がん検査のゲームチェンジャー目指す「線虫」。開発経緯と予防医療の未来を聞く

 国民の2人に1人が罹り、3人に1人が亡くなるといわれる「がん」。予防のためには定期的な検診が鍵となるが、国民のがん検診受診率は全国平均で約40%と、半数にも満たないのが実情だ。

 そうした中、自宅で採尿するだけで受検可能な新たながん検査に注目が集まっている。世界初の線虫がん検査「N-NOSE(エヌノーズ)」だ。その技術を持つ株式会社HIROTSUバイオサイエンスと大阪大学大学院医学系研究科は先月、〝早期膵がん診断法〟に関する研究成果が米国科学誌「Oncotarget」に掲載されたことを受け、記者発表会を行った。開発者である株式会社HIROTSUバイオサイエンスの広津崇亮代表に、「匂い」を使ったがん検査の開発秘話や予防医療の未来について聞く。

株式会社HIROTSUバイオサイエンス 広津崇亮代表(撮影・蔦野裕)

世界初の「線虫」を使った早期がん検査

 

 嗅覚に優れた生物「線虫」の研究者として長年、匂いを嗅ぎ分ける能力や、記憶と匂いの結びつきを研究していた広津代表。研究領域を広げる中で、「がんに匂いがある」との先行研究を知り、線虫の嗅覚を使ったがん検査の研究をスタートさせた。

 がん検査は大きく2つある。画像によってがんの有無や広がり、性質を調べる「画像検査」と、採血と検尿によってがん細胞が作り出す微量の物質を見つける「腫瘍マーカー検査」だ。画像検査は、ある程度組織が大きくならないと写り込まないこと、腫瘍マーカーも同様に、小さな組織では物質が反応しづらいという課題があった。とりわけ、他の臓器に比べて腹部の奥まった場所にあり、早期発見が難しいといわれる「膵臓がん(膵がん)」は、転移が早く、発見された時には手遅れとなることも多い。「サイレントキラー」を防ぐためには、早期での発見がより重要となる。

 

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