「考えるな、感じろ」。それはまさに、前頭葉を使うな、小脳を信じろ――ってことですよね? 中野信子先生!【徳井健太の菩薩目線 第191回】

平成ノブシコブシ 徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第191回目は、前頭葉と小脳について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 

 脳の仕組みは面白い。

 bayfm『シン・ラジオ ヒューマニスタは、かく語りき』で、鈴木おさむさんから脳に関する面白い話を聞いた。おさむさんは、脳科学者の中野信子さんと話をする機会があったそうで、その中で「藤井聡太八冠は、どうしてあれほどまでに強いのか?」という話題に及んだそうだ。

 通常、人間は物事を考えるとき、前頭葉を使う。お酒を飲むと、この前頭葉の働きが鈍るため、理性が働かなくなり、暴走してしまう。人間は、前頭葉が発達していれば発達しているほど、物事をよく考えられると言われる。勝ち筋をロジカルに考え、理詰めが求められる棋士ともなれば、前頭葉が素晴らしく発達しているに違いない。ところが、天才中の天才である藤井聡太八冠に対して、中野さんは「小脳で将棋を指しているではないか?」と個人的見解を示した、とおさむさんは教えてくれた。

 小脳は、運動神経や反射神経を司る脳の部位になるらしい。藤井聡太八冠は、おそらく前頭葉も恐ろしく発達しているだろうけど、ひらめく瞬間や一手を指す瞬間は、ピンときたものに乗っかることができる――、つまり小脳が前頭葉を追い越してしまうのではないか、というのだ。前頭葉で考えたこと(考えに考えて、理詰めで立てた戦略)を、小脳(反射神経)でひっくり返せるから驚異的な強さを誇る。「理屈を超えた何か」。そうとしか表現できな人は稀有だという。

 その話を聞いたとき、お笑いも同じなのではないかと思った。

 理路整然とロジックを積み立て、その場の状況を的確に判断できる芸人は、前頭葉が働いているタイプだ。一方、その場その場の瞬間に合わせて、反射神経で笑いを取る小脳が働いているタイプがいる。うちの相方吉村は、まさに後者だと思う。

 僕は、分析をするのが好きだから、おそらく前頭葉が働いているタイプではないかと思う。トークの収録があれば、事前に何を話すか筋道を立て、戦略を立てる。でも、収録当日の現場の雰囲気を感じ取ると、必ずしも想定通りには行かない。そのため、その場で再びあれこれと考えてしまう。前頭葉が働いている証拠だ。

 ところが、小脳型、運動神経で笑いを生み出すタイプは、積み上げてきた戦略やロジックをときに飛び越え、ときに捨て去って、ピンときたものを選んでしまう。考える前に動いている。

『アメトーーク!』の運動神経悪い芸人のメンバーを見て、ピンときた。

 大喜利が強いメンバーが多いのだ。過去、運動神経悪い芸人として参加した芸人の一例を挙げると、千原ジュニアさん、川島明さん、有野晋哉さん、西田幸治さん……大喜利マスターのような人たちが、運動神経悪い芸人として参加しているのだ。

 もちろん、運動神経の悪い芸人すべてが、「大喜利が強い」とは言い切れないと思う。だとしても、前頭葉と小脳の関係に鑑みれば、何か因果関係があるのではないか――と、僕はいかにも前頭葉を働かせながら考える。なぜなら、吉村にも言えることだけど、逆に運動神経が良い芸人は、「大喜利が苦手」と口にする人が多いからだ。

 僕の個人的見解に過ぎないけれど、運動神経がいい、つまり小脳が前頭葉よりも働いてしまうタイプは、積み上げてきたものを感覚的に飛び越えてしまう芸人ということになる。半面、芸人という職業をしている以上、何か面白いことを言わなきゃいけないと思うし、その場でうまく立ち回らないといけないといった、前頭葉的な脳の働きをせざるを得ない。その最たる例が、大喜利だ。

 もし、運動神経型の芸人だったら、大喜利は必要以上に前頭葉を酷使することになる。本来、小脳にリソースの大半を使うべき人が、中途半端に前頭葉にリソースを割いてしまうため、「大喜利が弱い(大喜利をやらせるとつまらなくなる)」という現象が起きてしまうのではないか?

 かつて、『水曜日のダウンタウン』で、「大喜利苦手芸人、酔った状態の方が面白い説」という説が放送された。アルコールによって前頭葉の働きが鈍った彼らは、たしかに面白かった。とても大喜利が苦手な人には見えなかった。その収録に参加していたのは、春日俊彰、あばれる君、おたけの3人。どっからどう見ても、小脳型の芸人だろう。

 振り返ると、吉村の判断はよく理解できないことが多かった。たとえば、ネタ合わせをしていたとき。僕は、その日のお客さんの雰囲気などを考慮して、あれこれと考え、吉村に伝えていた。間もなく本番。すると、吉村が近寄ってきて、「徳井、やっぱりあっちにしよう」と直前の変更を通達してくることが、幾度となくあった。

 結果的に、それでスベった。

 いまなら、吉村のあの瞬間的な判断に合点がいく。彼は、小脳で選択をするから、ときに大スベリし、ときにスターのように輝く。

 もしも、前頭葉と小脳の使い方を、ある程度コントロールできて、自覚できるのなら、お笑い芸人はもちろんのこと、働いているすべての人にとって、パフォーマンス向上のウルトラCになるんじゃないだろうか。

 前頭葉で勝負できる人は、反射神経的なものが求められるようなシーンの身の振り方を考えなければいけないし、反射神経や運動神経で取捨選択するタイプは、ロジカルな空間における立ち居振舞いを用意しておけばいい。

 また一つ。NSCで教えた方が良いことが見つかりました。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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