SPECIAL INTERVIEW 平岩 紙

舞台『悪霊−下女の恋−』が8月29日から上演

大人計画の平岩紙が松尾スズキの作・演出による『悪霊−下女の恋−』に出演する。同作は1997年に初演され、2001年に再演。今回は12年ぶりの再演となる。

 舞台は関西にある架空の都市。ウネハラ家の息子・タケヒコは、学生時代からの友人・ハチマンとお笑いコンビを組んでいる。売れない芸人であった二人に、ようやくTV出演というビッグな仕事が転がりこんできたころ、母・キメとの二人暮らしであったウネハラ家に、タケヒコの婚約者・ナミエが訪れる。突然のナミエの出現により、母と子・友人との間に微妙なズレが生じていく。

 平岩が演じる「ナミエ」は学生時代からの友人であるタケヒコとハチマン、タケヒコとその母・キメとの間に微妙な波風を立てる存在。初演では大人計画の池津祥子、2001年の再演では小島聖が演じた。
「再演は見ています。でもまだ私が大人計画に入ったばかりのころで、自分の意識が出来上がってないというか、役者としても人間としてもふわふわしていたんで、あまり覚えていないんですよ。絵的に“もわっ”としていて、面白かったというのは覚えているんですけど、話をちゃんと理解していない状態でした」

 再演というとついつい前に演じた役者を意識したり比較されたりするが…。
「よく覚えていないから気にならないです。ただ松尾さんが“DVDを見ろ”って言うんです。それも容赦なく(笑)。同じ役で同じセリフをしゃべっているわけですから、なにかしら影響を受けると思うんで、ギリギリまで見ないようにはしようかな〜とは思っているんです。松尾さんは“古典をやると思っていればいいんだよ。歌舞伎みたいに決まった型があって、ここのセリフはこう言ったほうがいいっていうのもできているから、そこはもういただいちゃって、真似できるところは真似しちゃえば”って言うんです。そっくりそのままやっても、やってる人が違うから同じにはならないと思うんです。でも先にやっている役者さんが作ってくれたものを最初から見ちゃうと、“それがいい”ってやっぱり思っちゃうと思うんです。聖さんも池津さんも1カ月稽古してそこに上り詰めたと思うので、私も、自分でナミエという役を一から立ち上げるという作業はやってみたいので、いいときにDVDを見ようかなって思っています。あと松尾さんとしては、ではけとかいちいち指示したくないから見て覚えてくれっていう気持ちもあるみたいです(笑)」

 笑いの絶えない作品なのだが、随所で松尾流のダークな部分が差し込まれる。
「松尾さんの作品のいいところって、外しどころがあるっていうところだと思うんです。ずーっとねじれこんだ中に連れていかれるんではなくて、どこかで救いを与えてくれる。登場人物の一人ひとりに愛情を持って書いてくれているのが伝わってきますので、演じていてそんなに辛くはならないんです。そして作品に嘘がない。やっぱり綺麗事ばっかりの物語だと “嘘でしょ”“そんな綺麗な人間ばっかりいないよ”って思ってしまって絶対に(演技することは)できないと思うんです。ダメなところを抱え込んでいる人のほうが魅力があると思うし、“ダメだな〜”と思いながらもダメな方向に行っちゃったりとか、人間ってそういうものだよなって思わせてくれるので、松尾さんの作品は逆にホッとします。私は小さいころからいろいろ考えたり、一人の世界が好きだったので、松尾さんが書こうとしているものはとても分かるというか、深いところでなんかひとつ分かるって、勝手に思っているんです。寂しさとか悲しさとかダメさとか」

 映像の世界でも活躍の場を広げる平岩。最近では2時間ドラマで初めての“犯人役”を難なく演じていた。
「昔から、サスペンスに出ても、犯人に間違われる人とか、死体を発見するお手伝いさんとかが多かったんです。今回はヘルパーの役だったんですが、台本を読んでいったら最後の最後に自分が犯人で、“えーっ!? これ無理ないかな”とか思ったんですよ。でも“いろんな役をやりたい”ということは常に思っていたので、楽しかったです。本当のサスペンスで犯人役は初めてだったんで、母親も“やっとちゃんとした犯人役ができるようになったんだね”って」
 外見から受けるイメージでどうしても振られる役が偏っていたところもあったのだが、今後はいろいろな役に挑戦する姿が見られそうだ。

 しかし“今後は映像作品への出演もより増えそうですね”と振ると「お仕事がテレビだけになっちゃって舞台と離れちゃうのは寂しいんです。映像だけになると私の場合はちょっとストレスが溜まるというか、そういうところもあるので、舞台もコンスタントにできるとうれしいですね」といつもの紙ちゃんに戻ったのだった。
(本紙・本吉英人)

M&Oプロデュース『悪霊−下女の恋−』 
【日時】8月29日(木)〜9月16日(月・祝)(開演は火木金19時、水土14時/19時、日14時。月曜休演。16日(月・祝)は14時開演。開場は開演30分前。当日券は開演の1時間前)【会場】本多劇場(下北沢)【料金】全席指定 前売り・当日共6500円【問い合わせ】森崎事務所(TEL:03-5475-3436=平日11〜18時) [HP]http://www.morisk.com/)【作・演出】松尾スズキ【出演】三宅弘城、賀来賢人、平岩 紙、広岡由里子