『出張!徳井の考察』で垣間見た「周りを気にすることが増えた」若手芸人の世界〈徳井健太の菩薩目線 第144回〉

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第144回目は、若手を通じて感じた表現の見解について、独自の梵鐘を鳴らす――。

徳井健太

 私徳井健太のYouTubeチャンネル『徳井の考察』。その特別版として、定期的に『出張!徳井の考察』というライブを行っている。

 出張と名がつくように、実際に気になる若手芸人と会い、あれこれと考察する。若手の考えをしっかりと聞くことができる場って、意外と少ない。それだけに、現在進行形の若手のネタや考えに触れることができるこの機会は、私徳井健太としてもたいへん刺激をいただいております。

 去る6月23日の『出張!徳井の考察』のゲストは、TEAM BANANAとバビロンだった。ここでは、TEAM BANANAについて話を進めたい(バビロン、ごめん)。

 俺は、前からTEAM BANANAの漫才が好きだ。

 当日、彼女たちが披露した漫才は、ボケの山田が、 「女って小さいカバンを持ちがちだ」と話し始め、「でも、子どもができるとそのカバンが大きくなっていく」というものだった。ネタはもちろん、その視点も面白い。感心しながら見ていた。

 山田は、自意識過剰なところがある。というか、気にしすぎるところがある。ネタの中で、「こういう男は嫌だ」「こういう女は嫌だ」ということを口にしているから、なるべくいじられないように無色透明であることを心がけているらしい。そのため、Twitterでもあまりつぶやけなくなってしまったという。服装にしても、「色のあるものは着れなくなった」と話していた。

 本人は無色透明を望むものの、Tiktokの流行りを考えると、身近なあるあるネタや「そういう人っているよね」みたいなショートネタは、むしろウケがいい。TEAM BANANAの視点は、Tiktokなんかでバズりそうな気がするんだけど、当の本人たちは及び腰だ。

「ハマりそうだから試してみたら」というと、「Tiktok の中で、すでに小さいかばんを女性が持ちがちみたいなネタをやっている人はいるんですよ」と返す。

 食い下がる俺は、「だんだん大きくなっていくっていう視点はお前たちだけだし、面白じゃん」と伝えると、「だとしてもかばんのネタをパクって、その上で大きくなるというアレンジをしたんじゃないのと思われたら……」と漏らす。ブラマヨさんのネタじゃないけど考えすぎだ。

 考えすぎだから、TEAM BANANAらしい独自の視点を持ったネタを作れるんだろうなと思う。でも、「売れたい」とか「もっと影響力を持ちたい」と考えるのなら、“イタく”なる必要がある。

 半年でも一年でもいいから、イタいボケをやり続けるつもりで、いろいろと試してみたほうがいい。(相方である)藤本にも、山田がディスるような人間をやり続けてみたらどうか――と伝えてみた。既存のケースだと、山田が嫌な人でフォローする藤本が良い人に見えてしまうから、藤本も寒くなろうが本気で“つまらない人”をやってみたらどうだろう。

 半年、一年やってみて何も手応えがなければ、また違う道を模索すればいい。

 そのときは遠慮なく、「徳井さん全然駄目だったじゃないですか」とダメ出ししてほしい。やるかやらないかはTEAM BANANA次第だけど、「売れたい」と思っているなら、何かを変えないといけない。

 彼女たちだけではなく、周りを気にするがあまり自分の表現、可能性に蓋をしてしまっている若手が少なくないように思う。もしかしたら、これはお笑い芸人だからという話ではなく、あらゆる業界における若手の現代病なのかもしれない。

 それに、言葉狩りではないけれど、表現の不寛容さも増えている。舞台上では、そのフレーズや表現が OKでも、テレビで放送するとなると、不特定多数が目にする以上不快に感じる人がいるため、「その言い回しは変えてください」とリクエストされることも珍しくない。昔よりはるかに要求は増えている。そうした不寛容さに息苦しさを感じて、テレビにでない芸人もいる。

 テレビの言うことを聞くんだったら、せめてテレビで売れる可能性が増えないと納得できないと考える若手だっているだろう。かつては、テレビで好き勝手できたから、仮にブレイクできなかったとしても妙な満足感を得ることだってできた。

 でも、今は好き勝手ができないし、本来自分たちがやりたい表現……特に芸人は言葉を扱う表現をしているから、そこにセンスや人間性などが表れやすい――、それを諸事情で変えるというのは、そのネタを見た他者から下される自分たちの評価が歪曲してしまう可能性だってある。 自分が望んでいない表現が、他人から望んでいない評価につながるなんてたまったもんじゃない。

 売れるためには、ひっくるめなきゃいけないものが増えてしまった若手芸人の世界。かくも複雑な心情が渦巻いている。

 

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw