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言語が消滅する世界を描いた傑作 筒井康隆『残像に口紅を』

2021.08.15 Vol.744

 夏の文庫フェアの季節が到来した。読む機会のなかった古典や名作に触れられるのは、文庫本の良さでもあるだろう。中でもロングで売れ続け、最近改めて話題を呼んでいるのが、1995年に刊行された筒井康隆の『残像に口紅を』(中公文庫)だ。

『残像に口紅を』はある「ことば」がひとつ、またひとつと消えていく世界を舞台にした実験的長篇小説。たとえば「あ」が使えなくなれば、文中の「愛」も「あなた」も消えていく。評論家の津田は言う。

「そして当然のことだが、ことばが失われた時にはそのことばが示していたものも世界から消える。そこではじめて、それが君にとっていかに大切なものだったかということが」

 2017年にも「アメトーーク!」でカズレーザー氏が絶賛してブームが巻き起こり、今回はTikTokで紹介されたことをきっかけにヒット。言語が消え、表現が消える不条理な世界で何が残るのかを描いた傑作は、新しい読者によって何度でもよみがえるのだ。

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