社会コラム 鈴木寛の「2020年への篤行録」 

第一回 「新しい公共」の開拓余地
 今回の記事からタイトルを変更しました。政治の世界から距離を置いたのを機に、社会コラムに視点をシフトします。タイトルの「篤行録(とくこうろく)」は、私が好きな古代中国の「中庸」に書かれた文章「博学之、審門之、慎思之、明弁之、篤行之」から名付けました。博学を机上の空論に終わらせず、それを篤く実行する、まさに真心をこめてやり遂げるところまで、しっかりとしたプロセスをまっとうすることが大事という意味です。五輪が開かれる2020年を変革の節目に、21世紀の日本や東京の社会をどう変革していくかその筋道を色々書いていきたいと思っています。

 本コラムの重要な論点の一つがソーシャルプロデュースです。子育て支援、復興支援、キャリア教育、クラウドファンディング、地場産業の活性化……慶応SFC助教授時代から送り出した多くの教え子がおかげさまで社会起業家として活躍中です。

 彼らは、役所では担い切れない、公共的な財・サービスの提供をしています。いわゆる「新しい公共」の担い手です。ただ、福祉や教育の分野が目立つ中で、ほぼ手付かずの領域も残されています。それはメディアです。公共性が高い割に、既存メディアがその商業性故に視聴率や販売部数につながる情報を優先しがちです。広告収入が主体の民間放送ならばスポンサーの顔色も窺わざるを得ないという構造的な問題もあります。そうしたことで、生活者の視点で大事なことが抜け落ちる。選挙報道で憲法や経済政策などが三大争点として取り上げられるのに、教育や社会保障のような地味でも生活に直結する問題が後回しになっていることがよくあります。

 今年に入り、NHKを退社された堀潤さんが市民メディアの動画サイトを起業し、NPO法人として運営を始めました。役所や企業発の「上」からの情報ではなく、生活者が「下」からもたらす情報にプロのジャーナリストの見識を組み合わせて発信する試みです。堀さんのような動きが増えるよう私としても研究・発信していきたいと思います。

(情報社会学者、元文部科学副大臣・前参議院議員)