「スポーツカメラマンが選ぶ今年の1枚」サッカーW杯準決勝ベルギーの円陣

AFLO SPORT 長田洋平
 現在TOKYO HEADLINE WEBで連載中の「AFLO SPORTの写真コラム【PHOTOIMPACTープロの瞬撮ー】」で毎回、個性あふれる写真を見せてくれるカメラマンたちに数多くある写真の中から、あえて「2018年の1枚」を上げてもらった。その時の状況と合わせ、カメラマンとしての矜持、そして彼らのパーソナルな部分に踏み込んで話を聞いた。第3回目は長田洋平さん。

(撮影・長田洋平)
普段は撮れないシチュエーション。印象的な形で撮りたいと思った

 長田さんの今年の1枚はサッカーワールドカップ(W杯)準決勝のフランスvsベルギーの一戦での一コマ。

「これは魚眼レンズで撮ったんです」

 なぜ魚眼レンズで?

「円陣の広がり感を撮りたかったんです。ベルギーは試合前の整列の後にベンチ前でチーム全員で円陣を組むんです。こういうシーンがあるということが試合を重ねるうちに分かってきた。他のチームは11人でピッチの真ん中で組むことが多いんですが、ベルギーはベンチメンバーやスタッフを含めて全員で組む。普段は撮れないシチュエーションなので、印象的な形で撮りたいなと思って、プレスセンターのキャノンのデポで魚眼レンズを借りて撮りました。円陣を取るときは上から撮る人は多いんです。それもやったんですが、あまりいい感じにならなかった」

 これはどこからの写真? 円陣の外から?

「ライン際で円陣を組むんです。カメラマンがギリギリアクセスできるかどうかというところ。最初は上から撮って、普通の絵になってしまった。次にローアングルで撮っていたんですが、選手の足しか写らなくて何の写真だか分からなくて。最後に手をガっと伸ばしてました。多分ダメなんでしょうけど、選手の足の間から手を伸ばして撮りました。」

 確かに円陣は遠くから撮った背中越しの写真はよく見るが、こういう絵柄はあまりないかも。

「広角とかちょっと寄り気味のものは見たことはあるんですが、魚眼は見たことがなかったので、ちょっとやってみようかな、と。上からより下からのほうが良かったと思う。イメージ通りというか、イメージよりいいものが撮れたと思いました」
「パラスポーツは人が魅力的」と長田さん
障害者スポーツにひかれてライフワークとしても撮影

 長田さんは早稲田大学を卒業後、2009年にアフロに入社。そこからプロカメラマンとして活躍?

「僕は入った時はずぶの素人みたいな感じで、2012年のロンドンパラリンピックくらいまでスタジオのアシスタントをやっていました。」

 カメラマンとして入ったわけではない?

「総合職として会社の試験は受かったんですが、そこから“カメラマンとして頑張りたいです”と直談判したら、“じゃあアシスタントという形だったらいいけど、どうなるかは分からないよ”ということでアシスタントとして働かせてもらいました。3年アシスタントをやりながら、”休みを使って行くぶんにはいいよ”ということで会社から取材申請はしてもらえたので。平日はアシスタントをやって、週末にスポーツの写真を撮っていました」

 その時にいい写真が撮れた場合はアフロのサイトに載ることもある?

「それはありました。J2の横浜FCの試合を撮りに行った時にカズ選手が最年長ゴールを決めました。その試合はアフロから僕しか行っていなかったので、僕の写真を使ってもらいました。運は良い方です。あと、サイトには載りませんが、車いすバスケをライフワークとして撮影していました。きっかけは大学の時に知り合いのジャーナリストの方に誘われて行った日本選手権が、すごく面白かった。今も神奈川県のチームにお世話になって試合や練習を撮らせてもらっています。アシスタント時代に1~2年は帯同していたんですが、会社の仕事が忙しくなっちゃって、全然いけなくなってしまった。フェードアウトしたみたいな形になっていたんですが、去年そのチームの人たちと会う機会があり、また撮らせてもらうようになって今に至ります」

 2012年ロンドンパラリンピックに行っている。これはカメラマンになってすぐ?

「カメラマンなのかアシスタントなのかふわふわしている時期があった。ロンドンパラも自費出張みたいな形で行ったんですが、行って良かった。いい世界に巡り合えた気がしました。このころはまだパラスポーツは今ほど注目されていなかった。障害者スポーツ自体には、その前から興味があった。そのトップを撮れるなら自費でも行きたいと思った。もともとサッカーが好きだったので、五輪とかW杯に行きたいと思っていたんですが、偶然出会った障害者スポーツに今、ひかれてライフワークとしても撮っている。パラスポーツは人が魅力的ですね」

 スポーツの写真を撮る時に、その競技のことを深く知らないといけない? またはその逆?

「知らなくても撮れはしますが、知っていたほうがいい写真は撮れるとは思います。競技自体やルールを知ることも勿論大事ですが、選手のバックグラウンドを知っていると撮る写真も変わってくると思います。内面を写すというのは言葉で言うのは簡単ですが、実際にやってみるのは難しい。でも選手の物語を知っていれば自然とチャレンジするようにはなると思います。例えば、このコーチといる時は貴重な瞬間だから撮ろうとか。そうなると、どこからどこまでをスポーツ写真と認識するのかという問題も出てきます。僕のこの写真はアクションしている写真ではないので、これはスポーツ写真じゃないと言われればそれまでなんですけど、僕はこういう写真のほうが好きなのかもしれないです。」

 実際にプレーしている写真より?

「こっちもしっくりくる。もちろんそういうアクションがマックスみたいな瞬間も撮りたいですけど。撮れたら、それはそれでうれしいですし。でもこういうシーンもスポーツの世界の一つの事実ですし、この場でしか写せないもの。ワールドカップという貴重な機会でもあったし、その時しか撮れないものを撮ろうという意識は常に持っている。そうやって自分の中で考えた結果、こういう結論に至ったんだと思います」

 スポーツ写真かどうかは一緒に掲載される文章によって変わってくる場合もある。

「僕はあまりジャンルに拘りを持っていません。社長も “スポーツカメラマンである前にフォトグラファーであれ”とよく言っているんですが、カメラマンの中にスポーツカメラマンというジャンルがあるわけで、そういった意味でいうフォトグラファーという大きなくくりの部分を大切にしたい。その現場現場で何が一番美しいかを判断する行為はスポーツを撮ろうが、料理を撮ろうが、人を撮ろうが関係ない。今はそれをスポーツでやっているだけかなとも思います。

 それは写真を撮る時に心掛けていることですね。

「簡単に言えばベストを尽くすということです(笑)」
カメラマンとして大きな経験となったというサッカーW杯
今しか撮れないものは絶対に今撮ろう

 今年の1枚に選ぶくらいだからやはりW杯は他とは違う大会だった?

「高校までサッカーをやっていたということもあって、一番行きたかったスポーツイベントがW杯だったので特別な存在でした。実際にロシアに行ってみたら、W杯の熱狂の中に入れたこと自体が僕にとっては幸せな時間でした。どの試合も面白かったですし、日本代表の活躍もあって、現地での取材にもやりがいを感じていました。日本が負けてからも現地に残って撮影を続けることが出来て、日本代表を撮るのとはまた違った撮り方で、自分の撮りたい写真を自由に撮ることができました。日本代表の試合は漏れなく、満遍なく広く撮ることが求められましたが、日本戦以外は僕の撮りたいことにフォーカスして撮ることが出来ました。今回選らんだ一枚に関してもそうです。あの時はあの円陣だけを狙いに行って、最初から魚眼レンズを持っていきました。日本代表の試合だとそうはいきません。最初のシーンでは集合写真や先発・ベンチメンバーの顔写真などを撮るため、レンズのチョイス自体が違ってきます。」

 選手は大きい大会で殻を破ってブレイクするということがある。カメラマンもそういうことはある?

「ありました。今しか撮れないものは絶対に今撮ろうということを思うようになりました。僕は割と会社から求められている写真を真面目に撮るほうだと思うんですけど(笑)。でもそうしていると写真が普通になってしまう。そうすると自分の写真が埋もれてしまいます。1試合にカメラマンは250人入るので、皆と同じ写真を撮っていても仕方ない。どこかで差をつけないといけないと考えたときに、このスタジアムでしか撮れない写真、この時間じゃないと撮れない写真とかちょっと突き抜けるような考えが強くなった大会だと思います。
あと撮影ポジションがあまり良くなかったこともあって、限られた条件の中でどう工夫するか、ということも考えました。一か八かみたいなところもあるんですけど、選手が近づいてきた時やこっちから近づける時間にどう撮るか、ということを想定して、レンズを選んで狙いを絞って撮影していました。」

 プロのカメラマンは経験を積めば、技術的なものはある程度上がっていく。そこから先は何を撮るかが個性。こういう大会とか経験を経て、そういった部分が鍛えられていく?

「撮る瞬間をかぎ分けるというか。このシーンは今じゃないと撮れないから絶対に今撮る、後で撮れるものは後に撮る。そうやって優先順位をつけていって、その試合でどういう写真を並べられるかということも考える。この写真も1試合を通して“今はなにを撮るべきか”を考えた結果、撮れた写真です。開幕戦に至っては僕だけじゃなく、日本のメディアはほとんどピッチに入れなかったんです。何も撮らないわけにはいかないので、そこでどうすればいいかを考えますよね。じゃあ何を撮れば開幕戦を表現できるかを考えた時に、僕はスタジアム周りでサポーターを撮影したり、同じように入れなかったメディアの少し残念そうな姿を撮ったり、最終的には空いているゲートからスタンドに入って、スナップを撮ったりしていました。モスクワの赤の広場に行ってサッカー熱に盛り上がるサポーターとかそういう風景を撮りに行ったカメラマンもいました。面白かったのは、決勝も入れるかどうか分からなかったので、クロアチアvsフランスだからザグレブまで行ったカメラマンがいました。街に行ってサポーターが騒いでいる様子をドキュメンタリーっぽく撮っていたそうです。スタジアムにいたらみんな同じような写真を撮る中で差をつけるしかないですが、ザグレブに行けば、それだけでもう他にはない写真になる。そういうのも一つの在り方ですよね。スポーツドキュメンタリーというか。僕も行きたいと思ったんです。結局、入れることになったので行かなかったんですが。」

 今後はどんな写真を撮っていきたい?

「やはり2020年のオリンピックもそうですけど、パラリンピックも気になります。今撮らせてもらっている車椅子バスケのチームでパラリンピックを目指している選手がいるので、パラリンピック本大会の写真もそうなんですけど、そこに至るまでの道のりとかそういうもののほうが最近は気になるようになって来ました。
またオリンピック自体は2週間と短いですが、そこに至るまでの時間はとてつもなく長い。その時間を写したい。それは選手だけでなく、裏方にしてもそうです。スポーツ写真というよりはドキュメンタリーですけど。例えば東京都の島嶼部に行って、そういうところの人たちはどういうふうにオリンピックと向き合っているのかとか。あとは器具を作る職人さんのドキュメンタリーとか。そういうものも興味があります」

 そう思うようになったきっかけは?

「うちの会社としてオリンピックをどうアウトプットするのかな、ということがふと気になったんです。みんなが何年もかけて作り上げていくオリンピックをただ2週間に凝縮させて、写真集を作るだけでは勿体無い。せっかく日本と地元開催なので、もう少し長いスパンでものを見て、後に残るようなプロジェクトに参加できればいいなと思います。スポーツ選手でもいいし、大会に関わるスタッフでもいい。そういう東京2020に携わる人々の物語を紡いでければいいのかな、と思ったりしました。」
長田洋平

1986年、東京出身。かに座。
早稲田大学教育学部卒業後、アフロ入社。
2012年ロンドンパラリンピック以降、国内外のスポーツ報道の現場を駆け回っている。
最近では平昌オリンピック、ロシアW杯を取材。
今年の目標は英語習得とボルダリング5級。
アフロスポーツ

1997年、現代表フォトグラファーである青木紘二のもと「クリエイティブなフォトグラファーチーム」をコンセプトに結成。1998年長野オリンピックでは大会組織委員会のオフィシャルフォトチーム、以降もJOC公式記録の撮影を担当。
各ジャンルに特化した個性的なスポーツフォトグラファーが在籍し、国内外、数々の競技を撮影。放送局や出版社・WEBなど多くの報道媒体にクオリティの高い写真を提供し、スポーツ報道、写真文化の発展に貢献している。

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