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台湾でアリ・アスターとついに対面!親日台湾人たちの優しさに涙!

2025.12.06 Vol.web original

出品作品やゲストも豪華! 台湾・台北金馬映画祭の充実ぶり

 11月6日から23日まで開催された、第62回台北金馬映画祭(金馬影展)に昨年に続き参加してきた。会場は観光名所でもある超高層ビル、台北101のそばの2つのシネコン。台湾の映画祭なので、台湾や香港、中国、さらに日本といったアジアの新作が中心のラインナップだが、そこにカンヌやベネチアなどのメジャーな国際映画祭でお披露目になった欧米の話題作も上映されるので、アジアの映画祭では韓国の釡山国際映画祭に匹敵するバラエティに富んだ充実した内容の映画祭といえる。僕は今回、自分のプロジェクトの仕事や、映画を軸にしたコンテンツビジネスの祭典「TCCF」への参加もあり、台湾に2週間滞在し、映画祭では32本の作品を鑑賞した。

 オープニング作品の台湾映画『A Foggy Tale(原題:大濛)』が、最終的に同映画祭の金馬獎最優秀作品賞を受賞したが、これは白色テロ期の台湾を舞台に、嘉義に住む少女が処刑された兄の遺体を回収するため北に向かうというドラマ作品。監督はチャン・ユーシュン(『1秒先の彼女』)で、新進女優ケイトリン・ファンと、人気シンガーで女優の9m88が主演を務めた。台湾作品では他にも、ツォン・ジンファ、ムーン・リー、チャン・チー主演のNetflixシリーズ「もしも太陽を見なかったなら」と、ムーン・リーとGOT7のジニョン主演の中壢(ちゅうれき)事件を背景にした青春映画『The Photo from 1977(原題:那張照片裡的我們)』が注目を集めていた。

 映画祭での個人的なハイライトは、アリ・アスターとようやく対面できたことだろう。僕は彼のデビュー作『ヘレディタリー 継承』以降、『ミッドサマー』『ボーはおそれている』そして最新作『エディントンへようこそ』(12月12日公開)まで、全監督作の「完全ネタバレ徹底解析」を映画の公式サイトと劇場パンフレットに寄稿させてもらったのだが、実は一度も取材したことも会ったこともなかった。唯一、2018年に『ヘレディタリー 継承』を初めて鑑賞したテキサスのSXSW映画祭にアスターがゲストとして来場していたので、話すチャンスはあったのだが、終映後のQ&Aが終わった頃には午前3時半を過ぎていたので、そんな余裕はなかったのであった。今年10月に開催された東京国際映画祭でも『エディントンへようこそ』が上映され、来日したアスターが登壇した終映後のイベントは取材させてもらったが、ここでも直接会うことはなかった。

 金馬映画祭で『エディントンへようこそ』は、台湾が誇る大スクリーンの劇場、TITANEで上映された。僕は5月のカンヌ国際映画祭でこの映画を鑑賞し、その後日本でもマスコミ試写で観させてもらっていたので、スクリーンで観るのは3回目。それでもIMAX級の巨大スクリーンで鑑賞できたこともあり、新たな発見もあり、クライマックスのスリリングなアクションシーンも大迫力で、豪華キャストが集結した、このCOVIDパンデミック下のニューメキシコを舞台にしたネオウェスタンにして風刺ブラックコメディを改めて堪能することができた。台湾のお客さんのリアクションは相変わらず非常に素晴らしく、要所で笑いの渦が巻き起こっていた。

 終映後には60分間みっちり、アスターのQ&Aが行われた。この日のチケットはソールドアウト(客層は男女問わず20代の若者がほとんど)で、観客は積極的に挙手し、鋭い質問を投げかけていたのだが、アリは真剣に丁寧に言葉を選びながら、時にサービス精神旺盛に、誠実に答えている姿が印象的だった。『ヘレディタリー 継承』の製作資金集めで出会ったある会社との交渉での苦労話や、『ヘレディタリー 継承』と『ミッドサマー』が直接的に影響を受けた実生活での悲しい出来事、さらに前日にあるファンから届いたという彼の作品を酷評する悪意あるメッセージも披露し、「なんて返事しようか迷っているところ」と吐露(場内爆笑)。繊細で気難しい監督なのかと思いきや、その真逆だった。Q&Aが終わるとロビーでアスターのサイン会が行われた。観客はみな殺到し、しかし行儀良く列に並んでいた。映画のポスターやDVDのジャケット、サイン帳などを手にし準備万端である。僕はサインにはそんなに興味はなかったが、一言でも挨拶できる折角の貴重な機会だと思って列に並んだ。300人から400人が並んでいるので、さすがに時間がなく一言しか話せなかったが、彼の人となりを間近に感じることができたのは大きかった。

韓国・釜山国際映画祭はなぜ“アジア最大の映画祭”なのか 映画監督が熱気をリポート

2025.10.04 Vol.web original

世界の話題作が集結!『国宝』『8番出口』はチケット争奪戦

 アジア最大の映画祭であり、朝鮮半島の南部に位置する韓国第二の都市、釡山で開催される釡山国際映画祭に今年も参加してきた。第30回を迎えた今年の釡山映画祭は、例年の10月よりも1カ月早い9月開催ということで、まだ残暑が残る中、連日多くの映画ファンが会場に駆けつけた。

 今年のラインナップも例年通り豪華で、韓国が誇る巨匠パク・チャヌク監督の最新作『No Other Choices』(原題)がオープニングを飾り、ギレルモ・デル・トロ監督の『フランケンシュタイン』、キャスリン・ビグロー監督の『ハウス・オブ・ダイナマイト』、ヨルゴス・ランティモス監督の『Bugonia』(原題)、ジム・ジャームッシュ監督の『Father Mother Sister Brother』(原題)、ノア・バームバック監督の『ジェイ・ケリー』、コゴナダ監督の『A Big Bold Beautiful Journey(原題)』、そしてカンヌでパルムドールに輝いた『It Was Just An Accident』(原題)や、同じくカンヌでグランプリに輝いた『Sentimental Value』、日本からは『国宝』や『8番出口』など多くの話題作が上映され、チケットは争奪戦に。最新TVシリーズのワールドプレミア上映もこの映画祭の軸となっており、ロウンとシン・イェウン主演の「濁流」やチョン・ソニとイ・ユミ主演の「あなたが殺した」、スー・チーとリー・シンジエ主演の台湾の「レザレクション:復讐の棘」、日韓合作の「匿名の恋人たち」といった作品の最初の2話がそれぞれお披露目され注目を集めた。今年は例年以上に、Netflixの作品が特に目立っていた印象が強い(これが国際映画祭として正しいのかどうかという話はここではあえて触れないでおく)。

 釡山映画祭の特徴だが、まず韓国や日本などアジアのスターや有名監督を中心にゲストの数が非常に多い。今年のゲストの名前を一部挙げると、パク・チャヌク、ポン・ジュノ、イ・ビョンホン、ソ・イェジ、ロウン、ハン・ヒョジュ、キム・ダミ、シン・イェウン、ペ・スジ、シュー・グァンハン、スー・チー、アンジェラ・ユン、ギレルモ・デル・トロ、ショーン・ベイカー、コゴナダなど。映画祭での作品上映後のQ&Aはみっちり40分間行われ、観客は積極的に挙手し鋭い質問を投げかける。映画への熱い情熱を感じる瞬間だ。さらに、大スターを除き、Q&A終了後にはゲストのサイン会が即席で実施される。このゲストとの距離の近さもこの映画祭の魅力の一つだ。映画祭で上映される大作や話題作を中心にした野外での入場無料のトークイベントにもスターたちが大勢姿を現し、連日数多くのお客さんが詰めかけていた(『国宝』の野外イベントの列で先頭に並んでいたのは日本人女性だった)。

世界が夢中になった日本のホラー映画の系譜…過去にはカンヌ受賞も! 映画監督が解説

2025.08.01 Vol.web original

昭和28年、いち早く国際的な評価を集めた日本の“ホラー映画”とは?

 日本の夏といえば「怪談」と「ホラー」というイメージがあるが、日本では真夏の8月にご先祖様の霊を迎えて供養する「お盆」があることから、夏の風物詩としてホラーが定着したという説がある。アメリカではこれが「ハロウィン」にあたるため(まったく同じではないが)、この説は有力かもしれない。10月のハロウィン・シーズンに、アメリカでは新作ホラー映画が必ず封切りになるだけでなく、レアな旧作ホラーの上映やホラー映画マラソンも頻繁に行われるのだ。

 ここ数年、世界的にホラー映画の人気は急激に高まっており、日本でもこの夏ホラーの劇場公開が目立っているが、日本のホラー映画は世界でどう受け止められているのだろうか?

 最初に国際的な評価を集めたホラー映画といえば、溝口健二監督の『雨月物語』(53)だろう。上田秋成の同名の読本などをベースにした、この幽幻で幻想的な幽霊映画はヴェネチア映画際で銀獅子賞を受賞。アカデミー賞にもノミネート(衣装デザイン部門)されるなど、マーティン・スコセッシほか世界の映画人に影響を与えた作品だ。

 小林正樹監督のホラー・アンソロジー『怪談』(64)も、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど国際的評価が高い。新藤兼人監督の2本、『鬼婆』(64)と『藪の中の黒猫』(68)も海外で人気が高く、後者はなんとカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映された。ちなみに、『ミッドサマー』(19)『ヘレディタリー 継承』(18)の監督アリ・アスターは、お気に入りの日本のホラー映画として『怪談』『鬼婆』『雨月物語』、勅使河原宏監督の『他人の顔』(66)、そして黒沢清監督作の中で特に海外で人気が高い『CURE』(97)を挙げている。

 その後、1980年代には塚本晋也監督・主演・脚本のSFボディ・ホラー『鉄男』(89)が発表された。同作はイタリアの映画祭、ファンタフェスティバルでグランプリを受賞後、アメリカやフランス、オーストラリア、オランダなど世界各国で劇場公開されるなど、国際的にも認知度が高い作品で、その後2本の続編が製作された。

芸術の都、パリでスリに遭った日本人アーティストが伝授する今年の傾向と対策?!

2025.07.04 Vol.web original

街を歩くだけで映画の世界へ…映画ファン垂涎のパリおすすめスポット

 今年もフランスのカンヌ国際映画祭に参加した僕(映画監督/映画評論家)は、帰りに3日間パリに滞在した。

 芸術の都パリを訪れるのはかれこれ10回目だが、個人的にヨーロッパの中でも最も好きな街の一つだ。僕はどの国に行っても、ひたすら歩くのが好きなのだが、パリは別格。歴史的な建造物や街並み、太陽の光の色合いや青空などを含めて、まるで美しい絵画の中を歩いているような気分になるからだ。非現実的な現実世界が当たり前のように広がっているロマンティックな都市である。

 パリはもちろん、美術館天国でもある。ルーブルやオルセー、オランジュリー、ポンピドゥー・センターなど、重要なアートが展示された世界屈指の魅力的な美術館が至る所にあるのもたまらない。オルセーとオランジュリーはセーヌ川をはさんで徒歩5分ほどの距離にあるので、簡単にハシゴすることができるのだが、印象派好きには垂涎の贅沢なコースといえよう。

 ノートルダム大聖堂やエトワール凱旋門、エッフェル塔、オペラ座といったお馴染みの観光名所も一度は足を運びたいところだが、映画ファンには、ノートルダムのそばにある歴史的な書店「シェイクスピア・アンド・カンパニー」をお薦めしたい。リチャード・リンクレーター監督の『ビフォア・サンセット』(04)にも登場した小ぢんまりとした、しかし文学の歴史が濃密に凝縮されたようなチャーミングな書店だ。近年は観光地化しており、あまり落ち着いて店内を見ることはできないが、あの珠玉の恋愛映画3部作のファンには是非立ち寄ってみてほしい。そこから少し歩くと、レオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』(91)が撮影された、1607年開通のパリ最古の橋「ポンヌフ橋」が架かっている。オランジュリー美術館の少し西側、グラン・パレの近くにある、ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』(11)で印象的な使われ方をしていた「アレクサンドル3世橋」も、パリの象徴的な橋の一つだ。

映画関連の話を続けると、サン=ミッシェル通りとエコール通りの交差点のそばに、「Le Champo」「Reflet Médicis」「Filmothèque du Quartier Latin」という3軒の名画座が並んでいるシネフィルご用達の通りが存在する。僕はここで今回、マイケル・マン監督のホラー映画『ザ・キープ』(83)とリチャード・リンクレーターの監督2作目『スラッカー』(90)というレアな2本を初めてスクリーンで鑑賞することができた。このエリアには映画のブルーレイやDVD、音楽のLPやCDなど品揃えが豊富な「Gibert」や書店が立ち並び、5分ほど歩くとホラー映画のソフトや書籍の専門店「Metaluna」もある。ここから南に少し歩いていくと、17世紀に作られた美しく広大な都会のオアシス、リュクサンブール公園が広がっている。

 僕が一番好きなエリアが、18区にあるパリで一番高い丘、モンマルトル。石畳みの古い街並みが残った芸術家の聖地だ。ランドマークともいえる巨大な教会、サクレ・クール寺院からは、パリの絶景を眺めることができる。この教会は一般に開放されており、無料で中に入ることができることを今回初めて知った。ゴッホやルノワール、モディリアーニ、ピカソといった錚々たる芸術家たちの溜まり場だったキャバレー、オ・ラパン・アジルは今もシャンソイエとして存続、アートの歴史が詰まったオレンジ色のキッチュな外観が特徴的な場所だ。1886年にゴッホと弟テオが住んでいたアパートや、モンマルトル博物館も芸術愛好家には見逃せない。かつてキャバレーとして栄えた有名な観光ナイトスポット、ムーラン・ルージュもこの近くにある。

カンヌってなんだ?!入門ガイドつき映画祭最新レポート!

2025.06.02 Vol.web original

 今年もカンヌ国際映画祭に参加した。通算5回目。世界最高峰の映画祭が開催されるカンヌはフランス南部の地中海に面したリゾート地で、パリからは飛行機でニースまで行き、そこからバスやタクシーで1時間弱で到着する(パリから電車でも行けるが約5時間かかる)。今年は5月13日から24日まで12日間に渡って開催された、第78回を迎えたカンヌ国際映画祭だが、僕は13日の午後カンヌに到着し7泊して、20日朝の上映を観てカンヌを発った。

 カンヌは小さな街で、映画祭会場が密集している中心部は簡単に歩いて回ることができる。カンヌ国際映画祭の公式作品(オフィシャル・セレクション)は、目玉の「コンペティション」や「ある視点」「アウト・オブ・コンペティション」など様々な部門で構成されているが、並行開催の「監督週間」と「批評家週間」は公式作品ではなく、異なる別の団体が運営する部門であり、「監督週間」の会場はメイン会場から徒歩10分の距離にあるシアター・クロワゼットで、「批評家週間」の会場ミラマーは、そこからさらに東に徒歩7分程度の距離に位置する。

 僕は今年もコンペティションの作品を中心に35本を鑑賞した。映画祭は連日朝8時半頃から上映が始まり、ミッドナイトの上映がある場合は深夜3時頃までスクリーニングが行われている。文字通り映画のお祭りが2週間弱続くことになる(映画祭前半で帰る人が大半だが)。その前に、カンヌの戦いは朝7時前から始まる。なんの話だと思うかもしれないが、オンラインのチケット予約が連日7時に始まるのである。チケットがないと鑑賞できない上映が多いのだが、争奪戦で数分でチケットがなくなるので、毎朝7時前に起床することがルーティンになる。映画祭期間中は必然的に毎日寝不足になるわけだ。ちなみに、カンヌ映画祭には毎年世界各国からインダストリー(配給会社のバイヤーや製作者、映画祭関係者など)が3万人、プレスが5千人集まると言われている。 週末はフランス国内の観光客も詰めかけるので、会場周辺は常にごった返していた。

 カンヌ名物といえば、レッドカーペット。メイン会場のリュミエール(映画の発明者リュミエール兄弟から取られている)では、連日18時以降に「ソワレ」と呼ばれるコンペ作品を中心としたプレミア上映が行われ、スターたちがレッドカーペットを練り歩く。ソワレにはドレスコードがあり、男性の場合はタキシードかイヴニング・ガウンの着用を求められるが、スーツでも可。ただしボウタイが必要になる。そんなこともあって、僕は一度もソワレで映画を観たことがない(面倒だから)。しかし朝や日中、深夜の上映でリュミエールに入るので、毎日のようにレッドカーペットを歩くことになる。が、この会場がキャパ2300という広さで、1階席は場所によってかなりスクリーンが見づらく、僕は2階席のサイドの前方で観るようにしている。音響の設備は悪くないが、特殊な形状の広大な会場でサウンドの響きは良くなく、スクリーンもあまり大きくない。なので、リュミエールは映画祭会場の中で僕が一番好きではない会場だったりする。

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