「がんの匂い」を嗅ぎ分ける線虫で、新たな診断法。膵臓がんの早期発見に期待

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 現在、膵臓がんの早期診断法は確立されておらず、開発途上にあるのが実情だ。これまで行われてきた、血液や尿などの成分を測定する腫瘍マーカー検査は陽性率が十分でなく、CTや超音波検査などの画像検査でも、早期膵臓がんは発見しにくいことが課題となっていた。石井教授は「今回の線虫による生物診断は、まったく新しいアプローチ。膵臓がんを早く発見するという点で、色々な方向から“網をかける”ことは大事だと思う」と、早期発見の重要性を話した。

 「がんの匂い」を巡っては、すでに10年以上前から、同じく嗅覚に優れた犬を用いた実験などで研究が進められてきた。しかし、大量の検査を行うには一匹あたりのコストがかかるため、実用化には至らなかったという。石井教授はまた、「匂い」の特性上、扱いの難しさもあったと指摘した。「“匂い”の多くは揮発性、つまり気化して飛んでしまうため、機械での測定が難しい。また、がんの場合は、ひとつの臭いだけでなく、いくつかの臭いの組み合わせである場合もある。そうした複合的な臭いを人工機器で見分けるのは非常に難しいため、高い嗅覚を持つ線虫に着目したのは画期的」と話す。

 線虫がん検査を実用化させたHIROTSUバイオサイエンスでは現在、早期すい臓がんだけをピンポイントで検知する特殊線虫を開発中だ。これまでは網羅的で、がんの疑いが「あるか無いか」の診断だったが、この開発が進むと「どの種類のがんなのか」がわかるようになる。石井教授は「がんの種類がピンポイントで分かれば、できることも広がる。血液検査だけではなく、尿検査、画像診断など、早期の段階で怪しい部分に医療のリソースを集中できて、結果的に患者さんのコストも抑えられる。“がんの種類がわかる”というのは、次の重要なステップ」と期待を寄せた。

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