愛が責任を育てる。WBC栗山監督の手紙を、ひな壇に座るすべての若手芸人が欲している〈徳井健太の菩薩目線 第167回〉

徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第167回目は、WBCの侍ジャパンについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 人並みでしか野球を見ない私徳井健太も、大いに手に汗握り、夢中になってしまいました。WBC日本代表「侍ジャパン」の皆さま、優勝おめでとうございます。

 大会が終了しても、今なおさまざまなメディアで野球関連のニュースが取り上げられている。あれだけWBCが盛り上がったのだから納得ですよね。

 そんな中、栗山英樹監督が「侍ジャパン」に招集した選手全員に、自筆の手紙を手渡していたというニュースを知った。「あなたを招集したのはこういう理由からです」「あなたを起用したい場面はこういう瞬間です」。選手に寄り添う愛情あふれる栗山監督らしい手紙だったと聞く。

 招集されたものの、試合に出場しない選手もいた。「結局、出番なかったじゃん」なんて軽々しく言葉にするのは簡単だ。だけど、その選手も愛が詰まった手紙をもらっている。きっと、穿つように試合に集中していただろうし、自分が出場する一瞬のために準備していたんだろうなと思う。

 もし仮に、手紙がなければ、選手自身も「どうせ俺は使われないんでしょ」なんて高をくくって、試合に対する集中力だって散漫になっていたかもしれない。すべて俺の妄想だけど、きっとそうだっただろうなって。なぜか?

 バラエティの現場にも、栗山監督からの手紙が届けばいいのに――。そんなことを思ったからだ。

 若手時代、どうして自分がバラエティ番組に呼ばれるのか、いまいち理解できなかった。もちろん、芸人として「その場を盛り上げてほしい」ということなんだろうけど、星の数ほどいる若手芸人の中からどうして自分が選ばれたのか、なぜ限りある出演者の枠に自分がいるのか、わからなかった。考えれば考えるほど「?」になるし、プレッシャーを感じるので、なるべく自発的に考えないようにしていた。

「盛り上げてくださいね」って指示は、先の野球でたとえるなら、「いいプレーをしてくださいね」ということ。それは前提として当たり前。知りたいのは、もう少し深いところ。どうして自分が選ばれたのか、その理由が嘘でもいいから欲しかった。

 「言わせるな。感じろ」ということなんだろうけど、若手からすれば、その一回が最後の一回になるかもしれない。「好き勝手やっていいよ」とざっくり掛けられた言葉を信じて、「好き勝手やった」ことで再起不能になったら、どうするのさ。「感じろ」だけじゃ、もう伝わらない時代です。

 平成ノブシコブシが呼ばれるとき、相方・吉村が呼ばれるのはなんとなくわかる。過去、俺は「そのバーターみたいになっているんじゃないか」とマイナスに感じていたこともあった。でも、嘘でもいいから「徳井を呼んだのはバーターじゃなくて、〇〇に期待しているから」という手紙をもらっていたら、集中力やモチベーションを高くして、現場に臨めていただろうなって。

「今日はアイドルさんが出演するので、スベる可能性があります。そのときに徳井さんが率先してアイドルさんのフォローをしてあげてください」――そんな手紙が届いていたら、アイドルに詳しい俺にしかできない自分の役割、求められているシーンは明確になる。アイドルがスベったら、 俺は1塁ベースからホームにサヨナラ帰還した周東佑京選手のように、その瞬間のためだけに、全身全霊をかけさせていただく。

 ひな壇に座っている若手芸人は手紙がほしいと思う。

 バラエティだけに言えることじゃなくて、社会そのものにも言えるのではないでしょうか。チームプレーを必要とするような作業や環境においては、指揮を振るうディレクター的ポジションは、それが手紙か何かはわからないけど、栗山監督的なメッセージを伝えた方が、間違いなく円滑に物事が進んでいくような気がする。やっぱり「愛」なんだと思う。しゃらくさいけど愛があるかどうか。

 子どもの頃、よくわからないまま「〇〇係」 というものを任されていた。なんとなくクラスで決めたことだから、そこに責任感なんてありません。ましてや子ども。だけど――。

 もしも、栗山監督から「徳井君はきっちりと物事を守ることができる子だから、クラスの電気を点けたり消したりすることが得意だと思う。君の誠実さが、教室のルクスを決めるんだ。君はでんき係の才能がある」と手紙を受け取ったら、俺は誰よりも率先して電気のオンオフをしていたと思う。

 責任は愛が育てるものなんだよね。責任のない現場は、愛がないってことなんです。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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