日本人の「睡眠」に警鐘『スタンフォード式 最高の睡眠』西野教授

西野精治教授【インタビュー・前篇】
「春眠暁を覚えず」という故事があるくらい、春は眠るのに気持ちのいい季節だ。にもかかわらず、日本人の睡眠時間は世界的に見て最も短いといっていい。しかし、良質な睡眠を取れないと思わぬ不調につながることも……。そこで、新生活のスタートでより良い睡眠を取るにはどうしたらいいか、ベストセラー『スタンフォード式 最高の睡眠』著者で米スタンフォード大学医学部精神科教授であり、「最高の睡眠で、最高の人生を。」をスローガンに掲げ株式会社ブレインスリープを設立した西野精治先生に聞いた。
ベストセラー『スタンフォード式 最高の睡眠』著者の西野精治教授(撮影:蔦野裕)
 西野教授の専門である「睡眠」について、研究が始まったのは比較的最近のことだ。

西野精治(以下、西野)「睡眠医学は学問としては70年程度の歴史で、ひとつの契機となったのは1953年のレム睡眠の発見です。それとほぼ同時期に、以前は疲れや眠気を取るためのもので、部屋を暗くしたり音を静かにしたら受動的に眠れると考えられていましたが、睡眠や覚醒は脳の自発的な動きで調節されていることが動物実験によって明らかになりました。脳は眠っている時にも起きている時と同じように活発に動いていて、睡眠中にも重要な脳の機能を担い、記憶の定着、嫌な記憶を消し去る、成長ホルモンの分泌、自律神経の調節、免疫の増強などが行われています。現在、新型コロナウイルスが全世界で猛威を振るっていますが、感染症でいえば睡眠制限をかけるとインフルエンザウイルスに感染しやすくなったり、予防接種による抗体が出来にくくなったりするとの実験結果がある。さらに、睡眠障害があるとがんのリスクが高くなることも分かっています」

 たかが「睡眠」と侮るなかれ。「睡眠の質」の悪化にはさまざまなリスクが潜んでいるのだという。

西野「アメリカで2002年に、保険会社とアメリカがん協会の協力のもと、大規模な疫学調査が行われました。それによるとアメリカ人の平均睡眠時間は7.5時間で、その後6年間の追跡調査を行ったところ、平均睡眠時間に近い人たちの死亡率が一番低かったのです。この調査の結果から分かるのは、不適切な睡眠時間だとさまざまな疾患のリスクが上がって、そのために死亡率が上がるということです。同じ調査から短時間睡眠の、特に女性は肥満度が上がることも分かっています。睡眠不足になると、インスリンが分泌されていても反応性が悪くなり、結果的に糖尿病や高血圧のリスクも高くなる。さらに睡眠障害がうつ病や薬物依存などのリスクファクター(危険因子)であることも分かってきています」
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