中国全人代における香港への「国家安全法」導入の採択を糾す【長島昭久のリアリズム】

2020.06.08 Vol.730

 5月28日、国際社会で深刻な憂慮の表明が相次ぐ中、中国全人代(全国人民代表大会)は、香港への「国家安全法」の導入を図る議案を圧倒的多数で採決しました。22日に開幕した全人代の議題に同法が上がっていたことで、世界に衝撃が走り、各国政府や議会人たちが一斉に批判の声を上げました。そこで、私は、できれば我が国でも国会決議をすべきであると考え、自民党内で根回しを始めました。  しかし、国会決議を提案するには党内の煩雑な手続きと与野党間の調整などに時間がかかってしまい、全人代の閉幕までに到底間に合わないと判断。旧知の山田宏参議院議員、野党では香港の人権問題に熱心に取り組んできた山尾志桜里代議士に相談を持ちかけ、英国で始まった世界の議会人による共同声明への署名を党派を超えた同僚議員に働きかけることにしました。  そこで、私が起案したのが下記の一文(概要)です。自民党内の有志および野党側は山尾代議士を呼びかけ人として、衆参全議員に配布したところ、わずか2日間で106名の賛同者(5/31時点)を得ました(未だ増え続けています)。これは各国の議会人の署名では、現時点で英国議員に次ぎ第二位の数字ですが、9月の法執行を阻止するべく、継続的に拡大を目指し、中国政府に働きかけるつもりです。
中国による香港版「国家安全法案」の導入をめぐる動きに深い憂慮を表明する世界の国会議員と連帯する署名への呼びかけ  5月22日より開催されているに開幕した中国中華人民共和国(中国)の全国人民代表大会において、香港における国家安全法を導入する議案が審議・可決される見通しとなりました。制度案の審議が始まっています。  私たちは、この法制度案議案が可決された場合、香港返還時に約束された「一国二制度」による高度の自治と民主体制、自由で開かれた国際経済都市・香港を支えてきた法治システムが、香港市民の関与のないまま、一方的に破壊されるのではないかと、香港市民の基本的人権を過度に制約する制度が、香港の憲法にあたる香港基本法に書き込まれる事態を深く憂慮します。  そして、この動きにより、外交防衛以外の分野において香港の高度な自治を保障した「一国二制度」が毀損され、自由で開かれた国際都市香港の安定的繁栄を決定的に損なうことにもなりかねません。  2019年、突如提案された「逃亡犯防止条例」とこれに対し、これに反対するデモ隊及び市民への権利、自由、基本的人権を無視した香港当局による過剰苛烈な鎮圧行動は記憶に新しいところですが、さらに国家安全法が導入されることになれば、この文脈での上記法案の審議は、香港の自治に対する中国政府の介入及び香港市民の自律と人権への敵対的姿勢がより一層エスカレートすることになるのではないかと強く危惧します。  (略)すでに英国をはじめとする25か国231人以上の国会議員が、この国家安全法案をめぐる動きは1984年の「中英連合声明」に対する目に余る明白な違反であり、断じて容認できないと非難、深い憂慮を表明する共同声明に署名しています。  そこで、私たちも、基本的人権の尊重と法の支配という人類普遍の価値を共有する先進民主主義国家・日本の国会議員として、世界各国の議会人と連帯価値を確信している国家として、幅広い国際社会からの意思表示に加わり、普遍的な価値へ明確なコミットメントコミットを表明するべく、上記共同声明への賛同署名をお呼び掛けさせて頂くものです。 (略)  
        (衆議院議員 長島昭久) ※5月11日号が6月8日号と合併となったため【コロナ禍で迎えた「こどもの日」に考える】はWEB( https://www.tokyoheadline.com/496449/ )でご覧下さい。

コロナ禍で迎えた「こどもの日」に考える【長島昭久のリアリズム】

2020.05.08 Vol.web Original

 五月晴れの下、今年も「こどもの日」を迎えましたが、子どもたちが心配です。 コロナ禍で迎えた「こどもの日」は、子どもたちにとっても、子育て家庭にとっても、不安とストレスで押しつぶされそうな辛いものとなってしまいました。  じっさい、児童虐待相談が激増しています。些細なことが原因で夫婦げんかが高じてDVの被害も急増しているといいます。現にフランスでは、都市封鎖が始まって以来DV通報件数が倍増。ベルギーでもデンマークでも、DV相談窓口への問い合わせが2倍から3倍に達したといいます。  都市封鎖まではいきませんが、自粛要請が続く緊急事態宣言下の日本も例外ではありません。専門家によれば、家族は外出自粛でストレスを抱えている上、学校の休校で教員が児童生徒の様子を直接確認できない現状では、深刻な虐待が起きている可能性が高いといいます。また、児童相談所でも、子どもたちの健康状態を確認するため虐待のリスクが疑われる家庭を職員が訪問したり、保護者に来所を求めても、コロナ感染を理由に断られてしまうケースが続出しているというのです。  このように、普段でも社会的に孤立する傾向のあるリスク家庭が、コロナ自粛の影響でますます孤立し、各家庭内で起こっていることがさらに見えにくくなっているのです。そのような状況は、「一律給付金」では救えません。辛うじて仕事と家事を両立させてきた、ひとり親家庭では、そもそも給付金を受け取るための手続きすらままならない状況に置かれているといいます。各市が児童扶養手当の上乗せを表明しているニュースを見ました。素晴らしいことなのですが、それが肝心な家庭にとって必要十分な支援となっているのか覚束ないのです。  そこで、私が今注目しているのが、兵庫県明石市の推進する「おむつセット定期便」や東京都文京区の「子ども宅食」です。これまでのような相談窓口を開設して連絡が来るのを待っているのではなく、積極的に各家庭まで出張って行って必要なサービスを直接届ける「アウトリーチ」型の子育て支援です。これは行政だけでは実現できません。子ども宅食であれば、食事を提供したり、運んだりといった企業や団体が諸力を合わせて実現しているのです。  アウトリーチ型の最大のメリットは、おむつや食事を届ける際に、家庭の様子を観察できる、問題を発見したら直ちに必要な支援につなぐことができるという点です。事件が起こるたびに虐待された子どもにどう対処するかという「川下」の方策に議論が集中しますが、それよりも、虐待そのものの発生を未然に防ぐため子育て家庭への直接支援(川上の対策)こそ、児童虐待防止の要諦ではないでしょうか。政治には、今こそ「川上」つまり子育て家庭支援にヒト、モノ、カネを投入できる仕組みづくりが求められていますので、全力で取り組んで参ります。

コロナ禍との闘いは、私たちの文明の「勁(つよ)さ」を示す闘い【長島昭久のリアリズム】

2020.04.13 Vol.729
 政府が全国7都府県に緊急事態宣言を発令し、「コロナ禍」との闘いもいよいよ新たな局面を迎えました。欧米のような強制力は伴わないものの、各自治体の知事が発する要請や指示に法的な裏付けを与えるもので、外出や移動の自粛を徹底させることにより、爆発的な感染を阻止する国家の意思を鮮明にしたといえます。政府は同時に、総額108兆円(事業規模)に上る緊急経済対策を中核とする補正予算案を閣議決定し、直ちに国会に提出しました。向こう一か月、5月の連休明けまで、国民がどこまで結束して「三密(密閉、密集、密接)」回避を徹底できるかに、日本の経済社会の将来が懸かっているといっても過言ではありません。  パンデミックという見えない敵との闘いは、私たちの文明そのものが試されているともいえます。したがって、私たちは公衆衛生と科学技術に関わる全世界の英知を結集して、コロナ禍を抑え込み、一日も早く終息させねばなりません。そのためには、ワクチンの開発が急務です。すでにジョンソン・アンド・ジョンソンが来年初めまでに完成させることを宣言。その他、有望な研究開発が世界各国で進められています。  一方、コロナ禍を契機に、新しい技術の社会実装が加速化されつつあります。その代表的なものが、オンライン化です。感染が拡大する中、医療崩壊を防ぐ意味からも「遠隔診療」が普及する兆しを見せているのは必然の帰結といえます。また、教育の分野でも、新学期を前にして「オンライン授業」の環境整備が差し迫った課題となっています。そんな中、友人の大学教授から一通のメールが舞い込みました。各大学がオンライン講義導入の検討に入る中で、肝心の受講する学生たちの通信インフラが心もとなくボトルネックになっているというのです。平均的な学生が契約している現状の通信プランでは、データ容量が足りず、あっという間に容量オーバーしてしまい膨大な追加料金が発生してしまうのです。そこで、通信大手3社(ドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク)に学生たちの通信料負担を軽減してもらえないか、との相談でした。  たまたま当選同期で親交の深い萩生田光一文科相と西村康稔コロナ対策担当相に連絡して、大学関係者の切実な要望を伝えたところ、すぐに動いてくれました。4月3日には、通信3社が、学生を中心に全国の25歳以下の契約者・利用者を一律に対象とする方向で、スマートフォンのデータ通信料金を一部無償化する(4月中はデータ容量の追加購入に必要な料金を取らない)方針を発表したのです。  コロナ禍との闘いを、オンライン化という技術革新の社会実装を急速に拡大する契機と捉え直せば、それは高等教育のみならず、一人一台の端末保有をめざす小中学校でも、開始時期を2023年から一気に前倒しすべきと考えるのは自然の流れです。自民党の行政改革推進本部では、コロナ禍との闘いを機に、遅れていた教育、医療、行政手続などのオンライン化を一気に進めようとの提言をまとめました。ピンチはチャンス。コロナ禍との闘いは防戦一方ではなく、私たちの文明の「勁さ」を示す闘いでもあると思います。     (衆議院議員 長島昭久)

ピンチはチャンス!新型コロナウィルス禍との闘いは政策転換の好機【長島昭久のリアリズム】

2020.03.09 Vol.728
 2月27日、安倍総理が急遽「全国の小中高校一斉休校」を決断したことにより、全国民が新型コロナウィルスに対する危機感を共有することとなりました。この決断に対しては、教育現場や子育て家庭(とりわけ、テレワークなどで対応できない職種に従事する共働きやひとり親家庭)から悲鳴が上がりました。もちろん、休校中の子ども達のケアや、正規・非正規にかかわらず子どものための休暇を選択した親御さんへの助成措置など、きめの細かい対応が求められます。  ただ、だからといって、政府に「休校要請」の撤回を求める野党の姿勢はいただけません。「市中感染」という目には見えない津波や洪水が差し迫っている中で、命を守るため避難勧告(この場合は、一斉休校の要請)を発するのはやむを得ず、しかも、総理の意図には国民に危機の切迫を知らせる「ショック療法」の意味が込められていたのではないかと考えます。  自己反省も込めて率直に言えば、それまでは、政府も国会も専門家もメディアも、新型コロナ禍に対する認識が甘かったのではないかと思います。残念ながら、「水際対策」という緒戦には敗北したと言わねばなりません。初動に失敗した以上、今後は「市中感染」を極力封じ込めることに「背水の陣」で臨むほかありません。  今後は、3月末までの正念場の期間において、日本の経済・社会の生き残りを図らねばなりません。新型コロナ禍との闘いで国民の協力を仰ぐ以上、政府が国民の生活を守り抜き、日本経済の反転攻勢を全面的に牽引する姿勢を鮮明にする必要があります。2008年、リーマン・ショックに直面した英国のブラウン首相(当時)は、国民に向かって「現在、家計で苦しんでいる全ての世帯に、我々が救済に乗り出す準備があり、あなた達の味方であることを理解してほしい」というメッセージを発し、17.5%だった間接税率を一年間15%に引き下げました。  ここは、わが国政府も、消費税減税にまで踏み込んだ大胆な「経世済民」策を打ち出す局面です。とくに、感染拡大防止策により打撃を受けた企業への緊急融資対応(個人事業主などには直接給付も)などに加え、10兆円を超える規模の国債を新規に発行し、それを財源として子育て家庭や就職氷河期の若者への重点支援、企業の研究開発投資のテコ入れなどは、停滞する経済・社会の再生に不可欠です。「ピンチはチャンス」と捉え、異次元の金融緩和と財政出動というアベノミクスの原点に立ち返り、なかなか果たせずにいたデフレからの脱却とともに日本社会の底割れを防ぐ迅速な行動が求められています。 (衆議院議員 長島昭久)

「アジア太平洋国会議員フォーラム」参加報告の巻【長島昭久のリアリズム】

2020.02.10 Vol.727
 正月早々の1月11日から16日まで、豪州キャンベラで開催された第28回アジア太平洋国会議員フォーラム(Asia Pacific Parliamentary Forum, APPF)に日本の国会を代表して参加しました。APPFは、昨年逝去された中曽根康弘氏が総理大臣を辞められた後に、アジア太平洋諸国の議会人に呼びかけ創設した会議体で、政府間の建前論を超えた本音の議論を議会人同士で大いに戦わせようではないか、という基本精神が貫かれてきました。  今年も域内28か国から300名を超える国会議員が一堂に会し、3日間にわたり経済、安全保障、環境など主要なテーマが討議され、時に激しい議論を戦わせました。私は、日本が全体会議に提出した3つの決議案のうち、地域における安全保障課題に関する決議案の趣旨説明を行い、各国代表との分科会での議論に参画しました。そこでは、朝鮮半島の非核化に加えて、南シナ海をめぐる中国の強硬姿勢が争点となりました。  私からは、中国が力を背景に広大な人工島を造成し、軍事要塞化している現状について率直に警鐘を鳴らすとともに、「中国の行動は、地域諸国の信頼を損ね、緊張を高め、平和と安定を蝕むものであり、私たちはこれを看過するわけにはいかない。このような行動が繰り返され、容認され、未解決のまま放置されれば、地域における国際秩序は根底から覆されてしまうであろう」と、深刻な危機感を背景に敢えて強めの発言を行いました。とくに、海洋における自由で開かれた法秩序は、人類が長い歴史を経てようやく合意に漕ぎつけた規範であって、その中核理念は「武力やその威嚇を背景にした一方的な行動により現状を変更しようとする試みを全面的に禁じて」います。この基本原則こそ、アジア太平洋地域の安定と繁栄の基礎にほかなりません。  これに対し、中国代表団が全体会議でも分科会の場でも猛然と批判、反論を行ったことは想像に難くないでしょう。しかし、日本や豪州のみならず、ヴェトナム、インドネシア、マレーシアの代表団も私たちの懸念を共有し、中国代表団に対し厳しく反論。ロシアや韓国の代表団も、基本的に同調してくれたのです。もちろん、これは決して中国をやり込めるための問題提起ではありません。あくまでも当事国による二国間解決を強調する中国に対し、国際秩序の根幹にかかわる問題は、二国間だけでなく地域全体の懸念であることを認識してもらうためのものでした。全会一致ルールの下で、最終的には決議案から「南シナ海」という固有名詞は削除されてしまいましたが、豪州代表団の修正案によって、地域全体の課題であることが再確認されたことは有意義だったと考えます。  今後とも、あらゆる国際場裏において、地域大国である日本が豪州や東南アジアの有志国と連携しつつ、アジア太平洋の平和と安全と繁栄を確立する使命を果たしていかねばならいと再認識し、帰国の途につきました。  (衆議院議員 長島昭久)

令和初の元旦に誓う「日本再起動」【長島昭久のリアリズム】

2020.01.13 Vol.726
 令和2年の元旦は、新天地(東京第18選挙区=武蔵野市、府中市、小金井市)で迎えました。  今年は庚子(かのえね)。「庚」は一つの波が引いて新たな波が起こることを意味し、「子」は十二支の始まり。すなわち、新しい時代の始まりを告げる年ということになります。私自身も、約20年お世話になった選挙区を離れ、政治家として生まれ変わるような覚悟で新たな選挙区において再スタートを切ることとなりました。  さて、昨年末に外交、内政をめぐり実現した二つの出来事は、政府与党の政策実現力を改めて内外に示しました。同時に、政府与党の一員として、その政治決定の現場に立ち会えたことに深い感慨を覚えました。その一つは、中東への海上自衛隊艦艇の派遣決定、今一つは、寡婦控除の対象を「未婚のひとり親」へ拡大する税調決定です。  前者は、自国の防衛という狭い国益に汲々としていた我が国の安全保障の「地平」を、国際秩序の維持(今回は、中東における海洋の安全保障)にまで広げるという意義深い政治決断だったと思います。後者は、配偶者と死別・離婚したひとり親に適用される「寡婦(寡夫)控除」の対象拡大に加え、所得税などを軽減することにより、貧困や虐待に苦しむ子ども達の成育を支援するという画期的な決断でした。  これらの成果の土台の上に、私自身のライフワークである「(外交)安全保障」と「(子ども達の)未来保障」を軸として、「新しい日本」の創生に全力で取り組む所存です。  前者をめぐっては、日米同盟を「日・米・英・豪との同盟」に発展させることにより、新たな国際秩序の中核を担う意志と行動を世界に示す新しい日本の外交・安全保障の指針を構想していきたいと考えます。経済や軍事のみならずあらゆる分野で台頭する中国との関係を安定化させるためには、自由で開かれた国際秩序を支える確固たる基盤が不可欠です。EU離脱を契機に英国を引き込み、東アジアにおいて英連邦と米国との紐帯を担う豪州と共に、インド太平洋地域の平和と安定と繁栄を積極的にリードする体制を構築していくのです。  後者をめぐっては、一昨年視察したフィンランドをお手本に、日本版の「ネウボラ制度」を官民挙げて全国に整備していきたいと考えます。昨年ついに出生数が年間90万人を割りました。しかも、せっかく生まれてきた子供たちの7人に一人が貧困に喘ぎ、毎日のように虐待やいじめで命を落とすという厳しい子育て環境を劇的に改善せねばなりません。そのためには、家族以外の支え手のネットワークが必要不可欠です。妊娠から出産、せめて小学校に上がるまで、無限の可能性を秘めたその尊い命を、国を挙げて地域を挙げて大事に育てる社会をつくり上げるために全力を傾けてまいります。  いずれにせよ、政治活動20年目の今年、政権与党の一員として、新たな時代にふさわしい「新たな日本」、すなわち「未来に誇れる日本」をつくるために粉骨砕身汗をかいてまいりますので、変わらぬご支援の程よろしくお願いいたします。 (衆議院議員 長島昭久)

中曽根大勲位のご逝去を悼む【長島昭久のリアリズム】

2019.12.09 Vol.725
 去る11月29日、大正、昭和、平成という激動の時代を駆け抜け、令和新時代の幕開けに係る全ての儀式が滞りなく執り行われたのを見届けるように、中曽根康弘元総理が101歳の天寿を全うされた。生前に賜ったご指導に深く感謝しつつ、心より哀悼の誠を捧げたい。

今こそ、日米同盟の「構造改革」が必要だ【長島昭久のリアリズム】

2019.11.11 Vol.724
 戦後長らく日米安全保障体制は、右からも左からも「不平等条約」の批判にさらされてきた。安保条約に基づいて締結された日米地位協定が在日米軍将兵に過剰なまでの特権的な地位を付与していることに対する怨嗟(えんさ)の声は、今なお根強い。そこに今度は、ドナルド・トランプ米大統領からの「不公平」批判である。曰く「米国は日本を守る義務があるのに、日本は米国を守る義務がない」。もちろん、在日米軍を支える我が国の負担は莫大で、そこから得られる米国の戦略的な利益は決して小さくなく、日米同盟関係はトランプ大統領が指摘するほど単純なものではない。しかし私は、大統領の疑問はシンプルだが、正鵠(せいこく)を射た指摘だと思っている。  たしかに、日米安全保障条約第5条によれば、我が国は「日本の施政の下にある領域」への武力攻撃に対してしか日米共同防衛の義務を負わない。じつは、米国が結んでいる同盟において、このような「不公平」な構造になっているのは日米安保条約のみである。たとえば、NATO(北大西洋)条約では、「欧州および北米」における武力攻撃に加盟国が共同対処すると明記されているし、アジアの同盟である米韓、米比、米豪においても「太平洋地域」における武力攻撃に対し締約国が共同で対処すると規定されている。いずれも「相互防衛条約」なのである。  一方、日米は相互防衛条約になっていない。したがって、その不公平性を穴埋めするために安保条約には「第6条」が設けられ、大要「極東の平和と安全のため我が国が米軍に対し日本が基地や施設の提供義務を負う」ことが定められたのである。この条項こそ、国内で怨嗟の的となっている地位協定の不平等な現実の根源に他ならないが、米国から見れば不公平性を埋め合わせる形で辛くも日米の「双務性」を担保する仕掛けになっているのである。この日米安保体制をめぐる不平等と不公平(その故に、日米同盟は不安定な軋みを伴うことになる)こそ、憲法に起因する「戦後レジーム」の象徴といえる。  こんな綱渡りの状態をいつまで続けるつもりなのだろうか。せめて米韓同盟のように「太平洋地域」においては日米が相互に防衛し合う対等な関係を構築できないものか。そこで、戦後レジームの下に幾重にも施された安全保障をめぐる過剰な縛りを克服し、厳しい安保環境に直面する我が国の平和と安全を確固たるものにするために、第二次安倍政権発足以来、秘密保護法制の制定、国家安全保障局(日本版NSC)の創設、平和安全法制の成立など着実に安保改革が積み重ねられた。そして、その改革の核心こそ集団的自衛権の行使容認なのである。今度は、その土台の上に、日米同盟を「相互防衛体制」に進化させ、名実ともにイコール・パートナーとして、インド太平洋の平和と安定と繁栄の公共財として機能させたいものだ。

戦後最悪の日韓関係をいかにすべきか(上)【長島昭久のリアリズム】

2019.08.12 Vol.721

 安全保障上の理由から、韓国を優遇的地位から他のアジア諸国並みとした日本政府による貿易管理の厳格化措置をめぐり、韓国では国を挙げて反日機運が高まっています。私は、今回の出来事は、日韓関係を普通の隣国関係に転換する好機ととらえています。  これまでの日韓関係における問題解決のパターンは、歴史問題(日本による朝鮮半島の植民地化に起因)を巡って「被害者(被支配国民)vs加害者(支配国)」という構図に基づいて、「加害者」とされる日本側が(過去に対する贖罪意識から)特段の譲歩を迫られるというものでした。その典型が、2015年暮れの「慰安婦合意」です。  慰安婦をめぐっては、「河野談話」によって事実認識に混乱が生じ、韓国の民族左派民間団体などの攻勢を受け、またしても日本政府が譲歩を迫られていました。じつは、この問題は韓国との関係を重視していた民主党政権でも解決できませんでした。しかし、保守派の安倍政権となって、「戦時における女性の人権問題」と捉え直し、あらゆる請求権問題は1965年の日韓基本条約・日韓請求権・経済協力協定によって「完全かつ最終的に解決」したとの大原則は堅持しつつも、被害者の尊厳を回復する措置の一環として日韓両国で基金を創設することに合意し、日本から10億円を拠出することで最終決着させたのです。これにより、慰安婦問題は、「最終的かつ不可逆的に解決された」(2015年12月28日、日韓外相共同記者発表)“はず”でした。  しかし、前政権の反動で誕生した文在寅政権において、民族左派が牛耳る側近の影響もあり、この国際約束はあえなく反故にされてしまいました。日本政府にとって、いや日本国民にとってもこの衝撃は深刻でした。この頃から「もはや韓国は信用できない」「日本はいつまで譲歩を続けるのだ?」といった論調が、保守派ばかりでなく一般の方々からも発せられるようになりました。さらに、火に油を注ぐような事案—釜山港に入港する自衛艦の旭日旗掲揚を拒否、韓国駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射、韓国国会議長による天皇陛下(現上皇陛下)侮辱発言など—が次から次へと発生し、日韓関係は戦後最悪に陥ったのです。
 そして極めつけは、元朝鮮半島労働者をめぐる韓国大法院(最高裁)判決です。「合意は拘束される」(つまり、日韓基本条約・請求権協定など国家間の合意は、行政のみならず、司法も含む三権を拘束する)という国際法の大原則を踏みにじる韓国政府の姿勢に、「仏の顔も三度まで」、ついに日本国民の堪忍袋の緒が切れてしまったというのが現実なのです。  これら韓国側の一連の対応は、日韓関係を、これまでのような歴史問題をめぐる「加害者vs被害者」という構図とは全く異なる次元に向かわせることとなりました。次回詳しく論じますが、今、日韓関係で問われているのは、加害側が被害側にどこまで譲歩するかという問題ではなく、「約束を守るのか、破るのか」という国家関係の基本に関わる問題です。 (衆議院議員 長島昭久)

令和元年の憲法記念日に誓う「現実的な平和への道筋」【長島昭久のリアリズム】

2019.05.13 Vol.718
 数か月前まで「激動の朝鮮半島をめぐる『不都合な真実』」と題して連載をしておりましたが、3月のハノイにおける米朝首脳会談の決裂によって事態は暗礁に乗り上げたまま動く気配がないたため、「閑話休題」として5回にわたって日韓問題や日露交渉について論じてきました。しかし、いつまでも閑話休題を続けるわけにもいかず、今回から正常軌道に戻してふたたび様々な国家的課題についてリアリズムの視点から論じてまいりますので、よろしくお願いします。  さて、5月1日午前零時(4月末日24時)、202年ぶりの天皇ご譲位が無事行われました。2000年を超える万世一系の皇統の歴史に思いを馳せ、上皇陛下の最後のお言葉、天皇陛下の最初のお言葉を拝聴し、有難く胸が熱くなりました。令和の時代も平和を守り、世界の課題解決の先頭に立つ日本を築いてまいりたい、と決意を新たにしました。  そして、令和元年が明けて3日目の憲法記念日、民間憲法臨調主催の「公開憲法フォーラム」に衆院会派「未来日本」代表として出席し、昨年に続き挨拶の機会をいただき、大要以下のようなことを述べました。  まず、新天皇践祚(せんそ)の儀式が滞りなく行われたことを寿ぎ、その上で、私たちに課された重大な使命が、憲法の改正とともに、安定的な皇位継承を図るため速やかに皇室典範改正の議論を行うことであると述べました。その際、皇統の根幹たる男系継承の大原則と共に、占領下GHQによって強制的に皇籍離脱させられた11宮家51方の存在を忘れるわけにはいかないと指摘させていただきました。  つぎに、平成最後の外国訪問を台湾とし蔡英文総統はじめ政府要人と会談を重ねたことを報告し、中国からとてつもない圧力にさらされた台湾の現状は、まさしく「明日の我が身」に他ならないと警鐘を鳴らしました。いま、中国は、圧倒的な軍事力の威嚇とともに、台湾社会の各層に凄まじい浸透工作(influence operations)を展開し、蔡政権の政治基盤は大きく揺さぶられています。  そのような中、蔡総統からはアメリカとともに日本外交に対する期待の言葉をいただきましたが、「力の裏付けなき外交」は単なる社交辞令に過ぎません。いま我が国に必要なのは、台湾海峡の平和はもちろん、インド太平洋地域の平和と安定と繁栄をアメリカと共に下支えできるだけのリーダーシップであり、それを裏付ける「安全保障の力」(国際秩序を形成する力)に他なりません。その力を発揮するためにも、憲法9条の改正が急務であると述べました。憲法条文と我が国を取り巻く国際情勢の現実とのギャップを放置することは、憲法規範の空洞化を放置することと同義であり、まさしく立憲主義に反するのではないかと指摘しました。  もちろん、この考え方に異論のある方もおられると思いますが、先ずは国会の衆参両院に設けられた憲法審査会の議論を一刻も早く再開すること。これぞ令和の時代における国際平和を「現実的なアプローチ」で築いていくために国会議員に課せられた重大な使命であると心得ます。 (衆議院議員 長島昭久)

閑話休題 その3:北方領土をめぐる日露交渉に、喝!(中)【長島昭久のリアリズム】

2019.03.11 Vol.716

 前回おさらいした過去の経緯を踏まえ、安倍首相は今、どのようなアプローチで北方領土問題を解決しようとしているのか、分析を試みましょう。結論から言えば、安倍首相は、「4島一括返還」を求めてきたこれまでの日本政府の姿勢を転換し、歯舞・色丹の2島(先行)「引き渡し」に焦点を絞り、平和条約の締結(を通じて両国関係の完全正常化)を急ぐとの戦略的決断を行った模様です。昨年11月のシンガポールでの日露首脳会談において「1956年の日ソ共同宣言を基礎にして平和条約締結交渉を加速化する」ことで合意したというのは、まさしくそのことを意味するのでしょう。  この点をめぐり、国内から批判の声が上がっていることは周知のとおりです。すなわち、歴史的にも国際法の上からも我が国固有の領土である国後・択捉の2島を事実上放棄することは、竹島や尖閣など他の領土問題に対する悪影響はもとより、主権国家としての外交姿勢の根本が問われることになります。しかも、歯舞・色丹の領土面積は北方領土全体のわずか7%に過ぎないのではないかとの批判です。ここへ来ていきなり「日ソ共同宣言」の線で平和条約交渉をまとめたいと言われても、それは過去60数年間の日ソ・日露交渉の経過をあまりにも軽視した姿勢と言わざるを得ないのではないかと。我が国の国力は、敗戦から10年しか経っていない1956年当時とは比べものにならないくらい拡大しており、冷戦後の93年の東京宣言では「平和条約交渉の継続は4島の帰属問題の解決を意味する」という合意にまで、日本がロシアを押し返した外交成果を無にするのか、というわけです。  したがって、安倍政権としては、たとえ93年の線から後退してでも今なぜ平和条約締結を急がねばならないのか、その理由を説得力ある形で国民に示す必要があります。そこには、日露の二国間関係を超えた地政戦略的な正当性がなければなりません。もちろん、(不法か否かに拘わらず)すでに島を占有しているロシアにその返還を求める日本としては、相応の妥協を強いられることは覚悟せねばなりません。たとえば、領土返還の代価として、ロシア側が求める経済協力プロジェクトや北方領土の共同管理などで日本側の歩み寄りは最低限必要といえましょう。  最終回は、そのような一見不釣り合いともいうべき代価を支払ってでも、ロシアとの平和条約締結を急ぐべきだとの安倍政権による「戦略的判断」の是非について考察したいと思います。 (衆議院議員 長島昭久)

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