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米軍のアフガニスタン撤退の教訓【長島昭久のリアリズム】

2021.09.13 Vol.745

 8月15日、アフガニスタンの首都カブールがタリバンの猛攻を受けて陥落しました。丸20年に及ぶ米国をはじめ有志連合によるアフガニスタン戦争のあっけない幕切れです。

 米国は、2001年以来、2兆ドルの巨費を投じ、ピーク時には13万人の有志連合軍を指揮し、約2500人に上る犠牲者を出しながら、30万人のアフガン政府治安部隊を育成し、精密な最新兵器や空軍力を駆使しましたが、はるかに装備の劣る8万人弱のタリバンを屈服させられませんでした。

 バイデン大統領は、この米国史上「最も長い戦争」を強引に終わらせたのです。手段の巧拙は別として、バイデン政権の意図は明々白々でした。今世紀における米国最大のライバルである中国との戦略的競争を勝ち抜くために、余計な重荷を降ろして全ての国力を東アジア・西太平洋正面へシフトさせようとするものです。

 カブール陥落の翌日、ホワイトハウスから声明を発したバイデン大統領は、「アメリカ軍は、自分たちのために戦おうとしない戦争で、戦って死ぬことはできないし、そうすべきでもない」と述べました。

 これは、直接的には、まともに戦わず四散逃亡したガニ大統領はじめアフガン政府首脳や治安部隊に向けられた言葉であることは間違いないのですが、もう少し広いインプリケーション(含意)があると考えた方がよいのではないでしょうか。

 この言葉は、今後の尖閣諸島にも、台湾にも、朝鮮半島にも、南シナ海情勢にも十分当てはまると思います。すでに米国一強時代は過ぎ去りました。軍事介入によって局面を打開しようと考えても、それを支えるリソース(能力、財源、国民の支持)がなければ諦めざるを得ません。したがって、今後の紛争や危機においては、当事国の意志と米国の支援リソースとのにらみ合いが顕著になると覚悟すべきです。結局、「自分の国は自分で守るべし」というシンプルな教訓、これが第一です。

 第二の教訓は、カブール陥落直後に中国から発せられた「警告」に関連します。17日付の『環球時報』(中国共産党機関紙『人民日報』系列紙)英語版は、「台湾当局がアフガニスタンからくみ取るべき教訓」との社説を掲載。「米国がアフガン政府を見捨てたことに最も衝撃を受けているのは台湾だ」と指摘しました。この意図も明らかです。アフガンから撤退した米国の信頼性をことさら傷つけ、同盟国や友好国との間に疑心暗鬼を起こさせ離反させようとしているのです。我が国はじめ米国の同盟国は、このような中国の意図に引っかからないようにすべきでしょう。

 私たちは、米国の意志と能力の限界をリアルに見据えながら、自助努力を怠らず、かつ、米国への対抗心に燃える中国が喧伝する「東昇西降」(弱体化する米国に代わって中国が覇権を握る)のナラティヴに翻弄されないようにせねばなりません。

(衆議院議員 長島昭久)

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