鈴木寛の「2020年への篤行録」 第18回 すずかんゼミ20周年

 NHK大河ドラマ「花燃ゆ」は3月の放送に入り、吉田松陰が松下村塾で教え始める時期になりました。久坂玄瑞、高杉晋作、伊藤俊輔(後の博文)……わずか2年ほどの短期間で、明治維新の原動力となった人物をどうやって輩出したのかは大変興味があるところ。松陰大先生を「イノベーター養成者」の理想像と仰ぐ私としては、今回のドラマではそのあたりをどう描くか非常に楽しみにしております。

 松陰大先生、松下村塾にはとても及びませんが、私が通産省を脱藩してそれくらいの意気込みで学生たちを教えたのが、慶応SFCや東大、阪大等で担当した「すずかんゼミ」の学生たちでした。初代のゼミを受け持ったのが1995年。今年は20周年ということで、ゼミのOB・OGたちが「20周年イベント」を2月7日に企画・主催してくれたので行って参りました。この手の行事は同窓会的に食事をしながら旧交を温めるだけの会になるものですが、そこは私の教え子たち。一味もふた味も違います。半日間、会場を貸し切って「熟議カケアイ」「異世代対談」「プロジェクト・ベースド・ラーニング」といった、歴代のゼミで学んできたことを再確認する立派な勉強会になりました。現役の学生たちはもちろん、日本最大手ネット企業のナンバー2になったOB氏など非常に忙しいメンバーも駆けつけてくれました。松陰大先生は教え子たちの活躍を見届けられませんでしたが、私はこうして「出藍の誉れ」を体感する幸せに恵まれたことに感謝しています。

 そんな中、私の教え子が先日、読売新聞2面の「顔」を始め、新聞各紙で紹介されました。文部科学省初等中等教育企画課に勤務する南郷市兵君(36歳)。新年度に福島県で開校する県立の中高一貫校「ふたば未来学園」の副校長に就任しました。

 文科省の職員が出向して高校の管理職に就くのは初のケース。しかも彼は大学卒業後、IT企業で働き、その後、文科省に専門職員として採用されたという異色の経歴もあって注目されたようです。もちろん、彼がこの職務に指名されたのは、震災後の教育復興を担当し、同学園の構想もゼロから関わってきた実績と実力が評価されたからです。

 新しい学校は、原発事故でふるさとを離れた子どもたちを呼び戻すだけが目的ではありません。進学コースのほか、高度なスポーツ技術を学ぶトップアスリート系、工業や農業などを学ぶスペシャリスト系のコースがあり、各界の第一人者や企業、NPOなど外部の方々と連携し、生徒が自分の頭で考え、発想できる、まさに21世紀型の学校なのです。

 記者会見で南郷君は「見通しがつきにくい問題でも取り組んでみる前向きな力が、福島の子には秘められている」と語ったそうです。問題解決能力を備え、地域で、あるいはグローバルで活躍する人材をいかに育てるのか。南郷君の新しい挑戦が始まります。

 この度、内閣から文部科学大臣補佐官を拝命しました。皆様からのご期待をかみしめております。大学入試改革を始め、日本の教育が真の21世紀型に生まれ変わるため全力を尽くす所存です。

 大学のクロスアポイントメント(兼任教授)、日本サッカー協会の理事の仕事は継続します。これだけ大役を同時並行で進めるのは私の人生で初めてのことです。政治家時代よりスケジュールがひっ迫して執筆時間の確保に悩みますが、東京ヘッドラインは学生や若手社会人、クリエイティブシティTOKYOを愛する皆様に支持される媒体。この貴重な窓口を通じ、引き続き皆様とコミュニケーションさせていただければ幸いです。今後は皆様に知っていただきたい文科行政の課題、海外出張の話などもお届けしたいと思います。引き続き宜しくお願いします。(東大・慶大教授、文部科学大臣補佐官)