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【インタビュー】吉村昭の哲学を食と酒を軸に描く『食と酒 吉村昭の流儀』谷口桂子さん

2021.08.16 Vol.744

 綿密な調査や徹底した取材に基づいた歴史小説、記録小説で知られる作家・吉村昭。没後15年となる今もなお愛される作家の素顔を食と酒、旅にまつわる作品を切り口にまとめたのが『食と酒 吉村昭の流儀』(小学館文庫)だ。著者で俳人でもある谷口桂子さんに聞いた。

「吉村昭さんの著書を読み返して、『食と酒』に関する作品がこんなにあることが意外だったんです。池波正太郎さんは、亡くなられたあと食を切り口にした本が何冊も出ていて、てっきり吉村さんもそうだと思って調べたら、まだ出ていないというので驚きました。お店の名前が具体的に出ているのでお店案内としても、地方への旅のガイドとしても成立します。たくさんの作品があって、なぜ今までこのテーマに誰も注目しなかったのかな、と不思議に思いましたね」

 読んでいくと吉村の飲食哲学が身近なものに感じられ、これは行ってみたい、食べてみたいという気持ちが沸いてくる。

「東京の下町はもちろんですが、吉村さんの味やお店へのこだわりが強く出ているのはやはり地方です。長崎の皿うどんを手放しで称賛していて、そんなにおいしいのかなと思ったり、田野畑村(岩手)のしぼりたての牛乳を沸かしてご飯にかけたグラタンのような料理などは、いったいどんな味がするのか聞いてみたいですよね」

 第三章の「下町の味」では、谷口さんが実際の記述に従って散策する場面も。

「80代、90代になってもお店に立つ女将たちが印象に残っています。話し始めると止まらなくて、誰に対してもそんな感じなんです。元気の秘訣はお客さんと会話することだとおっしゃっていて、人と触れ合って会話する人はこんなに元気なんだなと思いました。

 吉村さんの文章に『地酒というものは、その地の土壌にしかはえぬ茸のようなもの』という描写があります。それは人も同じで、吉村さんは下町の生まれで世間様のご迷惑にならないようにと言われて育ち、片や妻の津村節子さんは福井の打たれ強い女性です。2人を見ていると土壌というものを強く感じますね」

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