テレビから聞こえてきた成田悠輔さんと呂布カルマさんのコメントに、背筋がピンとした〈徳井健太の菩薩目線 第146回〉

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第146回目は、AI時代のコメント力について、独自の梵鐘を鳴らす――。

徳井健太

 MXテレビを見ていると、成田悠輔さんが興味深い話をしていた。

 なんでも、Google が「AIに感情が芽生えた」と主張する自社の有能なエンジニアを解雇したらしい。今年7月、ネットニュースにもなっていたので知っている人もいるかもしれない。解雇された詳しい理由はここでは省くが、ざっくり言うと、エンジニアがそうした主張をすることが「内部情報を漏えいする」ことに該当したからだという。

 ニュースを受けて成田さんは、「皆さんは人間のコメントと AI のコメントを区別することができますか?」と話し始めた。すごいことを言うなと思った。

 テレビはときに、当たり障りのないことを言うことが求められる。明るいニュースが報じられた際は、「こちらまで心が暖かくなるようなニュースですね」と言えば誰もいやな気にならない。凄惨なニュースが報じられた際は、「とても痛ましいです。信じられません。今後はこのようなことがないことを祈ります」といえば誰も目くじらを立てることはない。仮に、「起こるべくして起こった」なんて言おうものなら、高確率でハレーションが起きるだろう。だから、なるべく可もなく不可もなく。

 こうしたコメントって、AI の方が得意なんじゃないだろうか。膨大なデータを武器に、どんなニュースにどういう言葉を当てはめれば、最大公約数として正解か。気の利いたコメントを言うよりも、熱くも冷たくもない人肌のコメント。そんな AI コメンテーターがいたら……と考えると5年後には情報番組からタレントの数が激減しているのではないかと思ってしまった。コメントは AI が分析して、その言葉を発するVTuberのようなバーチャルな存在がいて、その横に人間の専門家がいれば、体裁的には情報番組として成立する。

 当たり障りのない言葉が世の中に蔓延していけば、人間のコメントと AI のコメントを区別することはできない。というか、どっちが人間だかわからない。区別がつかないって、こちら側にも突き付けられているってことだ。

 芸人やタレントが、テレビで何かを発していくのだとしたら、オリジナリティがなければ厳しくなっていくのは明白だ。

 そのヒントというわけではないけれども、毎回、切れ味鋭いコメント力に感心してしまうのが、ラッパーの呂布カルマさんだ。その言葉の切り返しや重さは、『フリースタイルダンジョン』時代からキレッキレだったけど、コメンテーターとして何かを話すときも変わらない。

『ワイドナショー』に呂布さんが出たときのこと。

 お題は、中高生の整形は是か非かというものだった。出演者のほとんどが、大人になるまでの過程で顔は変わるし、今整形をする必要はないんじゃないか、と話をしていた。すると、アインシュタインの河井(ゆずる)が、僕の同級生は整形をしたけどそれによってものすごく性格が明るくなった――といったような趣旨の話を展開した。大人であっても整形をすることで自信が芽生えて、積極性や社交性が芽生えように、学生でもそうした効果があるのではないか、と。

 ところが呂布さんはこう言い放った。

「整形することで明るくなったことがいいことみたいに言われますけど、僕は別に暗いヤツは暗くていいと思う」

 これぞ数々のチャレンジャーを沈めてきたパンチライン。たしかに、性格が暗くても自分のことを幸せだって思える人はたくさんいるし、部屋の中で黙々と自分の好きなことをやっていたからこそ成功する人だっているだろう。明るいってことがどうして正義のように扱われるのか。

「暗くて良かった」。そう言える人が増える世の中の方が豊かな気がする。明るくならなければ、人に恵まれないような社会ってどうなんだろう。そうした言葉を平然と人気番組であるワイドナショーでかますことができる呂布カルマさんに居住まいを正された思いだ。音楽で勝負している人にとって、テレビは副業、出稼ぎ。だから、仮に痛手を被ったとしても本業には差し支えがない。自分の武器と還る場所がある。そういう人にならないと、AI時代は生き残れないのかもしれない。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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