『オモウマい店』は画期的な番組。そして今日も、「全録レコーダー」は動き続ける〈徳井健太の菩薩目線 第131回〉

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第131回目は、最近のお気に入りバラエティ番組について、独自の梵鐘を鳴らす――。

徳井健太

 あいかわらずテレビを見るのが好きだ。

 チェックをしているつもりはなくて、純粋に見るのが好きなだけ。複数のチャンネルを同時に数日分にわたって録画できるレコーダー「全録レコーダー」。見るか見ないかはさておき、愛機を駆使して、テレビ番組をたしなんでいる。

 さかのぼると売れていなかった若手時代は、ほとんどテレビを見ていなかった。

 でも、今では立派な一視聴者。「芸人だから」なんて気負いはない。あくまで一視聴者として、テレビ番組を楽しむ。

 おそらく、あの頃は嫉妬があったんだと思う。だから、バラエティ番組ともなるとまったく見ていなかった。

 芸人として、絶対に見ておかなきゃいけないような番組。例えば、『キングオブコント』でさえ、この時期は観ることを放棄していた。「さすがにそれは芸人としてあるまじき姿勢じゃないか」。そんなことを思ったような気がする。その後、見ておかなきゃいけないだろう番組だけはチェックするようになった。

 そして、自分の芸人としての力量がわかってくるにつれ、嫉妬の気持ちもだんだんと無くなり、一視聴者として、心からテレビ番組、バラエティ番組を楽しめるようになった。

 受け入れる気持ちって、とても大切だ。悟りの叢林を分け入っていくと、余計な感情を抱かなくなっていく。受け入れる気持ちが芽生えた20代後半、俺は「全録レコーダー」を買った。

 最近のお気に入りは、『火曜は全力!華大さんと千鳥くん 』だ。面白くて仕方ない。番組名には名前を連ねていない『かまいたち』の存在が、やっぱり面白い。華大さんと千鳥さんという巨頭がいると、普通のコンビなら自分たちのポジションを見つけられないまま、おんぶにだっこになってしまうと思う。でも、さすがは『かまいたち』。あの二人にしかできないポジションを見つけ、なくてはならない味に。巧み、匠だ。

 欠かさず見てしまう番組と言えば、『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』もその一つ。画期的な番組だと思っている。めちゃくちゃ“しゃべり”を使うからだ。

 司会を務めるヒロミさん、小峠(英二)さんを中心に、VTRを見ながら「これってホントこうだよね」という具合に、些細なしゃべりを含めて、ほぼフルフルでいかしている。まるで家でテレビを見ている視聴者(といってもヒロミさん、小峠さんもプロ中のプロだけど)を、本当の視聴者である俺たちが見ているような構図。

 こうした副音声的なスタイルは、もしかしたら『相席食堂』がもたらした変化なのかもしれない。ご存知の通り『相席食堂』は、さまざまなゲストがロケをして、その様子を千鳥の二人がつっこむという番組だ。本来であれば、さざ波程度で終わってしまうようなロケVTR でも、千鳥の縦横無尽のツッコミが入ることによって大波へと変わり、お腹いっぱい笑わせてくれる。千鳥による副音声を楽しむ――そんなとらえ方もできる。

 そんな要素もある『オモウマい店』。めちゃくちゃ“しゃべり”を使う点に加え、店長のもとに弟子入りをする番組スタッフ…… そのスタッフの人生を追い始めるヒューマングルメンタリーも妙に面白い。それをヒロミさん、小峠さんが笑いながらしゃべる。

 なんというか、まとまっていない。普通のロケ番組だったら、構成があって、まとめがある。「さぁ、今日は〇〇にやってきました」とか「どうでしたか?」とか、きちんとしようとするものだけど、『オモウマい店』はまとめにいかない。それが心地よい。

「YouTubeは見ないんですか?」と聞かれることがある。

 テレビ番組を見るだけでも結構な時間を割くため、あまり見る余裕はない。というのが正直なところだけど、ギャンブル系の動画と、大量に料理を作る動画――それこそインドで100人前のビリヤニを作ったりするような動画は無性に見てしまう。そして、なんでこんな動画を見ているんだろうと、ふと我に帰る。

 気が付くと、「全録レコーダー」のリモコンを握り、『ジョブチューン ~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』や『ウワサのお客さまPR』なんかを見ている。なんであんなに地方のスーパーって激安なんだろう。コンビニの技術ってすごいよなぁ。小腹が減ったとき、口の中に放り込むのにちょうど良い番組。それもまた、テレビ番組の醍醐味なんだよね。

【プロフィール】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw