インタビュー「キマグレンという光」

体から湧き上がってきた新曲『蛍灯』

キマグレンが20日、ニューシングル『蛍灯』をリリースする。この曲は、東日本大震災を受けて生まれた楽曲。生まれ育った逗子とその海を愛する彼らが、脅威となり大きな悲しみを生んだ海を見て、自然と自分自身の体の内側から湧き上がってきた曲だという。キマグレンのKUREIとISEKIが語る。

今日がだめでも明日がある、今年がだめでも来年がある。
そう思っていけば、きっと元気に笑っていられる。

ph_show0500.jpg

撮影・蔦野裕

 梅雨が終わりを告げて本格的な夏に突入した週末、逗子海岸にキマグレンの2人を訪ねた。ここで2人はライブハウス「音霊 OTODAMA SEA STUDIO」を運営する。土曜日の午前10時とはいえ、砂浜にいる人はまばらだ。例年に比べてお客さんが少ないのだという。「だから、盛り上げていきたいなって思っていますよ」。2人の表情は明るい。

 20日にリリースする新曲『蛍灯』は、2人の笑顔に似て、明るく軽快で楽しい気分になれる曲。でもいざじっくりと歌詞に向き合うと実はそうでもなかったりする。この曲は、東日本大震災がきっかけで生まれた。

KUREI「3.11を受けて、とにかく何かしなくちゃと思ってブログをたくさんアップするなかで、自然な流れで詞を書いて。何か伝えたいと思って書いたというよりは、自分が感じたことそのままの詞なんですけど、それが曲の元になっています。書いた時は逗子も停電で、暗やみのなかでこれからどうなるのかって不安も感じていましたけど、翌日朝が来ると、当たり前なんですけど明るくなるんですよ。それを体感したときに、長いスパンで見れば、今日がだめでも明日があるし、今年がだめでも来年がある。そう思っていけば、きっと元気に笑っていられるんじゃないかなって。そのメッセージを込めました」

 その時点では、一遍の詞にしか過ぎなかったKUREIの想い。それを見てISEKIは、自然な流れでメロディーをつけた。

ISEKI「僕はKUREIから自然に出てきたものを人に伝えたいって思ったんです。当時、僕も僕らにできることを考えていて、やっぱり歌を歌うこと曲を作ることしかないなって思ったのもあるんですけど、それって必然というかやらなきゃいけなかったことだったと思うんです」

 震災発生直後に多くの人を癒した音楽といえば、アニメソングもあったが、主流はクラシック音楽やバラードといった癒し系。しかしキマグレンはその流れに寄っていくようなことはしなかった。新曲『蛍灯』は、タイトルこそしっとりとした風合いを醸し出すが、曲調はスカっと晴れた青空やキラキラと輝く海が似合う爽快な作品、言い替えるならキマグレンらしい楽曲に仕上げている。

ISEKI「最初からアップテンポな楽曲を考えていました。僕らがしたいことって、聞いてくれる方みんなに元気になってもらえるような、明日からまた頑張ろうって思えるような曲を届けること。だからこの曲は、聞くにあたってはさらっと聞けるものであってほしくて。ただ、“聴く”ときにはなんだか分からないけど元気になるんだよねっていう気持ちになれる作品になってくれたら、そういう意識で臨みました」

 曲が生まれたきっかけがきっかけだけに、曲を完成に持っていく過程で、自らにも変化を与えたのではないかと尋ねると、「この曲がというよりは、自分たちが感じていた変化が、この曲で色濃く出たということじゃないか」と、KUREI。

KUREI「僕に関して言うと、最近、ラップすることよりも歌うことに近づいてきているんです。自分が求めているものや誰かが聞きたいものを作るんじゃなくて、曲が求めているものを表現したいってことなのかな……。だから、この曲ではずいぶん言葉を削っています。少ない言葉で同じことが伝えられたらとか、よりいいことを伝えられたらとか、余白でいろんなこと感じてもらえたらいいなっていう部分でこれまでとは違ったアプローチを考えていかなければいけなくて、結果としていい勉強になりました。ただ、もうラップしないというんじゃないですよ。カップリングの『バケットリスト』がいい例で、この曲ではいいたいことは全部、ディテールまで言っている。いつか狙って手法を使い分けられるようになったらいいんだけど。今はまだ、曲でありメロディーに呼ばれる状況なので」

 新曲を届けてくれる一方で、2人は目下、新しいアルバムに向けて、制作を続けている。「ザ・キマグレンというサウンドがさらに進化したアルバムになりそう」と、ISEKIは目を輝かせる。

 音楽を始めてから、徹底的にリアルにこだわり、そのときそのときの自分自身にフィットした楽曲を世に送り出してきた彼ら。デビュー5周年を来年に控え、さらなる飛躍が期待できそうだ。

ISEKI「3.11があって、作品にしてもライブにしても自分たちはもっとやれるって思うようになりましけど、やっぱりいい曲、いいライブじゃないとだめだっていうのも再確認しました。自分が覚悟をしっかりもたないと人には伝わらないし、何よりも自分自身に納得できない。納得できない曲は人にも伝わらないでしょ」

KUREI「ライブに関しても楽曲に関しても記憶に残るものにしていかないとね。そのために詞を書いているわけじゃないけど、そういう曲になれるようにという気持ちで臨みたいですね」

(本紙・酒井紫野)

ph_show0501.jpg

New Release Single『蛍灯』

冒頭から光に満ちた明るい楽曲で夏にぴったりなアップテンポな楽曲。心地よく聞ける一方で、じっくりと言葉の一つひとつを“聴き”かみしめられる曲でもあり、厚みのある作品。さまざまなシーンに似合う。キマグレンが初めて出演することになったHotto Mottoの「夏弁」CM曲でもある。ユニバーサルシグマより7月20日発売。1000円(税込)。作品の詳細およびキマグレンの近況はウェブサイト(http://www.kimaguren.com/)で。


※初掲出時にタイトルに誤りがありました。アーティストおよび関係者の皆様、読者の皆様にはご迷惑をおかけしました。