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“かたち”に感じる、考える「小田薫 展 対峙」

2015.04.26 Vol.641

 金属を素材に、ごく身近にあるような建物を連想させるオブジェを制作する注目の作家・小田薫による、アートフロントギャラリーでの初個展。

 小田薫は1979年東京生まれ。東京藝術大学で鍛金を学び、2007年に同大学院修了後、本格的に作家活動を始めた。
 観音開きの扉が着いた、小さな建物のようなオブジェ。その形は見慣れているようでいて、現実には無い不思議な夢想感を漂わせる。

 小田の作品の多くは作家が日常で出会った建物や設置物がベースになっている。しかし、金属という固い素材でしっかりと形を作りながらも、作家の関心は外形を再現することには無い。むしろ、かたちどることができない何かを感じさせることにあるようだ。

 一方で近年では、アンテナを大きく突き出したビルや家から外に伸びる影など、建物の内から外へ出ていくものを表現することも増えている他、昨年は平塚市美術館の大きなロビーの空間を使い、建物が橋でつながるインスタレーション作品を発表した。

 本展ではギャラリーの2つの空間を使用し“モノ”的魅力にあふれた作品と、部屋そのものを作品空間とした本格的なインスタレーションを展示。

 自分の心の中にある建物を訪ね歩くような、楽しくも不思議な体験ができそう。

“かたち”に感じる、考える「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」

2015.04.26 Vol.641

 パリのポンピドゥー・センターの分館として2010年にオープンしたポンピドゥー・センター・メスと、多彩な文化活動を支援しているエルメス財団による共同企画で開催された展覧会が、日本に巡回。ポンピドゥー・センターをはじめ、ピカソ美術館、ル・コルビュジエ財団、国立自然史博物館といったフランスの名だたる美術館、博物館のコレクションから、本邦初公開品を含む名品が多数出展されている他、日本展限定で、長次郎の黒樂茶碗など日本文化の名品も登場する。

 会場に集うのは、世界各地から集められた、古今東西、多種多様な“シンプルなかたち”の数々。古くは先史時代の石器から現代アートまで、ジャンルは美術や工芸、デザインの領域はもちろん、考古学や生物学、機械工学の影響を受けた作品約130点の作品が一堂に展示される。

 さらに本展では、森美術館のための新作も登場。グザヴィエ・ヴェイヤンや大巻伸嗣ら日仏の現代アーティストたちが森美術館の広い空間を生かした大型インスタレーションを展開する他、田中信行、黒田泰蔵も新作を発表する。

一度で何倍も楽しめる! コレクション展「ボストン美術館×東京藝術大学 ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」

2015.04.12 Vol.640

 開国以来、日本は常に西洋からの衝撃“ウェスタン・インパクト”を受けながら近代化をはかってきた。一方で、来日した西洋人たちも日本の文化や芸術に“ジャパニーズ・インパクト”を受けていた。本展では、アメリカのボストン美術館と東京藝術大学の2つのコレクションを合わせる“ダブル・インパクト”によって、19世紀後半から始まる、日本と西洋との双方向的な影響関係を再検討。それぞれのコレクションに収蔵されている明治期の重要な作品を紹介し、“明治ニッポンの美”の魅力に迫る。

 展覧会では時代とテーマによってプロローグから第5章までの構成ごとに作品を紹介。日本美術の優れたコレクションを持つことでも知られるボストン美術館からは、江戸時代後期に製作された、すべての関節や胴体が自由に動く全長2メートル弱の巨大な竜の置物『竜自在』や本邦初公開となる橋本雅邦『雪景山水図』などが出展。一方、近代日本美術では国内屈指の質量を誇る東京藝術大学のコレクションからは、1872年に当時新技術であった油彩に挑戦した高橋由一の『花魁(美人)』や横山大観の東京美術学校卒業制作『村童観猿翁』が出展。

 2つのコレクションの選りすぐりの作品群からは、工芸から日本画、洋画、彫刻まで、多彩な分野で優れた作品が登場した“文明開化”期ならではの息吹を感じることができる。

一度で何倍も楽しめる! コレクション展「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」

2015.04.12 Vol.640

 日本の現代美術を語るうえで決して外すことのできない作家たちの作品を鑑賞できる、おすすめのコレクション展。

 精神科医・高橋龍太郎氏の収集による現代アートのコレクション〈高橋コレクション〉は、1990年代以降の日本のアートシーンを俯瞰するうえで欠かせない存在として、高い評価を得ている。1990年代に収集を本格化させた高橋氏は、奈良美智、村上隆、会田誠、ヤノベケンジといった、今、日本の現代アートを代表する作家たちにごく早い時期から注目し、彼らの重要作品を収集。一躍、現代アートのコレクターとして名を馳せた。草間彌生や横尾忠則らキャリアの長い作家なども積極的に収集しており、近年では、菅木志雄や李禹煥ら“もの派”など、より幅広い作品を集めたコレクションとなっている。

 本展のタイトルにある〈ミラー・ニューロン〉とは模倣行動に反応する神経細胞。人間は模倣行動によって他者の行動を理解し共感すると考えられている。本展では、その〈ミラー・ニューロン〉を、日本のアートと文化を考えるためのキーワードとして、歴史的な視野から作品をセレクト。52作家、約140点の作品を通して、日本の現代アートの流れを読み解いていく。

歩き続けた、天才たち『グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家』

2015.03.22 Vol.639

 イタリア・バロック美術を代表する画家、グエルチーノ(1591-1666年) の、日本国内では初めてとなる展覧会。

 グエルチーノはボローニャ近郊の小都市・チェントに生まれ、ほぼ独学で絵画を学びながら“ボローニャ派”を代表する存在として名声を博した画家。ときの王侯貴族や、教皇、枢機卿などから多くの支持を得、没した後もゲーテやスタンダールといった後世の文化人らから高く評価されていた。19世紀半ばごろになると近代美術の隆盛とともに忘れられていたが、20世紀半ば以降は再評価の試みが続けられ、近年ではイタリアを中心に大きな展覧会が開催されている。

 今回は、国立西洋美術館がグエルチーノの油彩画を1点所蔵していたこともあり、日本で初めての大規模展が実現。2012年に地震の被害を受けて以来閉館しているチェント市立絵画館の協力で、グエルチーノ作品など44点を展示。本展の収益の一部は同館の復興に充てられる。

 ボローニャ・チェントを活動の拠点としながらも、ローマ滞在を機に画風を大きく変えるなど、新たな表現を模索していたグエルチーノ。当時のイタリア美術の変遷を知る上でも、興味深い作品となっている。

歩き続けた、天才たち『「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」展』

2015.03.21 Vol.639

 琳派を築いた尾形光琳が没した正徳6年(1716年)、2人の天才絵師が誕生した。1人は、彩色鮮やかな花鳥図や動物を描いた水墨画で知られる伊藤若冲(いとうじゃくちゅう/享年85、1800年没)。もう一人は、中国の文人画の技法による山水図などを得意とした与謝蕪村(よさぶそん/享年68、1783年没)。伊藤若冲と与謝蕪村の生誕300年を記念して、同じ年に生まれ、ともに日本の美術史に名を残した2人の天才に迫る。

 本展では、若冲と蕪村の代表作品から新出作品までを揃えるとともに、同時代の関連作品を加え、人物、山水、花鳥などの共通するモチーフによって対比させながら展示。それぞれ、直接交流したという記録は残されていないものの、ともに中国・朝鮮絵画からの影響が見られたり、同じ人物から評価されていたりと、ほぼ同時期に日本の文化界で活躍していた2人。その存在を通して、18世紀の京都の活気あふれる文化を感じ取ることができる。

現代アートの登竜門で若手作家をいち早くチェック!
VOCA展2015 現代美術の展望─新しい平面の作家たち

2015.03.08 Vol.638

 全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などが、40歳以下の若手作家を推薦し、その作家が平面作品の新作を出品するという方式により、全国各地から未知の優れた才能を紹介してきたVOCA展。これまでにも、福田美蘭(1994年VOCA賞)、やなぎみわ(1999年VOCA賞)、蜷川実花(2006年大原美術館賞)、清川あさみ(2010年佳作賞)など、現在多方面で活躍している作家たちが出品。「平面」という一貫した切り口で、その時代の若手作家たちの感性を紹介してきた。

 今回は、34人の推薦者により34人の作家が出品。グランプリとなるVOCA賞に輝いたのは、シルクスクリーンで数十から百回ほどインクを重ねるという独自のスタイルで作品を制作する小野耕石の『Hundred Layers of Colors』。他、VOCA奨励賞に岸幸太、水野里奈、佳作賞に松岡学、松平莉奈、大原美術館賞には川久保ジョイが選ばれた。

 現代アートのプロフェッショナルたちが推薦した、全国の若手作家の才能に触れてみて。

現代アートの登竜門で若手作家をいち早くチェック!
17th DOMANI・明日展 plus

2015.03.08 Vol.638

 国内外のアート作品が集結する『アートフェア東京2015』内にて、毎年多くの若手作家を輩出する『DOMANI・明日展』のブースが登場。『DOMANI・明日展 plus』と題して3作家の作品を展示する。

 文化庁では、日本の芸術界を担う才能を支援するため、若手芸術家を海外に派遣し、その専門とする分野について研修の機会を提供する「芸術家在外研修(現・新進芸術家海外研修制度)」を昭和42年度から実施している。研修に参加した作家が、その成果を発表する場である『DOMANI・明日展』では数々の有望な才能が紹介されてきた。

 今回のブースで展示されるのは、2002年度にカナダに派遣された清野耕一、2006年度にイギリスに派遣された手銭吾郎、2006年度にオランダに派遣された蛯名優子の3作家による、立体、平面、インスタレーションを展示。絵画や彫刻、写真、インスタレーション、さらにはアニメーションや工芸など、さまざまなジャンルの作家に光を当ててきた『DOMANI・明日展』ならではのセレクトとなっている。こちらのブースでは作品販売は行っていないが、有望な若手作家の作品を参考にしてみては。

不思議な”かたち”から、何が見える?

2015.02.22 Vol.637

 国内外で評価を得ている若手陶芸家・五味謙二の展覧会。近年、日本陶芸展や菊池ビエンナーレで受賞を重ね、昨年は第10回国際陶磁器展美濃の陶芸部門でグランプリを受賞。ヴィクトリア&アルバート博物館にも作品が収蔵されるなど、活躍目覚ましい陶芸家だ。

 五味は1978年生まれ。国宝土器が出土する長野県茅野市で幼少期を過ごし、早稲田大学を卒業後、沖縄県那覇市で17世紀から制作されている壺屋焼を学んだ。

 その作品制作の軸となっているのは、陶芸の焼成という工程。五味の作品の不思議な温かみを持った有機的な“かたち”は、焼成という観点から最も理に適った形態を選んだ結果だという。また、もみ殻に埋めて焼成することで、土を感じる色や肌合いを引き出している。五味いわく『彩土器』シリーズの制作を通して「“土”で作ったモノを“焼く”というよりは“焼く”ためのモノを“土”で作る」ことに思い至ったという。

 本展では「彩土器」と呼ばれるオブジェのシリーズと、蓋の付いた容器「ふた、モノ。」シリーズ、碗などを展示。
 かたちといい色合いや質感といい、大地がそのまま生み出したかのような、不思議さに感動して。

不思議な”かたち”から、何が見える?

2015.02.22 Vol.637

 1990年代前半から活躍し、国際的にも注目を集めている現代アーティスト、ガブリエル・オロスコの、日本初となる個展。
 ガブリエル・オロスコは、路上に打ち捨てられた物や、何げない風景の中から魅力的なかたちを発見したり、それらにほんの少し介入し、かたちを変えたりして作品に転換する。あるときは何かを隠喩していたり、またあるときはありふれた存在に新しい視点をもたらしたりと、見る者に読み解く楽しさを与えてくれる。

 ありふれているはずのモノが見慣れない“かたち”で存在するとき、人はそこに、万物に与えられた“変わりゆく運命”を感じ取る。オロスコの作品が表現するのは、宇宙の中で万物が流転し循環していく様なのだ。2009年から2011年にかけてニューヨーク近代美術館を皮切りにテート・モダンほか世界の主要美術館で大規模な個展を開催するなど、現代アート界を代表する作家でありながら、これまでアジア圏での展示の機会があまり無かったオロスコ。待望の国内美術館初個展となる今回は、自動車を分割して張り合わせた有名な作品『La DS』などの代表作から、最新のカンヴァス作品までを展示し、その魅力を徹底紹介。

アートの”いのち”は受け継がれていく TWS-NEXT @tobikan 「上野のクロヒョウ」

2015.02.08 Vol.636

 2001年の開館以来、若手アーティストの発掘、育成、支援を行ってきたトーキョーワンダーサイト(TWS)。TWSの事業に参加した若手アーティストを継続的に支援するプログラム『TWS-NEXT』の展覧会を東京都美術館で実施。

 本展では、リサーチをもとに作品制作を行う若手アーティストに注目。4組のアーティストが、東京都美術館がある上野の歴史に焦点を当てた新作を発表する。そのテーマとなるのが、「二・二六事件」「阿部定事件」と並んで、昭和11年の三大事件の1つとされている「上野動物園クロヒョウ脱出事件」。

 歴史は1つの事象でありながら、人の認識を通してさまざまな解釈が加えられ、記憶されていく。アーティストが加える新たな視点にふれることで、図らずも歴史を伝えることのあいまいさ、危うさに気付くはず。

 多摩美術大学出身の表現集団・オル太は、昭和初期の記憶をたどる映像とともに同時代に生きた画家・靉光の作品をモチーフにしたインスタレーションを発表。他、国内外でその場所に特化した作品を制作している佐藤未来、刺繍やパッチワークを用いる市川紗也子、自刻像やクラゲをモチーフにした彫刻を制作している平川正が参加する。

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