世界が夢中になった日本のホラー映画の系譜…過去にはカンヌ受賞も! 映画監督が解説
2000年代、世界の映画監督たちも魅了したJホラー
2000年代初頭には、Jホラー・ムーブメントがハリウッドを席巻した。中田秀夫監督の『リング』(98)、清水崇監督の『呪怨』(劇場版/02)、中田秀夫監督の『仄暗い水の底から』(02)、黒沢清監督の『回路』(01)、三池崇史監督の『着信アリ』(03)がそれぞれハリウッドでリメイクされ、特にメジャー・スタジオが製作した『リング』のリメイク『ザ・リング』(02)と、『呪怨』のリメイク『THE JUON/呪怨』(04)は世界的に大ヒットを記録し、シリーズ化されることに(その後リブート版も製作された)。中田監督や清水監督はハリウッドに招かれ、アメリカでも作品を撮るなど国際的に活躍するきっかけとなった。
ハリウッドでのリメイク化の話が何度も出ていたゾンビアクション『VERSUS ヴァーサス』(00)も、フランスのジェラルメ国際ファンタスティック映画祭やカナダのトロント国際映画祭、イタリアのローマ国際映画祭で絶賛され、監督の北村龍平は『ゴジラ FINAL WARS』(04)などの作品を撮り、2007年にアメリカに移住。ブラッドリー・クーパー主演『ミッドナイト・ミート・トレイン』(08)やルーク・エヴァンズ主演『NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ』(12)といったホラーを監督し、今もハリウッドを拠点に活動している。
同時期に、センセーショナルなスラッシャー・ホラー『ハイテンション』(03)でブレイクし、今はロサンゼルスを拠点に活躍するフランス人監督、アレクサンドル・アジャ(『クロール 凶暴領域』『ピラニア3D』)もJホラーの大ファンで「ほとんどの作品を公開当時、パリの映画館で観た。あの時代に一番面白いホラーを作っていたのは日本だ」と熱っぽく語っていた。そんなアジャは現在、伊藤潤二の漫画「富江」をベースにしたTVシリーズの企画開発を進めている。
もう一本、この時代の重要な日本のホラー映画といえば、三池崇史監督が村上龍の小説を映画化した『オーディション』(99)。世界中の映画祭で上映され、過激なショック描写に途中退席者が続出したことも話題になったが、オランダのロッテルダム国際映画祭やポルトガルのポルト国際映画祭、韓国の全州国際映画祭で賞を受賞し、多くのホラーファンを魅了してやまない、海外で最も認知されている日本のホラー映画の一本である。ちなみに、クエンティン・タランティーノが選ぶ「生涯の映画ベスト20」のリストにも『オーディション』は入っており、「真のマスターピース」と大絶賛。そういえば、以前筆者(映画評論家/映画監督)が新宿でQTと会食した時に、僕がたまたま三池監督と脚本家の天願大介氏と一緒にオーディオ・コメンタリーに参加したアメリカ版の『オーディション』のブルーレイのサンプルが届いたので、見せたところ「欲しい」と真顔で懇願されたので、本当に好きなんだなと実感した次第。
三池監督は、なんとグラミー賞受賞のイギリスが誇るポップスター、チャーリXCXが主演とプロデュースを務める、タイトル不明の映画でタッグを組むことが今年4月に発表された。内容はベールに包まれたままだが、チャーリXCXはホラー映画『ジャンク 死と惨劇』(78)のリメイク版に出演するとも言われているので、この作品がホラーの可能性は十分にある。続報を待ちたい。
2010年代には、梅沢壮一監督の『血を吸う粘土』(17)がトロント国際映画祭やアメリカのファンタスティック・フェス、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭など世界中の映画祭で上映され話題を呼び、続編も製作された。
その後も、日本ではJホラーを牽引した監督たちが続々と新作を撮り続け、新しい才能も誕生するなどコンスタントにホラー映画は製作されているが、2000年代初頭のようなインパクトは残せないでいる。しかし、今後も世界を驚かせるような日本発のホラーは必ず生まれるはずだし、世界的に国際共同製作の作品も増加傾向にあるので、言語の壁を乗り越えて、海外を舞台にした日本人監督のホラー映画も作られるのではないだろうか。
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映画評論家として20年以上活動。数々の映画媒体や映画関連書籍、映画パンフレットに寄稿。A24やNEONのジャンル映画の徹底解析でも知られる。監督作にシッチェス映画祭で上映された『BEYOND BLOOD』(18)や全州国際映画祭で絶賛された『RAMEN FEVER』(21)がある。最新ドキュメンタリー映画が完成間近。現在は初の劇映画を海外で企画開発中。