インパルス板倉さんのおかげで、おのれを思い出す。偉大な先輩に感謝の回!【徳井健太の菩薩目線 第193回】

平成ノブシコブシ 徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第193回目は、インパルス・板倉俊之とのトークライブについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 新年早々、旧年のお話で恐縮です。去る11月2日――、ゲストにインパルス・板倉俊之さんを招いて、「敗北からの芸人論 トークイベント vol.9」を行った。

 実は、このイベント、ゲストに先輩が登場することがほとんどない。板倉さんは、東京NSC 4期生。対して、僕たち平成ノブシコブシは、東京NSC5期生。当時のNSCでは、一つ上の先輩は直属の上司のような関係性だから、「NSC4期生」と聞くだけで、僕は手のひらから汗がにじむ。2期、3期上の先輩よりも、“1期上”にこそもっとも畏怖の念を抱いてしまうのだ。

 東京NSC4期は、「花の4期」と呼ばれるくらい、当時から期待されていた。ロバート、森三中、ジャングルジム……スターが揃う中でも、ひときわカリスマ的な存在感を放っていたのが、板倉さんだった。

 そうした魅力を放つからだろう。この日も、会場にはたくさんのお客さんが詰めかけ、板倉ワールドを期待する雰囲気に、場が支配されていた。

 その空気感を感じ取った僕は、「みんなが求めているだろうことを聞こう」と考えた。例えば、同じく4期のスーパースター、ロバート・秋山竜次さんとの関係性、相方である堤下敦さんの近況などなど。俗にいう、“ここでしか聞けないお笑い裏話”というやつだ。

 板倉さんとは、『ゴッドタン』の企画「腐り芸人セラピー」で、くつわを並べる仲だけど、それ以前はほとんど会話をしたことがないほど接点がなかった。「腐り芸人セラピー」を機に、岩井(ハライチ)を含めて3人で飲みに行くようになったことで、一期上のカリスマと少しだけ自然に話せるようになった(気がする)。

 3人で飲みに行ったはいいものの、僕と岩井が価値観の違いから口論に発展してしまい、板倉さんの仲介で事なきを得たこともあった。フルーツポンチの村上が参加したときは、やっぱり岩井と彼の間で、またもや価値観の違いから口論が生じた。板倉さんが仲介に入る姿は、まるで僕と岩井の再放送を見ているようだった。板倉さんに無駄な負担をかけてしまう飲み会だったため、コロナ禍とともに、この飲み会は自然消滅してしまった。懐かしいなぁ。

 板倉さんは優しい。トークライブでも、「お前が聞きたいんだったら話すよ」と言って、裏話的な話題にも面白おかしく乗っかってくれた。

 僕も楽しかった。でも、始まって30分くらい経つと違和感を感じ始めた。それは、板倉さんに対してではなくて、まるでインタビュアーのように話を聞く、自分に対してだった。

 みんなが求めているものを質問する。大事なことだと思う。一方で、心の底から自分が聞きたいことを聞いているんだろうか? 違和感を覚えるとともに、真摯に向き合ってくれている板倉さんに対して、「失礼なんじゃないか」と感じた。

 僕は、人から話を聞くことが好きだ。その人が話しやすい雰囲気を作り、その結果、ついつい話をしてしまう――そういうトークをすることが好きなはずなのに、なんだか形式ばって質問を繰り返す自分に、「何をやっているんだ」。

 僕は、いま板倉さんに聞いてみたいことをぶつけることにした。キャンプのこと、ハイエースのこと、僕と岩井がもめた死生観のこと。内容なんてまったくないかもしれない。ただ、板倉さんとこうやって面と向かってトークライブをすることは、この先ないかもしれない。

 少しだけ、昔話もした。『はねるのトびら』に出演していたとき、やっぱり板倉さんはコントにこだわり、企画系コーナーに対して乗り気ではなかったと教えてくれた。でも、いま思えば未熟だったとも振り返っていた。

 若い時代は、どうしたって自分の価値観を信じてしまう。ましてや、その信念で結果を出し、切符をつかみ取ったのだから、その信念を妄信してしまうのは自然なことだと思う。周りも、その周りの事情も知ったことじゃない。だけど、ある程度キャリアを重ねていくと、決して自分一人で物事が動いているわけではないと知る。

『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』の収録の際、達人・いとうせいこうさんに、「やっぱりそういうことって、若手時代から知っておいた方がいいんですかね?」と聞いてみた。すると、せいこうさんは、「若いときにそんなことは知らなくていいんじゃない? つまんないでしょ、そんな若手」と笑って一蹴した。僕は、膝を打った。

 達観の境地に向かっている板倉さんは、最近はハイエースに乗って自然を見に行くことにハマっているという。なんでも一人で山に登って、自然を満喫するらしい。

 トレッキングをする際、カラフルなウィンドブレーカーを着るのは、「万が一遭難をしたときに見つけられやすいから」だという。山登りをする際に着込むのは正しくなく、「寒暖の差が激しく変化するからこそ、脱げるような(着脱しやすい)ウェアを着ないといけない」とも話していた。「全部意味がある」。そう板倉さんは話していた。

 何てことのない話でも、意味があるかどうかを見つけることができるか否かは、自分が聞きたいことを聞いているかどうか。何かを聞きたいとき、雑念なんか必要ない。聞きたいことを聞く。その姿勢が大事だと、一つ上の偉大な先輩と向き合うことで、あらためて気が付かされた。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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