芸人をプレイヤーのままでいさせる『千鳥の鬼レンチャン』。だから、面白い。〈徳井健太の菩薩目線 第138回〉

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第138回目は、『千鳥の鬼レンチャン』について、独自の梵鐘を鳴らす――。

平成ノブシコブシ・徳井健太

『千鳥の鬼レンチャン』が面白い。ホント、千鳥さんの番組は面白いものが多くて困る。

 この番組は、ゲストが挑戦者となって、連続のクリア、連続の正解(鬼レンチャン)にチャレンジするというもの。中でも、カラオケを主体とした挑戦、たとえば「サビだけカラオケ」は、音程を外さないようサビを歌いきるなどがある。

 挑戦するゲストを、千鳥さんとかまいたちがそれぞれ選抜し、両軍から送り込まれたゲストがどれだけ連チャンできるか――、そのレンチャン合計数を競い合う。

 やたらと面白いんだけど、この番組がとりわけすごいと感じるのは、チャレンジするゲストと千鳥さん&かまいたちが同じ空間にいないということ。

 千鳥さんとかまいたちは、スタジオでモニターを見ながらチャレンジの様子を見届ける。つまり、画面上ではゲストが出演し歌唱しているのに、実際に二組がゲストと絡むことはない。言うなれば、ゲストがロケに行ってその様子をスタジオから見届けている『相席食堂』のような構造。

 だけど、これが千鳥さんとかまいたちの4人ともなると、純粋なトークライブに昇華されてしまう。こんな番組がゴールデンで流れているという現実と、それを認めさせてしまう二組の力量に、毎回、私徳井健太はテレビの前で兜を脱いでいる。

 これはあくまで私的な推測だけれど、4人とも“テレビを意識しないように意識している”んじゃないかなと思う。

 というのも、誰か一人がボケたら、 そのボケに対して全員が乗っかってきて、そのボケがへしゃげて押しつぶされるまで乗り続ける。毒も吐き続ける。普通のバラエティ番組だったらこんなことはありえない。やっぱりきちんと構成というものがあって、トークの流れにも起承転結的な流れがある。

 ところが、ずっとこの4人は、ゲストの挑戦を見届けながら好き勝手に喋りまくっている。4人全員が、ずっとサビを繰り返しているようなもので、イントロとアウトロもあったもんじゃない。「サビだけカラオケ」とはよく言ったもの。

 スタジオは芸人だけでいいっていう潔さ。本当は、そこに俳優さんだったりタレントさんだったり、視聴者の間口を広げるだろう存在を混ぜた方が視聴率だってよくなりそうなものだけど、そうしない。原材料、芸人100%。混じりっけなしの芸人トークの純正を、こういったスタイルで提供してしまうのはすごいことだと思う。それに応える千鳥さんとかまいたちのスキルも恐ろしいけど。

 デキる芸人ほど、その場にいる非芸人的な演者に気を遣ったり、見せ場を作ってあげたりする。するというか、してしまう。そうすると、当然リソースは分散してしまって、もっと面白くなったかもしれないところを、あえてブレーキをかけたりして調和の道を選ぶ。だけどこの番組は、全てのリソースを他の3人に対して向けることができるから、フルスロットルで笑いの最短距離を目指す。

 面白くて気が回る芸人ほどMCという高いポジションになっていく。めちゃくちゃ面白いことを言えるにもかかわらず、頭の回転が尋常じゃないからこそ、そのリソースを割いてまで、周囲の調和にリソースを傾ける。となるとやっぱりどこかで面白さみたいなものは損なわれていく。プレイヤーじゃなくオーガナイザーになると、どうしても加速力も爆発力も下がってしまう。

 でも、この番組は千鳥さんもかまいたちもプレーヤーであり続けられるような仕組みになっている。

 面白ければ何をやってもいいっていう可能性を感じさせてくれる番組。それでいて、テレビの新しい見せ方を提示する番組でもあると思う。テレビでラジオ的なことをやる――と言ったら変だけど、 テレビの使い方という点では示唆に富んでいる番組だと思う。

 このフォーマットはとても優秀で、たとえばくりぃむしちゅーさんとアンタッチャブルさんの4人がVを見ながらボケまくるなんてことも成立してしまう。想像しただけで怖ろしい。

 随分と長い間、テレビはテレビ的であることにこだわりすぎていたのかもしれない。混ぜるな危険とはよく言ったもので、やっぱり芸人はプレイヤーになっているときが一番面白い。むちゃくちゃ面白い人を、いかにしてプレイヤーのまま番組として成立させるか。そんなことを『千鳥の鬼レンチャン』は考えさせてくれる。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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