サヘル・ローズ「貧しい子どもたちに、お金ではなくペンを」 世界を旅して見つけた支援の形<できることから SDGs >

子どもたちにペンを持たせたい

 サヘルさんはこれまで、インド、カンボジア、インドネシア、バングラデシュ、ヨルダンの貧困地域を訪れ、現地の声に耳を傾けてきた。

「これまで貧しい地域を見てきて思うのは、そうした環境に置かれている家庭は、親も未来を諦めていることが多いんですね。子どもを学校に行かせても、途中で辞めさせてしまうのは、親自身もそうだったから。そうした状況を変えるためには、やはり“教育”なんですよね。教育が大事だと思うのは、子どもたちが大人になったときに自分で生き方を見つけることができるし、親を支えていくことができるから。知識や考える力があれば、周りが何を言ったとしても振り回されずに済みます。“子どもたちにペンを持たせてあげたい”。これをずっと大切にしています。

 今はストリートチルドレンを支援するバングラデシュのNPOをサポートしていますが、もう1つ、私はこれまで出会った人や見てきたものを、次の人に繋げたいんです。1人でできることは限られているけれど、何かしたいと考えている人や企業はたくさんいます。皆さんやり方が分からなかったり、謙遜してしまったりするけれど、支援に大小はありません。関心を寄せることがまず、心の支援だと思います。社会の無関心が生んだ結果が今の状況。私が表現の仕事をしているのは、こうして発信する役割もあるのだと思っています」

人手不足と孤立の日本

海外の経験を経て、現在サヘルさんは日本の児童養護施設で、遠足やイベント開催など「心のサポート」を大切に、支援を続ける。日本の施設の課題は。

「まず圧倒的に人が足りないことです。施設で働く職員さんは一生懸命に仕事をされていますが、長時間労働で心にも身体にも疲労が溜まっています。一般的な家庭では、親と1対1の関係が築ける安心感がありますよね。でも施設では1人の職員さんが10人くらいの子どもたちを見ることもあります。それに、みんな十人十色。乳幼児の頃にやってきた子と、成長して親の虐待や性暴力から逃げてきた子では精神的なバランスが全然違います。日本はメンタルカウンセラーが少ないことも問題です。

 あとは、退所した後の生き方ですね。子どもたちは18歳で施設を出ると自力で生きていかなくてはなりませんが、まず、手続きやお金の問題です。運転免許や資格を取るためにはお金がかかる。家を借りようにも保証人がいない。健康保険証すらない子もいます。そして、仕事を見つけるのも困難です。履歴書で施設出身だと分かると差別や偏見を受けたり、退所してもずっと“施設出身の〇〇さん”と呼ばれ続けるなどして、孤立して心に傷を負った子もいます。こうした心のケアは本当に必要だと思います。今では夏祭りを開催して地域と交流する施設があったり、養子縁組を望む人がいたりなど、さまざまな動きはありますが、それぞれが点と点であり、まだ線として繋がっていない印象です。これから大きなつながりに変わっていくと信じたいですし、社会が意識を持って彼らと向き合ってほしいと思います」