BOOK 人生って前に進むことしかできないから part1

『はだかんぼうたち』江國香織

 6年付き合った恋人と別れ9歳年下の男性と交際中の歯科医師の桃。桃の親友の響子、響子の母親で、同棲中の恋人を残し急死してしまった和子。そして、そんな彼女たちの恋人、配偶者、元彼たち。誰かを求める思いに、あまりに素直な男女たち“はだかんぼうたち”が、約束も束縛も将来の展望もない恋愛に身をゆだねていく。


 桃の親友・響子は4人の子持ち。元暴走族の旦那と子どもの世話に明け暮れながら家族のことを素直に愛している女性だ。そんな響子に桃の新しい恋人は惹かれていく。しかもそれを桃に隠そうともしない。その現実に違和感を持ちながらも、別れることも、彼らを責めることもしない。「彼と私は似た者同士だ」と桃は思う。


 終わりもない、答えもない恋愛だが、登場人物たちは、小さな喜びや嫉妬、ときめきや寂しさといった感情を大事に抱えながら日々生きている。小さな嘘や本心を隠しながら。


 痛みを引き受け、温もりを受け入れ、折り合いをつけながら、愛を求める姿は切ない。しかし心に大きなものを秘めながら、淡々と日常を生きる彼女や彼らに共感できるのはなぜか? さざ波のような小さなザワザワを感じながら、大波にのみ込まれないように静かに生きることが、自分を守ることだと知っているから。



『はだかんぼうたち』【著者】江國香織【定価】1500円(税別)【発行】角川書店