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いろんな意味で見逃せない作品 劇団桟敷童子『その恋、覚え無し』

2018.11.14 Vol.712

 桟敷童子は演出を務める東憲司が描く社会の底辺で生きる人々による骨太で猥雑な群像劇を、1週間から半月ほどの時間を費やし劇団員で作った大掛かりな舞台セットで“魅せる”劇団。

 かつては東の生まれ育った炭鉱町や山間の集落をモチーフにしたごつごつとした作品が多かったのだが、最近は時には舞台を現代に置いたり、社会問題を扱ったりとさまざまなバリエーションの作品を発表。来年で結成20周年を迎えるのだが、常に進化し挑戦し続けている。

 今回は劇団では初めての試みという「恋物語」に挑む。松本紀保、石村みか(てがみ座)という実力派の2人の女優を客演に迎え、劇団の看板女優である板垣桃子と3人の女優による華やかな競演が繰り広げられるのだが、果たしてどんな「恋物語」を見せてくれるのか。
 ただその一方で劇団の真骨頂である「本水」を使った舞台美術は今回も健在。

 パッと聞くとミスマッチにも聞こえる「恋物語」×「本水」の組み合わせ。これをしっかり融合させられるのは多分、桟敷童子だけかもしれない。いろんな意味で見逃せない作品。

劇団初の平成が舞台の現代劇 劇団桟敷童子『夏に死す』

2016.07.25 Vol.671

 これまで社会の底辺で生きるような人々を描いた群像劇を多く発表してきた劇団桟敷童子。舞台は演出の東憲司自身が生まれ育った炭鉱町や山間の集落、荒々しくもちょっと気の弱い男たちに、耐え忍びながらも芯の強い女たちといった登場人物が織りなす物語は、昭和の日本の原風景を見るようなノスタルジックさを漂わせながらも、時代が変わっても変わらない人間の本質を映し出す。

 そんな彼らの世界観はそのままに、今回は劇団公演初めての平成が舞台の現代劇に挑む。テーマは家族。

 病院から失踪していた痴呆症の父親が自宅から20分ほどの山の中で2年ぶりに見つかった。父親は自然農園で保護されており、そこに向かった三兄妹は物乞いのように別人となっていた父親と出会う。しかし三兄妹には、痴呆を患っているのになぜ2年間も山の中で生活できたのか? なぜ家に帰ろうとしなかったのか? 本当に痴呆症だったのか?といったさまざまな疑問が浮かぶ。そしてやがて兄妹たちが知らなかった父親の別の一面が見えてくるのだった。

 人はその終焉をどのように迎えるのか。そしてその時の家族の振る舞いは…。演出の東憲司の実体験を基にした、どこの家庭にでも起こりうる身近で切実な家族の物語。

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