“日本を元気にする鍵” 都内で奮闘する注目のスタートアップ企業

 東京都が都内の中小企業やスタートアップが開発した革新的で将来性のある商品や技術、サービスを表彰する「令和5年度 東京都ベンチャー技術大賞」の表彰式が11月20日、「産業交流展 2023」内で行われた。都市のインフラを支える工法、近年注目を集めているMixed Reality(複合現実)、医療分野におけるサービスや技術、家庭で活躍するロボットなど15の企業が受賞。小池都知事は「日本を元気にする鍵」と賞賛し期待を寄せている。受賞企業のなかから4企業に話を聞いた。

株式会社GATARI 竹下俊一 CEO

耳で没入するMixed Realityプラットフォーム「Auris」
エンタメを入口にビジネス領域へ広げたい

株式会社GATARI 竹下俊一 CEO


 東京都ベンチャー技術大賞の優秀賞を受賞した株式会社GATARI。日本発のMixed Reality(複合現実、以下MR)プラットフォーム「Auris」を提供するとともに、「Auris」を活用した空間体験の企画を行っている。竹下俊一CEOは「今後5年から10年をかけて、あらゆる空間がMRになっていくという。


ーー受賞を受けて、今の気持ちを教えてください。

 長年続いている賞をいただけたことを光栄に思います。僕たちは、Mixed Reality(以下、MR)」という世間一般には耳慣れないテクノロジーの普及啓蒙を行っているスタートアップなので、都から高く評価していただけたことは、MRを社会に広げていく意味でも価値があると感じています。

ーーMRについて教えてください。

フィジカルとデジタルがミックスしている状態をMRと呼びます。フィジカルというのは私たちが生活している空間のことを差していて、デジタルは自分の目では何も見えないのですがアプリを通して見るといろいろなものが置いてあるような空間です。フィジカルなモノとデジタルなモノがセットになって存在しているというのがMRの世界で、僕たちは今後5年から10年以上をかけて、あらゆる空間がMRになっていくと考えています。

ーー「Auris」によって私たちが受ける恩恵とはどんなことがあるのでしょうか。

 MRの主な使い方として3つあります。エンターテインメント、省人化、そしてどの様な立場の方も隔たりのない社会、インクルーシブ性の向上です。

 分かりやすく説明するためにインクルーシブ性の向上で例をあげますと、視覚障がいのある方を対象に「Auris」を活用することで、ユーザーが今どこにいて、何を見ていて、どのくらいそこにいるのかということをトラッキングし、位置や状況に合わせて音声で案内することが可能です。3次元的な位置や向き、滞在時間など、かなり精度高くトラッキングできますので、例えば盲導犬の代わりのようなことが可能になります。また、これを多言語で対応することでインバウンドの方にとっても快適なガイドが可能です。まるで隣りに人がいて場所や状況に合わせてエスコートしてくれるので、これをエンタメに活用すると例えば“”推し”にエスコートされるような体験を、業務に活かせば自動でいつでも案内をしてくれる教育や研修・訓練などに活用することができます。

 また、これまであげたようなユースケースを多層的に同じ空間で提供が可能です。例えば点字ブロックが視覚障がいのある方のバリアをクリアにする一方で、ベビーカーを押している人にとっては逆にバリアになることがあるといったように、フィジカルなアプローチだとこっちを便利にしようと思うと一方が不便になるといったことが起きてしまいますが、デジタル上であれば“特定の人のために置いた何か(データ)”はその特定の人にのみ提供することが可能ですし、それ以外の人たちには影響を与えることがない。公共空間の中にさまざまなプライベートな空間を作ることで誰もがそれぞれの目的で快適に過ごすことができる空間づくりを実現できます。

ー「Auris」の今後について教えてください。

「Auris」は“新しいエンターテインメントから未来のインフラをつくる”というスローガンを掲げています。初期にはエンターテインメントのユースケースが中心で、遊園地や商業施設、観光地、文化財などへの導入が主でしたが、様々な方にご体験いただく中で、今では公共福祉や研修、接客、点検など様々なユースケースが生まれてきております。

 スマートフォンの画面が必要に応じて、電話になったり、電卓になったり、ゲーム機になったりするように、これからはわたしたちが普段暮らす空間も必要に応じてさまざまな姿へ変化する時代が訪れます。
 
 リアルはデジタルでもっと楽しく、便利で、優しい場所になる。それを実現するのがMixed Reality (MR)です。MRには私たちがまだ気づいていないような可能性がたくさん眠っており、この広大なフロンティアの開拓は私たちだけでは到底なし得ません。あらゆる事業者やユーザーの方々とともに、未来のMixed Reality社会の当たり前となる新しい空間のあり方を一緒に見つけ、育てていきたいと思います。

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