すべての猫が虹の橋で愛する人と再会できますように–

『虹猫喫茶店』著者:坂井希久子

「猫の世話をするだけの簡単なお仕事—喫茶虹猫」そんな求人募集を見て、獣医大学一年生の玉置翔はある古ぼけた喫茶店を訪ねた。医学部を目指していたのにすべて不合格で、浪人して挑んだ次の年もダメ。投げやりな気分で獣医大学を受け、たまたま合格したために、不本意に通っている彼はサークルにも興味がない。そこで学生課でなんとなく見つけた張り紙を見て、猫カフェだと思い応募したのだ。しかしそこで待っていたのは、「猫バカ」で引きこもりの宝塚的イケメンの美しきオーナー・鈴影サヨリと里親募集中の捨て猫たち。そして早速任された仕事は、厄介な婆さんが住む猫屋敷の掃除と店の猫に生涯愛してくれる飼い主を探してやること。軽い気持ちで始めたアルバイトは、重労働かつ非常に困難を極めるのだった。


 しかし、気が弱く小心者の翔は、なかなか「辞めます」の一言が言えず、ズルズルとバイトを続けていた。厄介な婆さんだけでもうんざりなのに、サヨリさん目当てにやって来る相田アニマルクリニック院長、子どもが猫に引っかかれたと怒り狂う榎田さんと、泣きじゃくるだけの奥さん、地域猫活動家の伊澤さん、白猫のアイをいつも膝にのせ佇んでいる美少年のヒカル君…などなど次々と面倒な事情を抱えたお客さんが現れる。寂しがり屋の人間たちと愛くるしい猫の日々を綴った9つのチャプターからなる長編小説はほっこりする物語であり、殺処分など現代日本のペットに関わる問題にもスポットを当てた問題提起の本でもある。



【定価】本体1500円(税別)【発行】祥伝社