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イージス・アショア配備計画「撤回」の意義(上)【長島昭久のリアリズム】

2020.07.13 Vol.731

 去る6月15日、河野太郎防衛大臣がイージス・アショア(以下AA)配備計画の停止を発表し、官民を問わず安全保障に関わる人々の間に衝撃が走りました。計画の停止は、その後、河野大臣から国家安全保障会議に報告され、「事実上の中止」となりました。今回と次回の二回に分けて、その意義について考察します。

 まず、河野防衛大臣が発表したAA断念の理由「迎撃ミサイルのブースターの落下位置を制御するのに莫大なコストがかかる云々」は、決定的なものでないはずです。(核弾頭を搭載しているかもしれない)ミサイルの確実な迎撃とブースターの落下地点の制御とを天秤にかけるが如き議論はあまりにもバランスを失しているといわねばなりません。

 それでは、「河野決断」の真の理由は何なのでしょうか。私は、少なくとも3点あり、いずれも我が国の安全保障にとって意義ある決断だったことを示すものと考えます。第一に、配備計画中のAAが現実の脅威に対応し得るものでなかったこと。それは、たしかに配備計画を策定した2016-17年の北朝鮮のミサイル脅威に対応し得る「弾道ミサイル防衛(BMD)」能力を備えていました。しかし、その後、北朝鮮は新たなミサイルを発射し、その驚異的な技術力を世界に誇示しました。それが、2019-20年に発射された変則軌道のミサイルで、もはや放物線を描く(したがって、飛翔コースを推計して迎撃ミサイルを衝突させ得る)従来型の弾道ミサイルとは似て非なるものでした。弾道ミサイルのみならず巡航ミサイルやこのような変則軌道のミサイルに対処するには、BMDではなく凡ゆる経空脅威に対応し得る「統合防空ミサイル防衛(IAMD)システム」を導入せねばなりません。北朝鮮のみならず、将来的には中国やロシアによる、より高度なミサイル脅威に対応し得る体制を整備せねばならないことを考えると、今回の方針転換はむしろ歓迎すべきことといえます。

 第二は、我が国の安全保障の根幹にかかわる問題です。今回の「河野決断」をきっかけに、「抑止力とは何か」という本質論に注目が集まっています。これまでのような防御に徹する姿勢だけで本当に国民の命や平和な暮らしを守り抜けるのか、という本質的な問いです。普通の国は、攻撃と防御を組み合わせて抑止力を構築しています。しかし、日本では憲法(解釈)に由来する「専守防衛」という特異な考え方に基づき、打撃力の保有を自制してきました。しかし、相手国のミサイル脅威の質が劇的に向上して、探知も追尾も迎撃も困難になってきた今、防御に加えて「反撃力」も使って相手国の攻撃を抑止する必要があるのではないか、という至極まっとうな議論が起こりつつあります。これは、紛れもなく戦後の安全保障戦略を根本から転換するものといえます。(次回に続く)

 (衆議院議員 長島昭久)

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