「五輪のエンブレムにやられました」 陣内貴美子が語る1992バルセロナ五輪と2020東京五輪【Be Style】



 バドミントンが、オリンピックの正式種目として初めて採用された1992年バルセロナオリンピック。陣内さんは、代表選手としてコートの上に立っていた。

 「五輪のエンブレムにやられました」。

 結果は9位。「入賞も叶わなかった」と、苦笑交じりで振り返る。

 「各国の代表は、いつも戦っていた相手ですから真新しさはなかったです。でも、みんなが舞い上がっていた。普通だったら、コートに入ると緊張が和らいでいく。ウォーミングアップをする中で、ライトの位置や空調の向きなどを把握して、試合開始に備えるのですが、五輪のエンブレムを見るや、まったく情報が入ってこなかった。隣のコートでは、当時の世界チャンピオンがウォーミングアップをしていたのですが、手元が震えていました。「みんな、震えているんだ」って思えばよかったのに、私は逆に緊張してしまった(笑)。最初で最後のオリンピックでしたけど、今も鮮明に覚えています」

 陣内さんの故郷・熊本は、国内指折りのバドミントンが盛んな地域だという。現在、女子ダブルス世界ランキング2位(2019年5月時点)のフクヒロペア(福島由紀選手・廣田彩花選手)も熊本出身。「男の子は野球、女の子はバドミントンというくらい競技人口が多いんです」。小学校4年生、10歳のときに、陣内さんはバドミントンと出会った。

 「結果を出すにつれバドミントンにのめり込んでいきました。16歳で代表選手に選ばれるなどやりがいを感じる一方で、当時はバドミントンはオリンピック競技ではありませんでした。何のために厳しい練習をしているのか悩んだ時期もありました」

  国内屈指のトッププレイヤーになった。バドミントンが、バルセロナ五輪で正式種目になることも決まった。だが、度重なるケガもあって、1990年、26歳のときに、陣内さんは引退を決意する。2年先のことを考える余裕はなかったと話す。

ポーカーフェイスでいないと精神が保てなかった



 「“お前はいいよな。俺たちの時代はオリンピックに出たくても出れなかった。可能性があるなら続けてみないか”。当時のコーチから言われた言葉でした。その言葉を受けて、4つのことを考えました。「後悔はないか」、「引退後、他の選手を素直に応援できるか」、「2年先まで体力が持つか」、「トッププレイヤーとして精神力を保ち続けることができるか」……」

 3カ月後、陣内さんは“続行”という判断を選ぶ。「アマチュア競技の人間にとって、オリンピックは最高の舞台。やっぱり出てみたかった」。しかし、現実は甘くはない。正式種目として採用されたことで、バドミントンのレベルは飛躍的に向上する。今まで以上の努力が求められた。

 「オリンピックは、誰もが出たいと願います。そこに向けて尋常じゃない熱量が生まれる。コーチからは、「20歳のときの精神状態に戻せ」と言われました。それくらいがむしゃらにならないと、代表の切符を手にすることはできないって」

 バドミントンの代表選考は、世界ランキングで決まる。種目別の世界ランキングで、最もランクの高い人だけが代表に選ばれる。「変動するたびに気が気じゃなかった。情緒不安定でした」と、今でこそにこやかに回想するが、当時の陣内貴美子は笑わないバドミントンプレーヤーとして有名だった。「ポーカーフェイスでいないと精神が保てなかったんですね」。挑戦には、孤独が付きまとう。両親に、「パスポートを作っておいて」と伝え続けることで、自らを奮い立たせていたという。

 陣内さんから始まる日本バドミントン界のオリンピックの歴史は、その後、小椋久美子、潮田玲子のオグシオペアの登場などにより、よりポピュラー化していく。2004年に招へいし、今現在も日本代表ヘッドコーチを務める朴柱奉(パク・チュボン)氏の指導も実を結び、今やバドミントンはメダルを期待される競技にまで成長。人気と実力を兼ね備えた花形競技として、2020年を迎えようとしている。




 「今の選手たちにとってオリンピックは“でる”ものじゃなく、メダルを“とる”舞台なんです。頼もしさを感じる一方、時代の月日を否応なしに痛感します。国内のバドミントンのレベルは、本当に向上し続けているんですね。例えば、女子ダブルスの世界ランキングTOP10に、日本人ペアは4組います(2019年5月時点)。 高松ペアの上に、日本人ペアが二組もいる。この中から、一組しかオリンピックには出れません」

 だからこそ、陣内さんは自身の経験を踏まえて、「代表が決まる2020年5月まで信じられないような戦いが繰り広げられていることに、少しでも多くの方に興味を抱いてほしい」と話す。メディア活動に加え、日本バドミントン協会総務本部広報委員会委員として、バドミントンの広報・普及活動も精力的に行っている。

 「“ジャージが似合うおばあちゃんになりたい”というひそかな夢があるんです(笑)。バドミントンの魅力を伝えながら、私自身、運動をし続けてジャージが似合う素敵な60代、70代を迎えたい。運動って、“運”が“動く”って綴りますよね。
ストレッチでも構わないんです。運動をすると、きっと良いことがあると思うようにしているんですよ、私。ハハハハハ!」

  「心美人は顔美人。笑顔に勝る、化粧なし」――。陣内さんが大好きな言葉だそうだ。笑わなかった名プレイヤーは、今、太陽のように笑うことを心がけている。

【番組INFO】

アクティブオーガニック「Be」presents「BeStyle」は、TBSラジオで、毎週土曜午前5時30分~6時にオンエア。radikoでも聴取可。詳しくはHPを参照。
https://www.tbsradio.jp/be/

また、当日の模様は、以下のYoutube「Be Style」チャンネルからも視聴可能。あなたの「なりたい」が見つかるかも――。
https://www.youtube.com/channel/UCtEhEgJPGJQ9IX4y5vbmESw/featured

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