「微生物制御」の観点から「次亜塩素酸水」を読み解く 三重大・福﨑教授(前篇)【withコロナ】

三重大学大学院生物資源学研究科の福﨑智司教授
 それでは「次亜塩素酸水」とはどのようなもので、なぜ消毒できるのでしょうか?

福﨑「殺菌作用を持つ多くの物質は酸化作用を持っていますが、次亜塩素酸水溶液は『次亜塩素酸』という酸化剤が作用します。殺菌のメカニズムが異なるのがエタノール(アルコールの一種)で、こちらには浸透性があって、微生物あるいはウイルスを構成するタンパク質の機能に損傷を与えます。それ以外にも吸着や浸透圧など、何らかの化学作用を生物に与えることで殺菌作用が生まれるのです。

 次亜塩素酸水というのは、次亜塩素酸を含む水溶液の一種です。次亜塩素酸水溶液の名称は、pH(濃度)と製造方法で分類されます。代表的なものは次亜塩素酸ナトリウムです。次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸の濃度が高く、その中に含まれるアルカリ性の水酸化ナトリウムという成分が皮膚に損傷を与えるため、水で適度に希釈して使用されてきました。その後、研究者らによって弱アルカリ性の希釈水溶液に酸を加えて弱酸性に傾けると、同じ濃度でも殺菌作用が高いことが見出されました。1950〜60年代にはすでに、二液混合の次亜塩素酸水溶液が研究や実用の現場で使われていました。さらに、電気分解で強酸性あるいは弱酸性の次亜塩素酸を含む水溶液を生成するのが電解水です。さまざまな次亜塩素酸を含む水溶液を総称して次亜塩素酸水溶液と言いますが、その中の限られたpHの範囲の水溶液を電気分解で生成したのが次亜塩素酸水と捉えていただくといいと思います。

 電気分解というのは、次亜塩素酸ナトリウムの製造方法にも記載があります。電気分解するには陽極と陰極が必要なのですが、その間に隔膜という仕切りを入れないとアルカリ性の電解次亜水という次亜塩素酸ナトリウムの希釈液が生成され、隔膜を入れると陽極側には酸性電解水(次亜塩素酸水)が生成されます。さらに、もともと塩酸で酸性に傾けた水溶液を電気分解して、生成された酸性電解水を希釈することで微酸性次亜塩素酸水にすると言う日本独自の製造方法もあります。

 次亜塩素酸水を食品添加物の殺菌料として認めてもらうために、製造メーカーや関係者はかなりの時間や労力、コストをかけ、やっと2002(平成14)年に食品添加物の殺菌料に認可されました。そうした人たちの大変な努力がある一方で、用語の意味を理解せず勝手に次亜塩素酸水という名称を使って販売や配布を行う実態が見られるようになったので、早い時点で正す必要があります。経済産業省が公表した資料の背景はそこにあると思います」

 身近に使われている「次亜塩素酸水」の事例を教えてください。

福﨑智司(以下、福﨑)「食品添加物の殺菌料として認められていますから、食材を取り扱う食品工場あるいは飲食店の厨房などが中心でした。それから、給食センターなどの大量調理施設ですね。その後、介護施設や家庭にも導入するところが増えてきているんです」

(中篇に続く)
なぜ「次亜塩素酸水」が問題とされているのか? 三重大・福﨑教授に聞く【中篇】
https://www.tokyoheadline.com/500602/

「次亜塩素酸水」空間噴霧の安全性と注意点は? 三重大・福﨑教授に聞く【後篇】
https://www.tokyoheadline.com/500608/
<<< 1 2