酔って語ってつぶれて眠る…オヤジの寝言

 酒場エッセイの第一人者といわれるなぎら健壱の最新エッセイ。同書は東京スポーツ新聞に現在も連載している「オヤジの寝言」を一冊にまとめた全75編からなるエッセイ集。「寝言なる言葉は便利であって、寝言に罪はない。“そんなこと言ったって、寝言だから覚えてないよ”。あるいは“あたしがそんなこと言ったの?まあ、寝言だから勘弁してくれよ”で済まされる」ということらしい。しかし、書籍化するにあたり、タイトルが“たわごと”になったため、逃げ道を作るために“酒場”をつけて、酒を飲んでのお喋りということになったとのこと。そこで再び「酒場でのおしゃべりは楽しい。酒の力を借りての世迷言だからして、一層楽しい。酒の力を借りているもので、話そのものや、脈絡などに対しても責任がないから楽しいのである。たわごとを漢字にすると戯言である。要するに、戯れ話ってことですな」だそう。そんな責任のないたわごとだが、なぎらが発する言葉は時に名言となり、読む者の心にしみわたる。曰く、「博才がある人間とは、引き際を見極めることができる人間のことである」「ゲンナマって言うでしょ。要するにね、お金ってのはナマモノなのよ。ナマモノだから金は貯めると腐るんだよ」など。たわごとなのだから何を言ってもいい。うんちく、芸能界のあるある、世の不条理などをさらっと軽妙な言葉で綴っていく。読んで楽しい気楽なエッセイだが、そこにキラリと光る真実が読み取れる。と思わせて、なんとなく酒場に行って、どうでもいい話=戯言をオヤジ相手に語りたくなる、肩の力が抜けた、なぎら節満載の一冊。



【定価】本体1200円(税別)【発行】実業之日本社