エナジー沸騰、早稲田学祭! 数多の出店に驚嘆しつつ、階段を上りフェス会場へ〈徳井健太の菩薩目線第263回〉
“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第263回目は、学際について、独自の梵鐘を鳴らす――。
きっかけは、うちの奥さんの「学祭を見たことがない」という一言だった。
学祭と聞くと、賑やかで若い人たち特有のエナジーが凝縮しているイメージを抱く人が多いのではないかと思う。僕と奥さんはそういった爆発寸前のエナジーに触れるのが大好きだから、「学祭はぴったりだろう」ということで、ある大学の学祭を訪れることにした。
エナジーの根幹にあるものってなんだろう。20歳前後であればモテなかったり、いまいち自分をブチ破れなかったり、そんな鬱屈した、決して明るくはないふつふつとした感情も混ざ合わさっているのではないでしょうか。僕もそうだった。
その半面、盛り上げてやろう、弾けてやろうみたいな中二病に近い‟いきり”もあって。それをしたからといって何かになるわけじゃないんだけど、意味のないことに夢中になることで、言いようのないエナジーが爆発する。青春が炸裂する。
学祭は、その見本市みたいなものだ。だけど、僕らが訪れた学祭は違った。出店で出しているものは、‟その辺で買ってきました”といった代物だったし、観衆を前にして演奏するバンドもヘラヘラしながらパフォーマンスをしていた。はっきり言って、行かなきゃよかったと思うくらいエナジーがなくて、拍子抜けした。
奥さんは初めて学祭の雰囲気を目の当たりにしたからなのか、それなりに楽しかったという。でも、僕は「こんなもんじゃないんだ」と訴えた。学祭が持つ雰囲気は、もっとほとばしるものがあって、こちらの肌をヒリつかせるようなヤバさがある。だから、僕は「1年後、また学祭シーズンが来たら、もう一回行こう」と約束した。
あれから一年が経った。僕が選んだのは、早稲田大学の学祭だった。
明確な理由はない。何となく早稲田には、正と負、どちらのかたまりもあるように感じて、ここなら学祭が持つ本来の姿を見せてくれるのではないかと勝手に期待しただけ。そう、僕が勝手に期待しただけなのに、早稲田の学祭は圧倒的だった。
早稲田駅を降り、早稲田大学に向かう導線から本気だ。人がごった返し、道中では「学祭をやってます」とビラを配る学生たちが大声で叫ぶ。学生運動ってまだ終わっていなかったのか? 高揚感を覚えた。
構内に入ると、あらゆるサークル、ゼミがお店を出していて、メニューも個性的で独創的。出店の数は100じゃきかない。パンフレットをめくると、早稲田OBOGがたくさん登場するらしく、学祭が「祭り」であることを物語っていた。
でも、どういうわけか音楽だけが聞こえてこない。軽音サークルをはじめ、学祭でのバンド演奏は花形イベントの一つのはず。不思議に思い調べると、ある校舎の2階の教室でやっていることがわかった。
その校舎へ行く途中には、自作のヒーローショーまでやっていた。これだよ、これ。この闇鍋のような、素材同士がぶつかり、化学反応が起きようが起きなかろうがお構いなしの雰囲気こそ学祭なんだ。
古い校舎だから、エレベーターはなく、僕らは階段で2階に上がった。階段を一歩上がるたびに、向こうの方から段々と音楽が聞こえてくる。普通だったらステージを設営して、目立つ場所でやりそうなものなのに、早稲田はひっそりと、校舎の2階で音を楽しんでいる。好きな人だけ来てください。そんな雰囲気が廊下には漂っていた。
音が聞こえる教室に入ろうとすると、案内係の学生が「ここは出入り口じゃないので、あちらから回ってください」と教えてくれた。僕らは、ぐるりと回って、入り口とおぼしき扉をくぐる。すると、先ほど聞こえていた音楽とは違う――案内される前に僕らが入ろうとしたときは、ボカロっぽい曲が演奏されていたはずなのに、今僕らが入った教室はいかにもバンドっぽい演奏が流れている。どういうことだろう。一度退室し、教室を確認すると、このフロアでは7つのバンドサークルが、それぞれの教室で演奏しているということがわかった。自分の趣味や感覚に合わせて7つの教室を行き来する。早稲田の学祭には、小さなフジロックが存在していたのです。あのヒドい学祭から一年。エナジーを喰らうには、またとない機会を僕らは得た。(後編へ続く)
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw
講演依頼:https://www.speakers.jp/speaker/tokui-kenta/
https://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-19533.htm
https://youtu.be/VqKYn26Q2-o?si=M7p7KLIyjLBrgIk0

