“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第258回目は、たばことたばこ農家について、独自の梵鐘を鳴らす――。
ABEMAで放送されている『ドーピングトーキング』をご覧になった皆さん、ありがとうございました。まだご覧になっていない皆さん、ABEMAで視聴できますので、よろしくお願い致します。
「日常では絶対に行くことがない場所」や「普段絶対に交わらない人」のもとでトークを見つけ、‟ドーピング”した状態で体験談を披露する『ドーピングトーキング』。僕は、この番組に出演することになったのだが、番組MCは、霜降り明星・粗品だ。生半可な話では、彼の好奇心は満たせない。あれこれ考えた末にたどり着いた僕の体験先が、たばこ農家だった。
僕もたばこをたしなむ。だけど、その実、たばこについてはよく分かっていない。たばこの葉はどんな風に育って、どうやってたばこになるのか、ものすごく興味があった。誰かに何かを伝えるときは、やっぱり自分が関心を抱けるものに越したことはない。僕は番組ディレクターとともに某県にあるたばこ農家を訪ねた。
「うちらみたいなところに、よく来てくれたね」
開口一番、農家さんはそうあいさつした。どうしてそんなことを言うんだろうと疑問を覚えたけど、取材時間は限られている。僕は足早に、まずはたばこの葉が栽培されている畑を見学させてもらうことにした。
植物としてのたばこは、想像している以上に立派で、とうもろこしくらいの背丈があった。聞くと、ナス科に属するらしく、下から生えてくる葉を収穫していくそうだ。面白いのが、上に育つ上葉はニコチン含有量が高く、逆に下に育つ下葉は低いということ。つまり、上葉の方がニコチンの刺激が強く、味や喫味も濃厚でしっかりしていて、下葉はニコチンが少なく、ややマイルドであっさりした味わいになる。たばこの味が違うのは、葉の育つ場所が違うからだったのだ。
葉を収穫したら、農家自身で1週間ほど乾燥させるという。そして、熊本にある工場に送り、そこで鑑定士が葉の出来不出来をチェックして、グレードに仕分けしていくそうだ。グレードによって価格は異なるものの、40キロの袋にぎっしり葉を詰めたもので、80000円程度で買い取られる。買い取られたたばこの葉は、JTさんによって裁断され、ここでも2年間乾燥させるという。そうして、我々消費者のもとにたばこという商品として届けられるそうだ。
知らないことを知るというのは、どうしてこうも面白いのだろう。そんなことを思いながら、僕は前のめりで農家さんと話を続けた。
たばこを作る際、輸入のたばこの葉もたくさん使用しているといい、国産のたばこの葉は3割程度。つまり、7割くらいは外国産のたばこの葉を混ぜて、たばこは作られる。その理由はいたってシンプルで、輸入ものの方が安いから。儲けがいい産業ではないため、たばこ農家では、一緒にお米も作るなどのケースも少なくないという。
「たばこ農家はどんどん減っていってね。衰退している産業なんだ」
農家さんの言葉を裏付けるように、昭和60年くらいには、全国に80000軒ほどあったたばこ農家は、令和6年の段階で2000件にまで縮小しているという。「この仕事はいずれなくなる」。乾いた笑いが響く中、僕は「うちらみたいなところに、よく来てくれたね」の意味を理解した。昨今の健康事情に鑑みた世相に加え、稼ぎも良いわけではない。段々と、でも着実に、窓際へと追い詰められている存在なのだ。
そして、愛煙家なら絶対に知っていてほしいことがある。それが、たばこを購入した際の税金の使われた方だ。たばこの税金は主に、「国たばこ税」「地方たばこ税」「たばこ特別税」という3種類に分かれている。ここに消費税が課されることで、実にたばこ価格の約60%が税金ということになる。うち25%は、「地方たばこ税(都道府県たばこ税・市区町村たばこ税)」として扱われているという。平たく言えば、たばこを購入したその自治体に落ちる税金。たばこ店だろうが、コンビニだろうが関係ない。買った場所の自治体に落ちる――。「それってもしかして」と僕が言うと、農家さんは頷きながら、
「だから、おれたちはたばこを買うときは、自分たちが暮らしている地域でしか買わない」
そういってたばこを吸う姿は、どこかカッコよく見えた。
僕は新宿区に暮らしている。もし、仕事で向かった埼玉県でたばこを買うと、そのお金は埼玉県と、その市町村に落ちてしまう。そうして落ちたお金は、その地域の信号や道路といったインフラとなり、地域を支えているという。
知らなかった。と同時に、たばこを吸っている身として、今まで知らなかったことを後悔した。自分が住んでいる街が好きなら、たばこはそこで買わなきゃいけなかったんだ。無知ほど怖いものはないのだ。
取材以降、僕は必ず新宿区でたばこを買うようになった。仕事で地方へ行くときは、すでに買っているたばこを持参するようになった。あるいは、暮らしている場所以外に好きな場所があれば、そこで買うのもいいだろう。たばこを買うことで、その地域に微力ながら還元することができるのだから。たかがたばこ、されどたばこ。いたるところに、学びってあるんです。

