“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第271回目は、芸人の精神衛生面について、独自の梵鐘を鳴らす――。
レギュラー以外の仕事は計算できないし、どのタイミングでどんな仕事が降ってくるかも分からない。営業だって同じ。常にふわふわした状態が続いている。普通、仕事が不安定だったり、やることがなくて休みが増えたりすると、精神衛生面が悪くなると思う。「あれ、今月ヒマじゃない?」とか「自分の需要ってあるんだろうか?」とかいろいろと考えてしまい、不安が新たな不安を作り出し、気が滅入ってくる。
だけど、どういうわけか僕たち芸人はあまり病まない。僕ら平成ノブシコブシの現マネージャーは、大学時代に「お笑い芸人はなぜ精神が安定しているのか」ということが気になって調べていたそうだ。今、実際に芸人たちを見て、その答えが分かったのか分からないのか、僕らも気になっている。
僕も考えてみた。どうして病まないのか。僕自身、売れっ子ではないから、月によってはヒマなときがある。やっぱり「アレ?」なんて具合に、わが身を案じたりもするんだけど、あまり深く考え込まない。もちろん、個人差はあるだろうけど、そういう状況下でも芸人たちの多くが意外といつも通りな気がする。「あまり考えない」には理由があるんじゃないのかと思うんですよ、芸人ならではの‟何か”が。
芸人は笑っている時間が多い。楽屋で芸人たちと話していたら面白いし、収録中にしても面白いことが多い。極端な話、ドーパミンがドバドバと放出されている時間が多い。
笑顔になると、脳は「楽しいんだな」と思って、「だったらもっと楽しくなるようにしよう」といった信号を送ってくるという。だから、どれだけ気が滅入っていても、スキップしたり面白い動きをするだけで、「楽しいんだろうな」と脳は勘違いして、気が滅入っていたはずなのに面白くなってくる――ということが科学的に立証されているらしい。脳を勘違いさせれば、変な話、その気になるというわけだ。
実際、身をもって痛感する。6時間の生配信をやって、びっくりするくらいギャラが安いことがある。だけど、その6時間は基本笑いっぱなしだから、脳がハッピーになっていて、途中から「ギャラ安いけどいいっす!」みたいになってくる。なんだったら、「ギャラ安いけど楽しい!」になる。ダメなんだよ、本来は。そう思っちゃダメなんです。だけど、「こんだけ面白いんだからもっとギャラが高くてもいいでしょ」と思う以上に、「ギャラ安いけどいいっす」に軍配が上がる。人間の脳って、適当だなって思います。
昔、営業でたくさんお金を稼いでいたにもかかわらず、その収入を減らしてまで、鉄拳さんが吉本に入ったときがあった。営業に行った方が確実にギャラはいいのに、その何分の1かのギャラだろうルミネでネタをしていた。「どうしてです?」と聞くと、鉄拳さんは「幸せです」と笑っていた。
当時の僕は理解することができなかったけど、今なら分かる。面白い人たちがたくさんいる場に身を置くことで、幸せを感じていたんだろうなって。‟お笑い自己啓発”。普通であれば、お金を払って自己啓発を受けるんだろうけど、この仕事は現場に行くだけで幸せホルモンが分泌され、啓発される。まぁ、スベればその分ストレスになるんだけど、少なくても‟そこにいる”だけで脳が活性化するという特異な仕事であることに変わりはない。だから、副業的にお笑いをする人が増えているのも納得だ。彼ら彼女らの半分くらいは、自己啓発な場を求めて、お笑いに触れたいんじゃないかと思う。
こんなことを理論的に考えていくと、僕が心配になるのが若手たちだ。コスパ・タイパを重視しがちだから、配信やショート動画で儲かると分かれば、なかなかその畑から動こうとしないだろう。月に4~5回の稼働で100万円を稼げる配信と、月に15回ほどライブや営業に行って80万円なら、前者を選んでしまいそうになる。だけど、そうじゃないんだよ。老害的な考えなんだろうけど、月に15回も面白い芸人たちと接する機会がある方がハッピーなんだ。話のネタも増えるし、脳からはドーパミンが出るし、なんちゃって不老不死の完成です。
よほどの人じゃない限り、働けば働くほど、心ってしんどくなっていく。「午前5時に起きてランニングして朝活しましょう!」みたいな人たちは、働けば働くほど成長するとか言うんだろうけど、結局それって、その人なりに自分の脳をうまく騙している(勘違いさせている)だけだよねって。ということは、勘違いさせることが大事なわけで、全員が全員、「午前5時に起きてランニングして朝活」なんてしなくていい。「ヤベ、おもろ」って脳が思えることを取り入れてください。
僕たち芸人は、不安定な仕事でも現場さえあれば、なんだか心の調子がいい。きっと皆さんにもあるはずです。自分の脳を勘違いさせる心の安定法が。

