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徳井健太の菩薩目線 第103回 しょうもな!って思うことほど、バカにしてはいけないんだよね

2021.07.10 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第103回目は、アミューズメントカジノで遭遇した体験について、独自の梵鐘を鳴らす――。

アミューズメントカジノなる施設がある。

ブラックジャック、バカラ、ルーレット、ポーカーといったゲームを楽しむことができる――、といっても“仮想カジノ”なので、本物のお金をかけたりすることはできない。

プレイヤーは、施設内のゲームに参加するために、あらかじめ専用のチップを購入し、そのオリジナルチップを投じて楽しむ。

いうなれば、ゲームセンターにあるコインゲームと同じ。勝ったからといって、そのオリジナルチップを法定通貨に交換することはできないから、ゲームに勝っても“オリジナルチップが増えるのを自己満足として、楽しむ”だけ。まぁ、平たく言えば、酔狂の類だろう。

「料金が後払い」という点についても説明しておこう。入店して、希望のチップ枚数を選ぶ。チップが足りなくなったら、また申告し、希望のチップ枚数をもらう。費やしたチップ枚数は入場伝票に記録されるので、退店するときにまとめて清算するという具合だ。

「ゲームセンターのカジノ版だろ。所詮は子ども騙しだ」なんて思うかもしれないが、これがなかなか面白い。特に、ポーカー(テキサスホールデムポーカー)は、本場のカジノさながらの臨場感を味わえるからか、アミューズメントカジノにもかかわらず連日、多くの客でにぎわい、なかなか席が空かないほど人気を博している。

お遊びといっても、酒を飲みながら楽しむこともできるので、それなりにギャンブル感も味わえる。というわけで、最近は俺もたびたび足を運んで、疑似カジノに興じていたりするのだが、「住めば都」ではないけど「やってみるとギャンブル」を痛感する次第だ。

といっても、“ゲーム”にではなく“人”に、だ。

俺が訪れるアミューズメントカジノには、かならず長身のじいさん(以下・長じい)と、ガラの悪い兄ちゃん(以下・ガラ兄)がいる。その二人はよく顔を合わせるからだろうか、お互いをハンドルネームのような名前で呼び合っている。

俺がお酒を再注文した姿を見るや、「お、兄ちゃん、飲み放題にしたほうがいいよ」なんてアドバイスをしてくる。これがガラ兄だ。俺はチップがなくなったため、この1杯を飲んだら帰ろうと決めていた。ところが、掣肘を加えられたもんだから、帰るに帰られなくなった。大して飲みたくないのに「飲み放題」に変え、追加のチップを支払う。裏目。アミューズメントカジノとは言え、人によって裏目になる。面白い。

一方、長じいはというと、オリジナルチップの中でも最上級と思われる銀色のプレート(もはやチップですらない)を投じてバカラに参加するリッチマンだ。皆がチップを投じているなか、突然、銀のプレートが飛んでくるので、びっくりする。

回転寿司の皿みたいなもので、おそらく一番高いチップを購入すると、その銀のプレートになるんだろう。でも、コインゲームの延長線上にあるアミューズメントカジノで高いチップを買う……そんなイカれた行動ができない俺には、その銀のプレートが実際には何なのかよくわからない。とにかくすごい勢いで、プレートがバンカー、あるいはプレイヤーめがけて飛んでくる。

アミューズメントなカジノとはいえ、狂った人はいるのだ。

ただ、あくまで疑似カジノ。慣れていないスタッフがカードを見せてしまうなどの凡ミスもあるし、本場カジノのように目が「$」になっている人間はいないので、牧歌的な雰囲気につつまれている。初めて参加するカップルがいれば、皆で教えてあげるような空気感もあり、カジノに行く前のチュートリアルだと考えれば、ちょうど良い場所かもしれない。

長じいは、各ゲームを一通りプレイし、2時間ほど滞在していただろうか。

会計をするらしく、たまたま近くにいた俺は、銀のプレートの謎が解けるかもしれないと思い、彼の会計を注視していた。

「お会計は7万円です」

聞こえてきた声に、愕然とした。長じいは酒も飲んでいない。チップだけで……7万円……!? 銀のプレートがいくらなのかわからないけど、ここはアミューズメントカジノだぜ。うそだろ。7万円も使うような場所なのか――。

月に1~2回ほどしか行かない俺が、ほぼ必ず遭遇する長じい。ということは、この人は二日に1回くらいは来ているのかもしれない。毎回平均して7万円くらい使っているのだとしたら、長じいは一体月にいくら落としているんだろうか。まさにギャンブル。こんな酔狂な金持ちが、いるところには、いる。

もしかしたらカジノが大好きで、世界中のカジノで金を吸い上げ、ときには溶かしてきた猛者なのかもしれない。喜び勇んでカジノに行きたい。だけど、コロナ禍で渡航ができない。だから、その欲をアミューズメントカジノへ全振りしているのだろうか。あれこれ想像するけど、疑似カジノに7万円も突っ込める狂人がいることに、俺は戦慄し畏怖の念を抱いた。

あの銀のプレートは、アミューズメントカジノでは魔法のチップかもしれない。でも、一歩外に出ればテレホンカードよりも価値のないプレートだ。

たしかにその通りなんだ。だけど、長じいにとっては、きっと価値のあるプレートなんだろうと考えると、人の欲、趣味嗜好というのは、簡単に考えちゃいけない。しょうもなって思うことほど、バカにしてはいけないんだなって。

どんなにゴミのように無価値なものに見えても、当の本人にとってはかけがえのないものがある。しょうもなって思ってしまうことが、もっとも価値を狭めてしまう言動だと、アミューズメントカジノから教えてもらった気がした。

 

※【徳井健太の菩薩目線】は毎月10・20・30日更新です。

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