鶴瓶師匠の熱湯風呂に見た、飼い犬じゃなくオオカミになることの大切さ〈徳井健太の菩薩目線 第148回〉

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第148回目は、『FNSラフ&ミュージック2022~歌と笑いの祭典~』の一幕について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 2夜連続で放送された『FNSラフ&ミュージック2022~歌と笑いの祭典~』。出演者は、ダウンタウン・松本さん、中居正広さん、ナインティナインさんなどなど錚々たる顔ぶれ。まさに祭典だ。

 その中で、熱湯風呂に挑戦するというコーナーがあった。当然、ダチョウ倶楽部さんが登場する。いろいろなことが頭によぎる、バラエティの本気。

 誰が熱湯風呂に入るのか――。白羽の矢が立ったのは、笑福亭鶴瓶師匠だった。なぜかお腹にはサランラップが巻かれていた。ダイエットのためらしい。やっぱりお笑いのスターは“持っている”。

 鶴瓶師匠といえば、2003年の『27時間テレビ』生放送で、ポロリをしたことが思い出される。そうした過去を持つ師匠が、熱湯風呂に挑む。そして、あれよあれよと、どんどん服を脱がされていく。周りの芸人たちは、「隠せ、隠せ」「危ないから、この人は」なんてはやし立てる。

 でも、なんだろう。そうガヤを入れる芸人たちから放たれる、「この人は、ある一線を越えるとホントにやっちゃうから」という危機感と緊張感がごちゃまぜになったような雰囲気。江頭2:50さんにも通ずる“ホントに何をしでかすかわからない感”。いつ調和が崩れてもおかしくない芸人たちの連係プレーと、鶴瓶師匠の一挙手一投足にヒリヒリ、ハラハラ。芸人だったら、こうありたいなとあこがれた。

「どうせ局部は出さないんだろ」と思った人は多かったと思う。でも、そんな“ごっこ”的な空気や、周りにただただ担がれているだけの状況にプチンと何かが切れてしまい、ホントに暴走する――。そういう雰囲気を持っている芸人が、たしかにいる。今回の鶴瓶師匠もそう。

 言うことを聞く飼い犬じゃなくて、本質はオオカミなんだなって思わせる芸人。噛むんじゃなくて、「噛むんだろうな」と思わせる芸人。この違いが「妙」だと思う。毎回噛むと、それは単に使いづらい演者だと思われる。だから、「噛むんだろうな」。それがあることが望ましいのだと、サランラップ姿の鶴瓶師匠を見て学ばせていただいた。

 ある意味では、それはどこに地雷が埋まっているかわからない怖さにも似ているかもしれない。あきらかに、「このテーマに触れたらダメだろうな」という人って、怖いけど不気味ではない。でも、どこに地雷が埋まっているかわからない人って、なにより不気味な怖さがある。それもまた、「噛むんだろうな」という雰囲気を持っているからこそ可能にしているのだと思う。

 その雰囲気を、一般社会で不特定多数の人に向けるのはリスキーだ。同じ部署にいる同僚が、そんなただならぬ雰囲気を発していようものなら、多分、浮いてしまう(それでもかまわないという人はそれでいいんだろうけど)。

 一方で、俺たちのような芸人の世界やメディアの世界、個人事業主の世界においては、「飼い犬」にならない雰囲気……とりわけ“対同業者”に対しては大事なんじゃなのかと思う。舐められ続けると足元を見られ、雑に扱われてしまう。でも、それって決してお金の話じゃなくて、態度や雰囲気としてのオオカミらしさ。

 たとえば、グルメリポートをするとして、この人をキャスティングしたら「平気でマズい」とか言いそう……だけどそれ以上に、面白いものができあがる。そんな風に思ってもらえたら、その芸人、そのタレントは、鎖を断ち切って自立した「ヤバさ」のスキルがあるってことなんだろうなぁ。

 もしかしたら噛まれるかもしれない。だけど使いたい、一緒に仕事をしたい――そう思ってもらうには、一にも二にも「実力」がなきゃいけない。結果を残せる「強さ」がないと話にならない。だから、オオカミなんだろうなと思う。自分にはそうした強さがあるのだろうかと自問自答する。

 目の前に料理が運ばれて、その一皿がマズかったとしても、「マズい」なんてなかなか言えないよね。キッチンの向こう側では一生懸命作ってくれた人がいるだろうし。そういう想像力を忘れないようにしながら、オオカミの群れを目指していきたい。

 

※「徳井健太の菩薩目線」は毎月10・20・30日に更新します

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
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