「東京で生きる一人ひとりを肯定したい」海外拠点の日本人監督が世界に伝えたいTOKYO人間賛歌!

【映画『『TOKYO, I LOVE YOU』中島央監督インタビュー】

「黒澤明しかりウォン・カーウァイしかり“アジア人”でくくられない映画監督たちにあやかって、僕もグラサンをトレードマークにしているんです(笑)」と語る中島央(なかじま ひろし)監督。アメリカを拠点に映画制作を行う中島監督が日本で初の商業映画で描いたのは出身地“東京”を舞台にした物語。10代から海外で暮らしてきた中島央監督が、いま世界に向けて東京愛を叫ぶ理由とは?

 

 東京を舞台に、恋人、親子、親友たちの3つの愛を描く、公開中の映画『TOKYO,I LOVE YOU』。手がけた中島監督は「ずっと東京を描きたかった」と語る。

「僕は東京生まれ東京育ちなんですが、もう15~6年、海外暮らしをしているせいか東京にずっと住んでいる人よりも、俄然、東京愛が強いと思います(笑)。アメリカで映画を作りながらも漠然と、東京を描く映画を撮りたいなとずっと思っていました。パリだったら『パリ、ジュテーム』(2006)、NYは『ニューヨーク、アイラブユー』(2010)という映画があるでしょう。あれがすごくうらやましくて。“オレらのパリって素敵だろ? NYってかっこいいだろ?”って、映画から大きく自慢するような声が聞こえてくるような感覚で、自分たちが暮らす街への愛がすごく伝わってくるんですよね。でも、あんな感じで“東京、最高!”と叫ぶような映画ってあまりないんですよね。そんな映画があったら、ぜひ、見てみたい!とずっと思ってたし、でも誰も作らないし…という感じで年月が過ぎていき…(笑)。だったら、もうここらで僕が東京版を自分で作るしかないな、と思って(笑)。そういった意味で、今作はもうとにかく僕にとって念願の企画であり、長年の間ずっと作りたかった!と夢見ていた映画である事は間違いないですね」

 東京人の視点と海外を拠点にする映画人としての視点。その2つを持ち合わせる中島央監督ならではのバランス感覚が、共感と再発見の新鮮さをもたらしてくれる。

「まず、東京のいろいろな街を描きながらも街を主題にしないということは意識していました。場所をフィーチャーしてしまうと観光ビデオみたいになって、見る人もきっと冷めてしまうと思うんです。僕自身、人生で最も時間を使ってきたのが映画を見ることなので、映画的教養というか、なにが映画的かというセンスは、すごく意識している部分があります。結局、映画である以上“人”を描かなくてはいけない。街は、あくまで人々の人生を包み込んでくれるもの。都市のプロモーションでは決してないけど、見終わった後に自然と東京って素敵だなと思える映画にしたかった。なので、山下幸輝くんが演じる主人公リヒトの、あの台詞で映画を終わらせることは最初から決めていました」

 そんな東京愛を、世界に向けて発信したいという思いも制作意図の一つ。

「近年、史上空前の円安になったりして、かつての時代より日本の勢いが失われてきていますよね。一方で世界から多くの人が旅行に訪れるようにもなって、東京ってすごい!日本って素敵!と言ってくれる人たちが今、本当に多い。世界的な観点で見て、日本人って自己アピールがすごく苦手と言われますけど、もっと自分たちの事を積極的に肯定していいし、誇りに思っていいと思うんです。僕は、この映画を通して東京で、日本で生きる一人ひとりの人生を肯定したかった。夢が叶った人であろうと叶わなかった人であろうと、それが勝者と敗者を決めるわけじゃないと伝えたかったんです。だって現実で生きていれば、90%くらいが夢が叶わなかった人じゃないですか」

 夢に破れても、思いがけない壁に突き当たっても、東京で大切なものを再発見していく3人の主人公たち。街を夢中で駆け抜ける姿は、東京と一緒に輝いて見える。

「僕自身、失敗の見本市みたいなものですから(笑)。日本での高校も合わなくてドロップアウトしてしまい、当時ニュージーランドドルが弱かったこともあり、たまたま現地の高校に行くことになったんです。それが英語で勉強しているうちに、向こうのカルチャーにすっかりなじみまして。日本の学校では否定されることが多かったんですけど、あちらって、ささいなことでも本当に大袈裟に褒めてくれるんです。10代のころは、褒めてやる気にする海外式のスタイルが性に合ったみたいで(笑)」

 その後、アメリカの大学で映画を学ぶことに。

「ジョージ・ルーカス監督の伝記を読んで衝撃を受け、ルーカスが勉強したUSCの映画学科に進みたかったし、それがその当時の僕の大きな夢だったんですけど、きれいに落ちまして(笑)。そこで、サンフランシスコの大学の映画学科で学ぶ事になりました。でも、それが逆に自分の運命を切り開いてくれたり…と。こんな感じで、大学時代だけでなく、大人になってからも必死に挑戦を繰り返しては、その度に跳ね返されて、と…常に挫折の連続なんですけど(笑)、いろいろな道を経験したことで、メンタルも強くなりましたし、人生で起きる物事に対して一喜一憂しない大局的な見方ができるようになりました。映画作りにも人生においても、集中して掘り下げるミクロの視点と俯瞰で見るマクロの視点、両方で見ているところがありますね」

 映画に登場する東京というと、ビル群や雑踏、ネオン街などが定番だが、本作では「言われてみれば、東京ってこういう素敵な風景があるよね」と気づかせてくれる光景が、登場人物たちに寄り添っていく。

「今回、ある回想シーンの1シーンだけを除いて、東京でロケを行っています。何といってもタイトルが『TOKYO, I LOVE YOU』ですからね(笑)。映画全編、東京オールロケでなくてはいけないと思いました。映画だからこそ描ける夢のような東京も描きながら、一方で、映画やドラマに登場しがちな、いわゆるありきたりな“東京”ではなく、実際の東京に住む人たちのリアルな姿を映し出すことも意識しました。映画やドラマだとなぜか飲んだり食事するシーンだと、いつもお決まりの赤ちょうちんの居酒屋やネオン街が出てきますよね?でも、東京で生活していれば、実際はそんな側面ばかりではなくて。みんな、普通にブリティッシュパブでビール飲んだり、他の国で暮らす人たちと同じように緑あふれる公園に並ぶキッチンカーで買ったランチを、そのまま屋外のテラスで食べたりしますよね。だから、そういう現代の東京で暮らしている人たちのスタイリッシュでリアルな生活様式を正直に描く事には全編を通してこだわっていますね」

「まるで何かに呼ばれたように、ずっと作りたかった映画を撮ることができて、本当に満足している一方で、東京は描けば描くほど、もっと撮りたいと思う場所だと思いました」と中島央監督。彼を呼んだのは“東京”そのものなのかも? 見終わった後、一人ひとりが自分が愛する“東京”を思い浮かべるはずだ。
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)

ⓒTOKYO,I LOVE YOU FILM PARTNERS

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