「次亜塩素酸水」空間噴霧の安全性と注意点は? 三重大・福﨑教授に聞く(後篇)【withコロナ】

 新型コロナウイルスの消毒方法の有効性評価で、販売実態や空間噴霧の是非で注目を集める「次亜塩素酸水」。経産省とNITEが発表したファクトシートによると、空間噴霧の効果は証明されていないと言うが果たして? 三重大学大学院の生物資源学研究科で洗浄・殺菌工学、界面化学、廃水処理工学を専門とし、『次亜塩素酸の科学 ―基礎と応用―』の著者でもある福﨑智司教授に話を聞いた。(全3回)
家庭で「次亜塩素酸水」の噴霧を行う場合に注意することは?(写真はイメージです)
 「次亜塩素酸水」を噴霧した場合の安全性についてはいかがですか?

福﨑智司(以下、福﨑)「空間噴霧という点で二通り考えないといけないのは、噴霧して微細粒子から揮発した気体状の次亜塩素酸、そして液滴の中に含まれた次亜塩素酸を吸引した場合です。気体状の化学物質に対しては、労働安全衛生法や日本産業衛生学会が作業環境における許容濃度を定めており、塩素ガスに対しては0.5ppm(=500ppb)が基準値です。これは欧米でも同じ数値です。居住環境では、さらに1/10あるいは1/50に相当する50ppbあるいは100ppbを超えないようにしています。私たちも検査を行なっていますが、最も濃度の高い足下で20ppbを超えることは滅多にありません。

 微細粒子に含まれた次亜塩素酸を吸い込んだ場合はどうかというと、ファクトシートでは確立された評価方法が見当たらないとしています。それは研究者や事業者も承知していて、実験動物を用いた吸引毒性試験を行なっています。各社ごとに目に入ったら、皮膚についたらといったデータを持っていますが、公表できないのは薬機法に定められた医薬品や医薬部外品ではないからです。低濃度の次亜塩素酸水溶液を用いた吸引毒性試験において、異常が見られたという結果は、私は今まで一度も聞いたことはありません。ですから自信を持って各社で販売しているというのが実情だと思います」

 家庭で「次亜塩素酸水」の噴霧を行う場合に注意することを教えてください。

福﨑「気をつけないといけないのは、狭い空間に対して過剰な噴霧を行うことです。噴霧機にはどれくらいの空間用でどの水溶液を使用すべきかが書いてありますので、そうした使用上の注意を守っていただければ、まず家庭では問題ないと思います。繰り返しになりますが、家庭で次亜塩素酸水溶液の噴霧を行ったとして、それだけには頼らないことです。整理整頓をして、拭き掃除をして、それでも足りないところを噴霧で補いましょう。噴霧量を何段階かに変えられる機械もありますが、何もしないで最大の量を噴霧すれば良いかというと、そういうことではないのです。まずはそこから啓蒙しなければいけません。

 また、今はまとめて次亜塩素酸水と呼んでいますが、次亜塩素酸水溶液の中に次亜塩素酸水という電解水があり、二液混合の弱酸性次亜塩素酸水溶液、そして次亜塩素酸ナトリウムの非常に薄い希釈液があると理解していただくといいと思います」
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