これからの10年で東京の都市力アップ!

The 10th anniversary of TOKYO HEADLINE 猪瀬直樹 東京都副知事に聞く

 石原慎太郎前東京都知事の辞職で12月16日に都知事選が行われることとなった。石原氏のもとで約5年半、副知事を務めた猪瀬氏にこれからの東京についてうかがった。(聞き手・一木広治)

——現在66歳。今年は東京マラソンも完走されました。
「東京マラソンに出て、東京の全体を6時間もかけて自分の足で走って分かったんだけど、東京って大きすぎて、ひとつの真ん中になるものがないんですよ。上野の三社祭、高円寺の阿波踊りといった地域のお祭りが多種多様で全体を描いた絵がない。東京マラソンの沿道の観衆は170万人。人口1300万人のうち1割は出てきていることになる。地域のそれぞれのお祭りって絶対にそんなに人は集まらないよね。そういう意味では東京マラソンは全体を統一するお祭りになっているんだなということに気付いたのが面白かった。東京マラソンは世界の6大メジャーマラソンになった。今後はもっと世界の一流ランナーが来るようになりますよね」

——スポーツといえば2020年のオリンピック招致。スポーツの力で日本を元気に、というスローガンもあります。
「結局日本はね、サッカーと野球の甲子園だけなんですよ。有名校は野球部だけで200〜300人いる。でもレギュラーは9人で、ベンチに座るのは18人かな。今やたらと越境入学で野球の上手い子を日本中から集めるじゃない。それで多分ほんのわずかな差で補欠になっている。そのほんのわずかの差を違う方向で活かしたら1等賞になれる子がいっぱいいるはず。多様性を持っていろんな才能を活かしていけば、イギリスみたいに29個金メダルを取れると思うんだよね。あと皇居マラソンとか盛んにやっているけど、あれだけいるのにやっと半蔵門の地下にアシックスが施設を作って、毎日新聞の所に1個シャワーができただけ。なんであれだけいるのに市場ができてないの? もっとウェアだって売れるしね。というふうに、スポーツ市場をちゃんとつくりあげてないんですよ。だから今度オリンピックをやるとしたら、2020年に向けてそういう広がりを、裾野をどう作って、ビジネスとしての市場をどうやって広げていくかっていうことですよね。それは人生の選択肢を増やしていくということにもつながるんですよ。だから塾行って勉強して、いい学校入るとか、野球やって甲子園に行くとか、みんな視野が狭くなっている。狭〜い一本レールなんだよね。福島の原発事故で、国会事故調の報告書には東電幹部について“単線路線のエリートたち”って書いてある。一本レールのエリートが、狭い視野でしか物事を考えられないから起きちゃったんだよ。正しい総括だと思うな」

エネルギー問題、地下鉄、羽田のハブ化、水道の輸出に取り組む

——やっぱり東京が元気にならないと日本は元気にならないと思うんですけども、都市力アップということで、スポーツ以外にもエネルギー問題、地下鉄、羽田のハブ化、それから水道の輸出とかいろいろなことをやられています。
「まずひとつは水道ね。日本ではペットボトルを買う必要ないんだよ、水道の水が飲めるんだから。水道の水が蛇口から飲めるのは世界で11カ国だよ。フランスは飲めないからペットボトルを持っているのに、フランスに行ったらペットボトル飲んでるから日本でも売るようになったんだよね。アジアの国ではペットボトルは、水道管がないから持って歩くもの。しかも日本の水道管はきちんとした鉄管だから漏水率はたった3%で世界一。フランスやイギリスは10〜20%になっちゃう。東南アジアにいけば水道管が来てなかったりということもある。マレーシアなんかも、結局料金がきちんと徴収できていない。日本は料金徴収はほぼ100%です。水資源というものがちゃんと商品として成り立つシステムだっていうことだよね」

——エネルギーの問題も気になります。
「東電に対して改革をリードするために、天然ガス発電所プロジェクトとかいろんな提案をやっているのです。やっぱりエネルギーの安定供給って一番大事だから、それも低価格で。今、原発が止まっているから、代替電源をどうするんだっていうことですよね。太陽光も風力もいいけど、すぐには間に合わない。すぐ間に合うのは何かというと、天然ガスということになる。福島に石炭火力発電所をつくることで、雇用を生み出す提案もしています」

——東京メトロと都営地下鉄の壁を取り払ったのは大きな話題になりました。
「九段下ね。壁はぶっ壊したけど、運賃の統一まではいってない。まだ途中なの。原因は国交大臣が5人も変わっちゃってね、そろそろ決めにかかろうかと思うと、また違う大臣が出てくるんだよ。ダメだ、民主党政権は」

NULL
一人一人が輝くような東京をつくりたい

——東京のトータルな都市力アップというのは着々と進んでいるようですね。
「そういう意味では、やっぱりオリンピックは重要。東京は食べ物がおいしくて安いですよね。サービスもいいじゃない。でも外国人はそれをよく知らないんですよ。来ないんだから知らない。オリンピックだと開催が決まったら7年間旗を揚げていられるから、外国の人にいっぱい来てもらって、お金を使ってもらわないと。そういうことでいうとオリンピックは大事な観光の材料だよね。もうひとつは被災地の復興も合わせて目標設定しないとだめ。永田町は遅れているから、なかなか進んでいないけど2020年に被災地の復興を見せるということ。同時に聖火ランナーが被災地を回る。サッカーもそう。オリンピックのサッカーはロンドン以外でもやっていたでしょう。予選を札幌と被災地の宮城スタジアム、味の素スタジアム、横浜国際競技場、国立競技場とできるだけ東日本全体に行き渡るようにしたいと思ってます。東京マラソンでも170万人の観衆の他にボランティアが1万人いたわけだよね。そして参加者が3万6000人。要するに競技者だけでなく市民も参加するってことが大事なんですよ。どんな形でもみんなが輝いてくれるってことが大事。やっぱり東京は、人の砂漠ってよくいわれることもある。みんな一人一人が孤立化している。たとえば若い人たちがシェアハウスとか言ってるじゃない。みんなアパートで孤立している。昔は大学の寮とかでガヤガヤやっていた。だから集まる場所を作っていくということも大事かなと思ってます。あと、高齢者のケア付き住宅とかも作っているところです。住宅か施設か、じゃなくて、その中間の状態を作っていく。人をもっと大事にする。自分勝手に生きるんじゃなくて、みんなで助け合えるような世界を作りたい。一人一人が輝くような東京をつくりたいですね」