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徳井健太の菩薩目線第101回 クレームと異議の違いって何だ? そして、世の中には「先生」が多すぎる

2021.06.30 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第102回目は、クレームと異議の差異について、独自の梵鐘を鳴らす――。

どこからがクレームになるんだろう。

例えば、飲食店で注文した料理が運ばれてこない場合。「出てくるのが遅い」と鼻息荒く呼び止めるのは、クレーム、あるいは難癖の類だと思う。

反面、自分より後に入店した人が、自分と同じ料理を注文し、先に料理が運ばれた場合、「先に頼んでいたんですけど、おかしくないですか?」とお店に伝えるのはクレームではなく、異議申し立ての範疇だろう。

こういったことを普段からみんなが言えるようになれば、クレームか否かの判断も付きやすくなるだろうし、仮にクレームに遭遇しても対処しやすくなる気がする。だけど、どういうわけか異議申し立てすら口にしないで、我慢してしまう人が多いように感じる。みんな、いろいろと自粛しすぎやしないかなんて思う。

異議は、文句とは違うはずだ。そういった意見を伝えることは、とても大切なことだと個人的には思っている。人によっては、この言動すらも“マウントを取っている”ように映るんだろう。でも、明らかにクレームと違う、「私はこう思っているんですけど」がマウントに見えるのだとしたら、あまりに息苦しいし、視界が不良すぎる。

そもそも、どれだけの人がクレームの線引き、基準を持っているんだろう。先の飲食店のように、自分の中で、「こっから先はクレーム」「ここまでは異議申し立て」の基準があったほうが、物事に対する意見がしやすくなると思う。自分の中に尺度がないと、なんでも遠慮しがちになるし、あるいはクレームっぽい考え方に寄ってしまいそうだ。

あくまで私見だけど、とりわけ肩書きがある人や先生と呼ばれている人に対して、萎縮、自粛してしまう人が多いように思う。医者なんて、その典型だ。疑問に思ったことは、相手は医学のプロなんだからどんどん聞けばいい。だけど、「こうですから」と言われると、「……そうなんですね」なんて具合に、おとなしくなってしまう人が少なくない。何も言い返しちゃいけないみたいな雰囲気があるから、セカンドオピニオンが生まれたんじゃないのかなんて邪推したくなる。

かくいう俺も、医者は苦手だ。

子どもの頃に受診した際 、「多分風邪だと思うんです」と断りを入れた子どもの俺に対し、医者は「風邪かどうかを決めるのは俺だから」と一喝した。以後、医者は苦手だ。

子ども心に、「立てついてはいけないんだな」と考えるようになった。でも、医者を目指す同級生がいて、「こんな奴が医者になるのか」と思ったら、なんだかどうでもよくなってきた。今でも苦手だが、崇める気持ちは特にない。

勉強することは、とても素晴らしいし尊いことだ。勉強しなかった自分が口にするのは恐縮ではあるが、恵まれた環境さえあれば勉強は誰にだってできる。つまり、誰だって医者になれる可能性がある。勉強をたくさんした人だけど、神様なわけがない。

なぜ、日本はこんなにも“先生”という敬称を付ける仕事が多いんだろうか。学校の先生は、まぁ先生だから仕方がないとして、医者、弁護士、作家、税理士……設定上“エライ”だろう人に対して、どういうわけか先生と呼ぶ。

政治家も先生……か。何やってるかわからない人がどうして先生なんだ? そういえば、競馬評論家の井崎脩五郎さんは何で先生なんだろう。競馬に詳しい人が、なぜ先生呼ばわりされているのか……ギャンブルが好きな俺も、実は先生なのかもしれない。

「お前と一緒にするな。あの人はすごい人なんだ」なんてクレームなのかクレームじゃないのかわからないけど、そんな意見を持つ人もいると思う。そういう意見、ウェルカムだ。思っていることは、なるべく口にした方がいい。

あくまで俺の考えだけど、すごい人がどうして「先生」に昇華されるのかわからない。すごい人は、すごい人でいいじゃないか。わざわざ先生と呼称を上書きする必要なんてあるんだろうか。先生に上書きされたことで、何も言えなくなる人だっているだろうに。

言いたいことも言えないこんな世の中になったのはポイズンなんかではなくて、先生が増えすぎたからなんじゃないの? なんて思う。 

神様みたいな人には、何も言えないかもしれない。でも、世の中にそんな人はほとんどいない。ほとんどが先生ばかり。医師会のトップも、宣言下で会食をしていたじゃない。 

だから、気になることはどんどん口にした方がいい。できれば、クレームか否かのマイルールを順守しながらだと、快適だと思う。口をつぐんでしまうような神様なんて、そうそういないんだから。

 

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