BOOK 早世から一年

『中村勘三郎 最後の131日 哲明さんと生きて』波野好江

『勘三郎伝説』関容子

 不世出の役者といわれ、歌舞伎だけではなく、舞台や映画などのメディアで活躍していた中村勘三郎が逝って一年。長年親交のあった作家と、役者勘三郎と中村屋を支えてきた妻による本が出版された。『勘三郎伝説』は、父親である先代勘三郎に密着した著作がある著者だけに、歌舞伎への造詣も深く、その作品の描写とともに、役者・中村勘三郎の人生を見ることができる。また、プライベートで交わされた会話やエピソードには人間・中村勘三郎の魅力があふれ、著者が勘三郎を役者として、そして人間として深く愛していたこと、そしてそんな彼の不在に深い喪失感を抱き、いまだに受け入れられない気持ちを持っていることが痛いほど伝わってくる。『中村勘三郎 最後の131日』は、小学6年の時に「勘九郎お兄ちゃまのお嫁さんになりたい」と願った妻が、その出会いから闘病の日々を振り返る。いるだけでその場を明るくする勘三郎が実はうつ病に悩まされていたことなど、今だから明かせる真実に驚かされるとともに、本人と家族が一緒になって乗り越えてきたことに感謝の気持ちさえわき起こる。そんな家族がいて、私たちは彼の素晴らしい芸を楽しむことができていたのだと。2冊に共通することは、勘三郎がいかに愛にあふれたチャーミングな人間だったかということ。勘三郎は若くして亡くなることで、天才の名を不動のものにしたかも知れない。でも彼を知る人は思うだろう。そんなものよりも、ただもっと生きて、ワクワクするような芝居をもっともっと見せてほしかったと。歌舞伎ファンでなくても、勘三郎の人間力に胸を打たれる作品だ。



『中村勘三郎 最後の131日 哲明さんと生きて』【著者】波野好江【定価】本体1400円(税別)【発行】集英社
『勘三郎伝説』【著者】関容子【定価】本体1600円【発行】文藝春秋