“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第270回目は、渡辺直美の東京ドーム単独公演について、独自の梵鐘を鳴らす――。
去る2月11日、直美がピン芸人として史上初となる東京ドーム単独公演「渡辺直美 (20) in 東京ドーム」を開催し、超満員の4万5000人を動員した。しかも、当日何が行われるかは非公開。それにもかかわらず、VIPうにょ席(アリーナ最前列)100000円、通常指定席12000円、追加販売された注釈付きS席12000円は瞬く間に売れ、配信チケット4000円も飛ぶ鳥を落とす勢いだったという。
第267回『菩薩目線』、「主催に才能やカリスマ性、責任感と話題性があれば、お笑いでも音楽でも福袋的ライブは成功するはず」でも触れたように、僕はカリスマが主催するライブであれば、たとえシークレットでもチケットは売れるし、お客さんは必ずついてくるものだと思っている。直美はそれを証明し、ライブの可能性が無限であることを教えてくれたような気がした。なにより、素直に僕は彼女のパフォーマンスに感動した。
ありがたいことに、僕たち平成ノブシコブシは、『ピカルの定理』仲間ということで、彼女の公演にゲストとして参加させてもらった。コント、音楽、ミュージカルを交えた直美にしかできないステージを間近で見ていて、冗談抜きで「これ以上のライブってあるのかな」と思ってしまった。きっと彼女は謙遜して、「もっとすごいのありますから!」って笑うんだろうけど、その余韻はすさまじく、家に帰った後も、「あれを越える空間ってあるんだろうか……サザンのライブとか?」なんて具合に妄想し続けた。
音楽やお笑いやスポーツの世界は、興奮、熱狂を生む。だけど、音楽のライブを観に行って、腹を抱えて笑うことはないと思うし、お笑いを観に行って全員が「Don’t look back in anger」を歌うような瞬間はやってこない。スポーツも熱狂こそ生むけど、スポーツ‟ならでは”の感動に包まれる。音楽は音楽で、お笑いはお笑いで、スポーツはスポーツで、それぞれ独立した喜びや面白さがある。
だけど直美のライブは、もう全部が詰まっていた(ように僕には思えた)。音楽的な熱狂、お笑い的な面白さ、スポーツ的な興奮――きっと彼女は、「これをやってほしい」というファンの願いを120%で返すから、異常なハッピー空間を作り出せるのだと思う。‟歩くコールアンドレスポンス”。ミュージシャン属性を持つからなんだろうな。芸人の多くは、人を笑わせたいとは思うけど、「ハッピーにさせたい」「笑顔にさせたい」とは思わないから。
直美の芸風は、分かりやすい発明品があるわけじゃない。人の曲で踊って、人の歌を勝手に歌う。だけど、お客さんはともに楽しそうに歌って、笑って、熱狂する。これは、直美自体にとんでもないアイデンティティがあるからこそ成立するわけであって、俗っぽい言い方をすれば‟職業・渡辺直美”だからだろう。実際、ライブを終えた直美をバックヤードで待っていると、レディ・ガガの格好をしていた彼女は、レディ・ガガ以上の‟何か”に見えた。パロディでもものまねでもなく、それらを飲み込んでしまう直美の底のなさを見たというか。
だけど、近寄りがたい雰囲気はなく、何も変わらない。昔から天真爛漫さは抜群だったし、びっくりするくらい‟弱み”を見せるのも変わらない。もしかしたら、それはウソかもしれないし、単にメンヘラ気質なだけかもしれないけど、「もうダメだ」とか「もう終わりだ」とか、まぁよく弱音を吐く。それを聞く度に、僕たちは「いや、全然ダメじゃないから」とレスポンスするんだけど、弱音さえもコールアンドレスポンスとして成立させてしまうんだから、なんて華々しいんだろう――直美がみんなを魅了してやまない要因だと思う。
ゲストとはいえ、ほんの一瞬でも彼女の伝説に関われたことができてうれしかった。直美のことだから、また近いうちに僕らをアッと驚かせてくれるんだろうな。大爆笑を生むことができる人はいるけど、あの空間を作り出せる人は、やっぱり僕はいないと思う。

