野田新首相誕生 幹事長には輿石氏が就任

 菅直人首相の後継を決める民主党代表選は29日、都内のホテルで党所属国会議員による投票が行われ、野田佳彦財務相(54)が決選投票の末に海江田万里経済産業相(62)を破り、新代表に決まった。

 投票権者は小沢一郎元代表ら党員資格停止中の議員を除く衆参両院議員398人。1回目の投票では、海江田氏が1位だったものの、どの候補も過半数に届かなかった。野田氏は自身のグループに加え、菅首相のグループなどの支援を受け2位につけた。決選投票で野田氏は前原誠司前外相の陣営など「反小沢」勢力を結集、鹿野道彦農水相の陣営が野田氏支持を決めたことで、海江田氏に打ち勝った。

 明けて30日午後、野田氏は衆参両院本会議での首相指名選挙で第95代、62人目の首相に選出された。

 民主党は31日午後、国会内で両院議員総会を開き、党役員の骨格人事を正式決定。幹事長には小沢一郎元代表に近い輿石東参院議員会長を起用。参院議員の幹事長就任は結党以来初めて。輿石氏は参院議員会長を兼務する。野田新首相は30日夜、輿石氏起用に関し「参院だけでなく衆院を含めた全体をまとめる力がある」と説明していた。

 その一方で、小沢氏と距離を置き、自民・公明両党との協力を重視する前原誠司前外相を政調会長に起用。党内グループ間のバランスに配慮した形となった。

 野田氏は両院総会であいさつし、輿石氏ら新執行部に対して「党がまとまって政治を前進させるためにサッカーでいうミッドフィルダーになってほしい。全体を見回して戦略的にパスを回せる集団 が必要だ」と呼び掛けた。人事では、国会対策委員長に鳩山由紀夫元首相側近の平野博文元官房長官、幹事長代理に樽床伸二元国会対策委員長が就任。樽床氏は野田氏と同じ松下政経塾の出身だが、党内では独自のグループを率いており「中間派」とされる。

 野田氏は大連立を視野に自民、公明両党との政策協議を加速させ、信頼関係を醸成したいとの考えを改めて示している。ただ、自民、公明両党は大連立には慎重な姿勢を崩さず、野田氏が与党内で挙党態勢を構築できるかをじっくり見極める構え。自民党は衆院解散に追い込む選択肢も捨てておらず、秋の臨時国会もなお激しい与野党攻防が続きそうだ。

 野田氏は29日夕、自民党の谷垣禎一総裁、公明党の山口那津男代表とそれぞれ会談。野田氏は「野党に信頼されるよう努力していきたい。そういう形で信頼関係を築く中で、国難突破するために適宜力を合わせられるような環境を作っていきたい」と語り、与野党協調路線を呼びかけた。

 自公両党の協力が得られれば、衆参ねじれは解消され、政策遂行のスピードは一気に上がる。社会保障と税の一体改革の重要課題である消費税率引き上げについて両党に「共同責任」を負ってもらおうとの思惑も垣間見える。加えて3党の協力関係を構築できれば、民主党内の反主流派を押さえ込むことができる。党内基盤が脆弱な野田氏は、自公両党との良好な関係を構築することが政権延命の切り札となると考えているとみられる。

 まずは衆院選マニフェスト(政権公約)の見直しについての「3党合意」の実行を足がかりに協力を呼びかけていく考えだが、自公両党の反応は厳しい。両党に入閣の意思はさらさらなく「3党合意」や震災復興、福島第1原発事故の対応など喫緊の課題に限り協力していく方針だ。

 谷垣氏は記者団に「2年間で3人目の首相になるのだから平成23年度第3次補正予算案が成立したら国民に信を問うべきではないか」と語り、年内の衆院解散を求める考えを表明。大島理森副総裁は「与野党協議は、マニフェストを作り直して『野田イズム』を国民に訴え政治信頼を回復した上でのことだ」と安易な協調路線への転換を否定。山口氏は「大連立というのは言うべくして難しい。野田氏は大きな枠組みにこだわらず柔軟な姿勢で臨んでほしい」と語った。

 また財政規律を重視する野田氏は、東日本大震災の復興費や社会保障費を賄う増税を主張。しかし安易な増税は経済を失速させる。野田氏の路線が世論の理解を得られなければ、増税に執念を燃やす財務省の“傀儡政権”と批判されかねない。