鈴木寛の「2020年への篤行録」 第26回 ロボットと共生する社会を目指す

 みなさんは「コンビビアリティー」(conviviality)という言葉を聞いたことがあるでしょうか? おそらく東大生でも知っている方は少ないでしょう。ご存知という方がいたら、現代哲学や社会思想に強い関心をお持ちだと思います。

 コンビビアリティーは、オーストリア出身の思想家イヴァン・イリイチ(1926〜2002年)が提唱した概念で、日本語では「共悦」「共愉」、つまり“みんながワイワイ楽しく、生き生きとしている様子”を言います。もともとは効率を何かと優先する産業主義的な考え方を批判する視点から生まれたものなのですが、2020年以降、私はコンビビアリティーが非常に重要になってくると、最近考えています。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機にいま注目されているのが自動運転の普及です。先ごろ、トヨタ自動車が2020年頃を目処に高速道路での実用化を目指す方針を明らかにしました。またDeNAも2020年のロボットタクシー実用化構想をぶち上げました。

 自動運転を巡っては既存の自動車産業だけでなく、世界的にはグーグルも研究開発に力を入れており、遠くない将来、私たちの移動の概念を根底から変えていくイノベーションになります。ロボットが運転をしてくれれば、人間がいままで運転に充てていた時間を使って、車内で仕事なり、家族とのコミュニケーションなり、時間をより生産的に使えるようになります。飲酒運転も過去のことになるでしょう。

 一方で、未来の働き方を占った世界的ベストセラー「ワークシフト」でも論じられたように、テクノロジーによる社会のアップデートは同時に既存の雇用を奪うことになります。多くの国でタクシー運転手は、所得が比較的低い人たちが担っており、ロボットに運転の役割を取って代わられると、職を失ってしまいます。

「ワークシフト」では、暗い未来を論じていますが、「人間VS機械」のような単純な二項対立はある意味、欧米的な言説のようにも思えます。しかし私は、日本人は古来、外国からの文物を巧みに取り入れる多様性があることから、ロボットと仲良くなりながら、より豊かな社会を作れるのではないかと考えています。

 9月に「ユニバーサル未来社会推進協議会」を設立しました。目指しているのはロボットの力を借りて、障害の有無、言語の壁を取り払い、誰もが生き生きと(コンビビアルに)生活できる社会。ロボットや人工知能研究の第一人者にお集まりいただき、今後、民間企業をも巻き込んで日本から人間・ロボットが共生する社会のロールモデルを打ち出していきたいと思います。
(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)