真実の奇跡は“その後”に明かされた…! 映画『ハドソン川の奇跡』

【SPECIAL INTERVIEW】アーロン・エッカート

 巨匠クリント・イーストウッド監督がトム・ハンクスを主演に迎えて描く最新作は、世界を感動させたあの奇跡の知られざる物語! トム演じる機長“サリー”とともに、難局に立ち向かった副機長を好演するのは『ダークナイト』シリーズのアーロン・エッカート。来日インタビューで明かした、アーロンの“極限体験”とは!?

撮影・上岸卓史

「僕も事故当時にニュースを見て知っていたからね。何か劇的なことが起きたからといって、何でもハリウッドで映画になるというわけではないけど、今回の映画化はすごく良いアイデアだったと思う。何しろ多くの人が知らずにいた、その後の事実が描かれているから」

 本作は、2009年にNY上空で全エンジンが停止したUSエアウェイズ1549便をハドソン川に不時着水させ、一人の犠牲者も出さず生還させたチェズレイ・サレンバーガー(サリー)機長の実話が元になっている。しかしイーストウッド監督は生還劇をただ再現するよりも、その奇跡を起こした英雄が事故後に疑惑の対象となっていた事実に注目した。

「実は僕も、この映画に出ることになるまで、事故後に機長たちに起きたことをまるで知らなかったんだ。155人の命を救った英雄たちが国家運輸安全委員会(NTSB)によって厳しい調査や追求を受けていたなんてね。調査の行方しだいでは彼らのミスによって事故が起こったと結論付けられる可能性もあった。もし彼らのミスと断定されたとしたら、もう彼らは二度と航空機を飛ばすことはできないし、会社からの年金も失ってしまう。僕だけでなく、おそらくほとんどのアメリカ人が知らなかったんじゃないかな。ハドソン川で何が起きたかをみんな知っていて映画を見に来たのに、映画を見て初めて知ることに驚いて、より感動してくれる人はとても多いよ」

 一般の人々やメディアから英雄と騒がれる一方で、事故調査で浮かび上がったデータにより、調査委員会から疑惑の目を向けられてしまうサリーたち。

「考えてみれば、あれだけ重大な事故が発生すれば航空会社や当局、保険会社だって徹底的に調査するものだ。なんたって6000万ドルの飛行機が川に落ちてしまったんだからね。酒とか睡眠不足、私生活の影響でコンディションを落としていなかったかということも調べられる。僕ら利用者の安全のためにも、徹底的な調査というのは理にかなったことだと思うよ」

 アーロンが演じるのは、サリーの頼もしい補佐役、ジェフ・スカイルズ副機長。演じるにあたって、トムとともに、サリーやジェフ本人から話を聞いたという。

「僕がまず彼らに質問したのは、2つのエンジンが止まったと知った瞬間はどんな感じで、何を考えたか、ってこと。サリーは、まったくこの状況と関係ないことが一瞬頭に浮かんだと言っていたよ。脳がパニックを回避しようとしたんだろうね。だけど、そんな極限状態に陥った時に、彼らは冷静に正しい行動をとることができた。実際に事故発生当時の音声を聞いたんだけど、2人の声に余計な感情が一切感じられなかったのは驚きだったね。サリーがしなければならなかったタスクを想像してみてほしい。エンジンが2つとも止まった状態で操縦をしながら、管制塔とやりとりをし、ジェフの声も聞き、外の状況も視認し、もちろん自分の状態もコントロールしなきゃいけない。パニくってなんかいられないんだ。あのときは、いつもやっている計算すら大変だったと言っていた。速度や角度から不時着までの距離や時間を計算するのも、いつもなら簡単にできるのに、難しく感じたとね。ジェフは、自分がやらなきゃいけないことに集中するあまり、他のことを考える余地が無かったと言っていたね。でも自信を持って操縦できると確信していたそうだ。後になってから、食欲が無くなったり夜も寝られなくなったりといったPTSDの症状が出てきたそうだよ」

 ちなみにアーロン自身が極限状態を体験したことは?

「僕は自転車が趣味であちこち走るんだけど、車とぶつかったことがあるよ(笑)。そういう瞬間、不思議と体が勝手に防御態勢を取るんだね。11歳のときにレイクタホで60フィートの高さの崖から落ちたことがあるんだけど、さすがにショックのためか全く何も覚えていない。落ちた瞬間のことも、両親が枝で担架を作って僕を運んだこともね」

 そんな経験もあるアーロンだけに、極限状態にもプロとして行動し続けた2人の姿に胸が熱くなったと語る。

「起きたことそのままを冷静に演じようと思った。でもそうしようとすると、さらに彼らに驚かされることになったよ。あの時、飛行機は街を歩く人々の真上を飛んでいた。もし最寄りの飛行場にたどり着く前に落ちたら大惨事となっていただろう。こんな状況でもパイロットは冷静に自分がすべきことに集中できるんだ。管制官が機長にラガーディア空港に向かうかと質問するとサリーは一言“できない”。余計なことは一切無し。まさにプロフェッショナルだよ。ジェフは、後から何度も考えたけどあのときとまったく同じ行動をとると言っていた。ただ、次はもっと怖がらずにできるだろうけど、って(笑)。彼は今でもパイロットとして空を飛んでいるよ。今では機長だけどね。この映画を通して、パイロットや客室乗務員たちに対して今まで以上に尊敬を感じるようになった。出社して操縦席に座り目的地に着く。それが彼らの日常だ。でも突然、ニューヨークの街の上、3000フィートの上空でエンジンが2つとも不能に陥るという誰も予見できないことが起きたとき、彼らは完璧に対処した。自分の仕事を完全に理解し、日ごろから訓練を積み重ね、不測の事態に備える。それが彼らがプロフェッショナルたるゆえんだ。この物語の素晴らしいところはサリーやジェフ、他の客室乗務員たち、そして事故後に駆け付けたフェリーやNY市警といった人々が、非常事態にもプロとして完璧な仕事をやってのけたってことなんだ。それによって155人の乗客の命を一人も欠けずに救うことができた。この映画は、僕らの社会を信じることができると感じさせてくれる。だからこれほど素晴らしい物語になったんだと思う。僕も、これまで以上に安心感を持って、快適に飛行機に乗ることができているよ(笑)」

 ハリウッド有数の仕事人たちが、プロの心意気を示したオススメの一本。
(THL・秋吉布由子)

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『ハドソン川の奇跡』

監督:クリント・イーストウッド  出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー他/1時間36分/ワーナー・ブラザース映画配給/丸の内ピカデリー他にて公開中  http://wwws.warnerbros.co.jp/hudson-kiseki/