ博物館」、「ちびまる子ちゃんランド」、「みんなの学校給食」。

 「清水ラムネ博物館」は、辛子めんたいコーラ、カレーパンサイダー、うなぎコーラなど、「ッ!?」と思わず二度見してしまうサイダーを含め、50種類以上のバラエティ豊かなラムネ・サイダーを展開する、まさに気の抜けないスポット。すべての商品は、静岡県唯一の老舗ラムネメーカー・木村飲料のもので、戦後、全国に2000社以上あったラムネメーカーは時代とともに淘汰され、現在は100社ほどに激減しているという。「清水ラムネ博物館」では、激動の時代を生き抜いてきたラムネ・サイダーの歴史を振り返るとともに、大正~昭和初期の貴重なラムネビンや、当時使用されていた機械の展示なども行っているため、ラムネ・サイダーに詳しくなれるのも◎。美味なサイダーに加え、“怖いもの見たさ”ならぬ“怖いもの飲みたさ”なサイダーも購入して、あれこれ飲み比べるといいだろう。「清水ラムネ博物館」のお隣には、まぐろ類缶詰日本一のシェアを誇る静岡にちなんだ、さまざまな缶詰が揃う「清水かんづめ市場」もあるので、ここでしか目撃できないお土産をゲットしてほしい。

 「ちびまる子ちゃんランド」は、作者のさくらももこ先生が旧清水市(現在の静岡市清水区)出身という縁で、1999年にオープンしたテーマパーク。劇中同様、昭和40年代をリアルに再現したセットや、まる子、たまちゃん、友蔵などなど、おなじみのキャラクターがパネルで勢ぞろいする。佐々木のじいさんなど、好きな人にはたまらないキャラクターも忘れていないところに、同テーマパークの完成度が表れている。「ちびまる子ちゃんグッズショップ」には、ステーショナリーやハンドタオルなど多岐にわたってオリジナルグッズが用意されており、気が付くとあれもこれも買ってしまうに違いない。だって、あまりにもちびまる子ちゃんの世界観を踏襲した郷愁を誘うデザインが秀逸なんだもの。雨だろうが雪だろうが、デザインで描かれた富士山とまる子を見れたら、ゆめいっぱい、です。

 そして、「ちびまる子ちゃんランド」のお隣には、あげパン、ソフトめん、冷凍みかんなど、給食の定番メニューを“あの頃の味のまま”楽しめる「みんなの学校給食」がある。「ちびまる子ちゃんランド」で昭和の郷愁を感じたその足で、「みんなの学校給食」に飛び込む……サウナから水風呂に飛び込んだときのような最適解が、S-PULSE DREAM PLAZAにはあるのだ。幻聴だと分かっていても、どこからともなく「キーンコーンカーンコーン♪」という鐘の音が聴こえてくる……ああ、そろそろ家路につかなければ。旅のフィナーレを飾るに相応しいエンタメ体験の数々が、S-PULSE DREAM PLAZAには詰まっている。

 たしかに富士山を見れるに越したことはない。でも、見れなくても十分、静岡市は面白い。もし富士山が見えなくても、気を落とす必要はまったくない。

【S-PULSE DREAM PLAZA エスパルスドリームプラザ】https://www.dream-plaza.co.jp/ 

 

(写真・文 我妻弘崇)

 

夏のこの時期に見てみたい!知られざる神楽エンターテインメント

2019.08.05 Vol.Web original

 

2019年5月に日本遺産に登録された「石見神楽」

 

この時期になると夏祭りのにぎやかな音があちこちから聞こえてくる。盆踊りや太鼓、おみこしなど、日本の趣ある伝統文化の良さを実感する機会も多いだろう。

個性豊かな祭りが各地に存在するなか、日本で最も古い伝統芸能に「神楽」があるのをご存知だろうか。名前は聞いたことはあっても、歌舞伎や狂言、能などに比べると知らないことも多い。そもそも神楽はどういったものか、どんな楽しみ方があるのか。全国でも有数の神楽どころ、島根県石見地方で、知られざる神楽エンターテインメントにふれてみた。

日本遺産に認定された、石見神楽

重さ20kgあるという豪華絢爛な衣装と表情豊かな面をつけて舞う「石見神楽」。島根県西部の石見地方で古くから伝わり、今年5月には日本遺産にも認定された。ひゅるる〜という独特の軽快な笛の音と、活気溢れる太鼓囃子にあわせて舞うのが特徴で、歌舞伎や能に比べると、動きは激しめ。かつては、地域の娯楽として秋祭りの前夜祭に演じられていたが、現在は130以上の団体が定期的に活動し、年間を通して見ることができる。

迫力ある白鬼のお面。大人でもちょっと怖いかも

興味深いのは、子供たちも楽しめる明快なストーリーだ。2019年3月に江津市にオープンした石見神楽専用の劇場「舞乃座」では、親子連れの観客も多いという。「鬼退治」や「大蛇退治」など、勧善懲悪のわかりやすいストーリーに加え、火花や煙などの演出で迫力も満点!初めて見る筆者も夢中になってしまう。鑑賞料も1000円というから、まさに地域の娯楽として身近な存在であることがわかる。

軽快でスピーディーな舞は必見だ

誰でも楽しめることで、石見では若い人も神楽に積極的だ。なんと石見には「神楽推薦」なるものが存在し、神楽を演じるために他の地域から学生がやってくる。島根県立浜田商業高等学校の郷土芸能部では、部員14名が所属し、年間30公演ほどを行なっている。代表作品「大蛇」の主人公・須佐之男命を演じた松井隆河さんは「小さな頃からあるのが当たり前で、神楽を見るのが好きでした。公演で皆さんから声援をもらえる瞬間がうれしいですね」と目を輝かせた。

郷土芸能部部員のお二人。演目の指導はOB・OGがしてくれるそう
島根県立浜田商業高等学校は、郷土芸能の文化推進校にも指定

石見神楽の舞台裏は、オール石見

演者だけではない。石見神楽に使われる面や衣装、道具はすべて石見の人びとによって作られている。神楽の顔となる面は、軽さを重視して、伝統工芸の石州和紙を貼り重ねて作られている。柿田勝郎面工房には、何百種類の面がずらり。ひとつひとつ要望を聞いて手作業でつくるため、ひとつの面を作るのには、1ヶ月ほどかかるそう。柿田勝郎さんが大切にしているのは、神楽団への敬意。「古きを重んじこだわるところ、新しい斬新なものを求めこだわるところ。それぞれの神楽団の要望に、白紙の気持ちで応えたい」と思いを語った。

柿田勝郎面工房で語る柿田勝郎さん
面の型は数百種類だという

神楽に迫力を生む大蛇の舞にはかかせない「蛇胴」も石見オリジナルだ。竹と石州和紙からなる蛇胴は、軽くて丈夫なのが特徴。長さ約17m、重さ約12kgもある蛇胴を植田製作所2代目の植田倫吉さんは、約一週間かけてひとりで作り上げる。冬に翌年分の竹を刈り、そこから骨組みとなる約5000本の竹棒を手作業でつくっていく作業は根気がいるという。「大阪万博で好評をいただいたときはうれしかったですね。お客さんと色の相談をしながら作り上げていくのが楽しい」と笑顔を浮かべた。

伝統芸能というと、堅苦しい印象があるが、私たちの文化は、伝統の延長線上にあると考えるとどうだろう。ぐっと身近に思えてくるのではないだろうか。神楽を支えてきた人々の営みと心意気にふれたとき、なにか大切な宝物を見つけたような、そんな特別な思いを胸に抱く。伝統が生活に溶け込み、その生活がまた伝統をつないでいく。オール石見の強さを垣間見た気がした。

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